新・闘わないプログラマ No.46

Sharewareって


いやぁ、本気でこんなことする奴がいるとは・・・・。

WinGrooveというソフトがあります。と言っても、私は知らなかったのですが。話によるとWindows上のMIDIのソフト(shareware)だそうです。ご承知の方もいらっしゃると思いますが、先週はこのソフトの話題が巷(と言ってもどこの「巷」なんだかよく分かりませんが(^^;))を駆け巡りました。
事の経緯は、「WinGroove作者が新たにディスク消去問題の詳細を公表」「WinGroove作者・中山裕基氏インタビュー」がよくまとまっていますので、ご存じない方はそれをご覧頂くといいと思います。
ただ、いつまで残っているのか分かりませんので、簡単に解説しておきます。もともとの発端は、WinGrooveというsharewareに、誤った登録IDとパスワードを入れると、ディスクが消去される、という噂が流れたことです。はじめのうちは、そんなばかな、とか、ウィルスに感染していたのでは、とか、うちではそんなことは起きなかった、とか、さまざまが情報が乱れ飛びました。結局は、WinGrooveのあるバージョン(β版だそうですが)に特定の登録IDとパスワードを入れると、ディスクが消去される、ということが確認されました。
みなさんご承知のことと思いますが、現在流通しているsharewareは、登録(registration)を行う前は、試用期間ということで、使える時間や機能が制限されているものが多いです。お金を払うことによって、この機能制限が解除される仕組みです。お金を払うと、作者から登録IDやパスワードと言った情報が送られてきますので、ユーザーはそれを使ってそのソフトウェアのregistrationを行うわけです。
このIDやパスワードが掲示板等で広く知られてしまえば、それを知った人はお金を払わずにそのソフトを使うことが出来てしまいますから、shareware作者としてみれば入ってくるはずのお金が入ってこないことになって、頭の痛い問題のはずです。

私なんかも「ソフトウェアの不正使用が発覚したら、そのソフトが自動的にハードディスクの内容を消去してしまう、なんてのいいかもね。不正使用の対抗策として」なんて冗談で言ったりしていたことはありましたが、実際にこんなコーディングをする人間がいるんですねぇ、世の中は広いというか、なんというか。
上のリンクから辿れる作者のインタビューで、作者は、誤ってディスク消去の機能が紛れ込んでしまった、というような趣旨のことを語っています。かなり疑わしいとは思いますが、これはもう真相は本人にしか分かりませんので、これ以上は新たな証拠なり証言なりが出てこない限りは、コメントしても仕方の無いことです。
まぁ、ディスク消去の機能をわざわざ作る、ということ自体、不思議というか、なにもそんなのわざわざ作って実験してみなくたって、と私は思います。この機能自体はそんな別にそんなに難しいものではないから、「実験」で作ってみた、というのはかなり不自然ですし、使うつもりが無いんだったら、普通作りませんよ、という類のものでしょう。
世の中のプログラマには、こういう機能を取り入れるという誘惑に駆られた人も、たぶんかなりいるとは思いますが、「それをやっちゃお終いよ」なわけで、そのやり口の悪どさ、やってしまったときの反響の大きさ、から、みんな踏みとどまった一線でもあるわけです。みんな、頭の中だけで考えている訳ですね、でもって、それで十分なわけです。わざわざ、本当に作って実験してみなくたって。

今回のこの事件(とあえて呼ばせていただきます)の議論を見ていると、「ソフトウェアの不正使用」の方に話をすりかえてしまうような議論も見受けられますが、「それはそれ、これはこれ」でしょう。作者が不正利用に悩んでいたからと言って、やっちゃいかんことはやっちゃいかんわけで。「緊急避難」だ、という人もいるようですが、その範囲を大きく逸脱していることは明らかです。法治国家である日本では私刑は認められてませんからね。
「不正なIDやらパスワードを入れなければ問題ないのだからいいじゃないか」という意見もありましたけど、私はこれにも同意できません。よしんば、正規利用者が不正IDを(誤って)入れる可能性が無視できるほど小さいとしても、「ディスク消去機能」なるものが入っているプログラムを使うこと自体、私は御免です。正規利用者であっても、プログラムのバグで、その機能が働き出さない、という保証はどこにもないわけですから。もちろん、どんなプログラムであれ、バグでディスクが消去される、という可能性は無いわけではありませんが、意図的にそういう機能が入っているプログラムと、そうでないプログラムでは、全然話は別です。
いずれにしても、この事件は、sharewareというものの評判を著しく落とした、ということは疑いの無いところです。

私、そもそもsharewareというものに、以前からあんまりいい印象は持っていませんでした。私だって、プログラム作ってメシの種にしているわけで、そういうことで儲けるのはけしからん、とか言うつもりは全くありません。でも、何というのか、うさんくささ、のようなものを感じてしまうんですね。
もちろん世間には、すばらしく出来のいいsharewareもたくさんあるのだろう、ということは分かります。今回の事件で一番迷惑したのは、そういったsharewareを作っている人たちなんでしょうね。Sharewareというだけで、十把一からげにされて。
でも、何と言ったらいいのか、「お金を取る」ということに対して安直に考えている人が多い、というか。偏見かも知れませんが、sharewareを作る動機として、お金が儲かるから、というのが真っ先に来ているような人も多いように思えます。
以前、確かNetNews(fj)で「sharewareを作りたいんですが、パスワードを入れると機能制限が解除されるやり方がわかりません。教えて下さい」なんていう質問があって、私はため息が出てしまいました。普通に、それなりのプログラムが作れる人なら、この質問の答えなんか、いくつか即座に思いつくはずなんですけどねぇ。「そんなことも分からんような奴がsharewareなんか作るんじゃない!」というところでしょうか。「それ以前に、ちゃんとお金の取れるプログラムを作る方に努力しましょうね」というようなフォローがあったように記憶しています。
まぁ、これなんか極端な例なのかも知れませんけど、UNIXのfreewareの文化なんかから見ると、ものすごく異質のことのように見えてしまいます。もちろん、UNIXでは、プログラムを流通させる上でソースを公開せざるを得ませんから、sharewareという考え方とは馴染まない、ということはありますが。
話はずれますが、ソースの公開というのは、そのプログラムの品質の向上、という面で大きな長所になります。作者が気づかなかったバグも、誰かが発見して(なおかつ、直して)くれたりもしますし、例えばUNIXの世界では、こういうことが頻繁に行われることによって、信頼性の高いプログラムが出来あがってきているわけです。あと、作者にとってソースを公開する、というのは、みっともないコーディングは出来ない、ということに繋がりますから、誰に見せても恥ずかしくないコーディングをしようとして、それがまた品質の向上にも(間接的に)寄与したりします。
Sharewareって、お金を取りますから、基本的にソースの公開は出来ないんですよね。公開している人もいるかも知れませんが、そうじゃないのが大部分だと思います。すると、上で挙げたような長所は享受できませんから、それはそれで大変なはずです。あまり安易にsharewareを作ろうなんて考えない方がいいと思うのです。これはよくやられている手法だと思いますが、初めはfreewareにして、ソースを公開して、みんなに使ってもらって、「これはお金を取ってもやってゆける」となって初めてsharewareにするくらいの気構えで行ってほしいものです。

いろいろ書きましたけど、今回の事件では、私は作者のことは一切弁護する気にはなれません。「本人も、間違った、と言っているんだから許してやれよ」と言う意見もありますが、それ以前の物の考え方がおかしいですから。

[前へ] [次へ]

[Home] [戻る]


mailto:lepton@amy.hi-ho.ne.jp