新・闘わないプログラマ No.65

プログラマの技量


もうすでに旧聞に属していますのでご存知の方も多いと思いますが、マイクロソフトが出した「Microsoft Windows NT 4.0 Server / UNIX サーバーオペレーティングシステム評価ガイド」という文書が評判になりました。NTとUNIXをサーバーにして使う場合に、どっちがどっちがどれだけ優れているか、というようなことを比較してあるのですが、これがもう、NTを持ち上げるために嘘八百、よくまあここまでというものです。
で、この文書(あの「ハロウィン文書」をもじって「エイプリルフール文書」などと呼ぶ人もいるみたいですが :-p)、社内でも何人かの人に見せて歩いていたのですが、「へ? これがどうかしたの?」って感じで何もわかっていない人と、目から涙流して笑い転げた人と、大きく二通りに別れました……もちろん、その中間の人もいますけど。で、笑い転げた方の人たちは、それなりに能力があって、新しい情報を積極的に取り入れて、という人なわけです。
そこで私は考えました。「この文書を読ませて、読んだ人がどれだけ笑い転げる(中には怒り出す人もいるかも)かで、その人物の能力(もちろんこの業界での)を計ることが出来るのではないか、と思ったりしたわけです。あ、これ、冗談でも皮肉でもなくて、本気で言っています。ね、本当に使えますよね。いやあ、しかしマイクロソフトもなかなか有益な文書を公表してくれて、もう笹塚には足を向けて眠れないです(あ、ここは皮肉です(^^;))
もしあなたが、仕事でどこかの会社にコンピュータシステムの開発を依頼するとして、向こうの担当者の技術力を知りたいときなんかにも使えますよね。まず第一のチェックポイント、相手がどれだけ笑うか……ちゃんとストップウォッチで計っておきましょう。相手が「アホくさ」とか言って読むのを止めようとしたら、すかさず間違いを指摘してもらいましょう。え? どこが間違いかわからない? 心配はいりません、何せほとんど全ての項目が間違いか、不適切な表現ですから。それでも心配な人は、この文書の修正版を作っていらっしゃる方がいますので、そちらをこっそりプリントアウトでもしておきましょう。

プログラマ(に限らないかも知れませんが)の技量を計る方法として、仕事に関連する文書を見せて、その誤りを指摘してもらい、適切な表現に直してもらう、というは、案外いい方法なのかも知れません。実際に仕事をやればその人がどの程度の能力をもっているのか分かりますけど、その前に知るには、間違い探しというのはお手軽で、しかも結構確実な手段のような気がしてきました。
よくよく考えてみると、私も以前、似たようがことをやったことがあることを思い出しました。C言語のプログラミングの経験がある、という中途入社の人物に対して、そいつがどれだけの能力があるか調べるためにこんなことをやりました。
世の中にC言語のテキストって星の数ほどありますが(そんなには無いか…)、その中でも「この人の書いた本だけは絶対に買ってはいけない」というので有名なM氏のテキストがなぜか職場にころがっていました。で、この本から適当に10ページばかり選び出し、件の中途入社の人物に「この本の、ここからここまでの間で、誤っている記述、誤解を与える表現、不適切な説明、といったものを挙げて、そこをどういうふうに直したらいいか考えなさい」という課題を与えました。制限時間は2時間。「えー、だって本になっているんだから間違いなんて無いんじゃないですかー?」という彼の言葉に一抹の不安を感じましたが、結果を見てみると、結構間違いを指摘しているし、どう直せばいいかもちゃんと書いている。まあ、合格ってところかな。噂の例の本ですから、彼が指摘した他にも、誤りは他にも山ほどあることはあったのですが、制限時間も短かったし、これだけ出来れば、というレベルだったのでほっとしました。
というわけで、悪書にもそれなりに使い道はあったりする、というわけですね(でも、あの本、誰が買ったんだろう……お金の無駄だよなあ)。

昔から、プログラマの能力を測る方法、というのは誰もが頭を悩ましていた問題なわけで、実際には天と地ほどもあるはずのその能力を無視して取り扱うのが、だいぶ前にこのコラムでも書いた「人月」という単位なわけです。こいつは一人のプログラマが一ヶ月働いた仕事量を現す単位なのですが……そんなもの、ねぇ。じゃあ、ってんで、プログラマが何行のプログラム(ステップ数と呼ぶ)を書いたかってので測ったりすることもありますけど、プログラムって、下手に書けば書くほど行数が増えるので、こんなのも意味がほとんどなかったりします。中には、サブルーチンを使わないで、同じことを何度も何度も書いて行数を稼ぐ、とか、無意味なコメントをやたら沢山書いたりして、なんてことやるやつが現れてくるし。
というわけで、そんなことで技量を測るくらいなら、マイクロソフトのその文書なり、三田センセ……あわわわ、いやいや、M先生のC言語のテキスト(古い方がベター)でも見せて、間違い探しでもさせた方がよっぽどいいのではないか、などと思ったりする今日このごろです。
ちなみに、私の技量は……聞かないで下さい。

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