愚行連鎖

■秘密

文庫本“四日間の奇蹟”には「このミステリーがすごい!」大賞に推した審査員による解説がある。

「ミステリーファンの多くが容易に指摘するであろう明らかな弱点があった。物語の核になる仕掛けが、ある人気作家の先行作品とほとんど同一の物だったのだ。」

解説者、茶木則雄氏は、続けて、

「問題の先行作品をも凌ぐ感銘--中略--を与えてくれるこの作品の素晴らしさを、高く評価したい。」

と記している。
果たして、本当なのだろうか。

2005.3.29.読了

秘密 秘密  文春文庫
東野圭吾 (著)
文庫: 452 p ; サイズ(cm): 15 x 11
出版社: 文芸春秋 ; ISBN: 4167110067 ; (2001/05)


どうしても、その「先行作品」を読んでみたくて、見つけたのがこれ。
(写真は文庫本の物。このカバーにも、単行本のカバーにはもっと「秘密」がある。)
解説者が言う先行作品とは、まず間違いなく、これであろう。
単行本初版が1998年と言うことなので、もう7年も前になる。

秘密 DVD そういえば当時、広末涼子主演でそんなテーマの映画もあったことを思い出した。
(広末にほとんど興味がないので意識の範疇外だった)
その映画が本作の映像化だったようだ。

非常に気になったのでビデオを探して見てしまったが…

書籍は、近所の書店で入手して一晩で一気に読んだ。

結論から言うと、この“秘密”と“四日間の奇蹟”が似ているとか似ていないとか言う視点で論ずるのは全く低次元である。
そもそも素材そのものはどこにでも転がっている物であり、どんな素材を使うか、それは創作者の自由なのだから。
これは似た素材を使いながら、全く質の異なる作品で、どちらも優れている。
そして、泣ける。

さて、“秘密”である。
この題名はラスト近くでその意味を明確にする。

広末の映画の予告編だけは覚えていたので、その印象で、大林宣彦の映画“転校生”のような、単純に「母と娘が入れ替わってしまう」コメディを想像していたのだが…

感動を得られるかどうか、ラストをどう捉えるか、それは全く個人の感受性の問題なので、もしかすれと、感動よりも怒り、というよりやりきれない気持ちを感じる読者も又あるかも知れない。
そんな結末である。
感受性によっては、「かなり重い」という感想を抱くかも知れない。
(事実、私にはかなり「重い話」と受け取れた。)

おそらく、置かれた環境、性差、独身者と既婚者、子供の有無等々によって受ける読後感は千差万別となるだろう。

「女性は、この展開と結末に涙し、男性は激怒する」と書かれた書評もあった。
しかしながら、私は昨晩の“四日間の奇蹟”に続いて、素直にまた今晩も泣いてしまった。

ただ、“四日間の奇蹟”は100%プラトニックな美しさを強調した作風であるのに比べ、こちら“秘密”は現実的な人間の欲望、葛藤なども10数年に渡る描写でかなり高い比重で描かれており、これが読者にどう印象されるかが非常に興味深い。
一つ言えるのは、“四日間の奇蹟”も“秘密”も、物語そのものへに対する感銘以前に、登場人物がどちらも全員「誠実」であると言うこと。
これだけでも今読むに値するのではないかと思う。

“四日間の奇蹟”
は“秘密”より書き手も10才ほど若いし、主人公も青年と身よりのない少女。
(…と、青年に思いを寄せるその後輩)

“秘密”
の方は主人公は中年の夫婦とその娘。

自ずと世界観も変わってくるのは当然だろう。
“四日間の奇蹟”の方はプラトニックでロマンチック。とても美しい。
“秘密”は夫婦話と言う絡みもあって、かなり現実的な話も出て来る。…というより、その現実的な話が核になっているといえなくもない…
こちらは決して美しいだけではない。

でも、話としてはどちらも「究極のラブストーリー」だと思うのだ。

どっちが好きか…
私はどちらかを選べないなぁ。

“秘密”に、怒り、やりきれない気持ちを感じる読者があるとしたら、それはまさしくラストで明かされる「秘密」についてだろう。
でも、私はその「秘密」も又、登場人物の誠実さからでたものであると理解し、決して嫌な感じは受けなかったのだ。

読み終わった両方をカミさんに渡し、是非読んでみて話を聞かせて欲しいと言っておいた。

☆某所に書き留めた日記より編集加筆



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