新・闘わないプログラマ No.468

著作権


先週は著作権に関する大きな話題が2つばかりありました。一つはいわずと知れたWinny裁判の判決です。そしてもうひとつは、「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」によるシンポジウムというやつです。
いずれについても、もうすでに多くの人がさまざまな感想や意見を述べているわけで、私がここでなにか言っても、たぶん何ら目新しい話にはならないと思いますので、思ったことをちょっとだけ書いてお茶を濁しておきます。

まずは、Winnyの件です。判決文の全文は(まだ?)見ることができないようですが、CNETの記事などでその内容を確認した限りでは「有罪にしないわけにいかないので仕方なく……」みたいな雰囲気が漂ってくるのですが、気のせいでしょうか。「純粋に法的に判断したら有罪にするのは難しいなあ。だけど諸般の事情を鑑みると有罪にしないわけにはいかないだろうし、ううむ困った困った」という裁判官の声が聞こえてきそうな……え? 「それは幻聴だろ」ですか? すみません。
まあ、でも罰金150万円などという「軽い」罪を着せたところで、あまり効果があるようには思えないのですが、どうなんでしょう? そんな罪に問うよりWinnyの改良でも命じたほうが有益な気がします。日本の裁判制度ではそういう判決を出すことが出来るのかどうか(たぶん出来ないような気が)という問題と、改良の余地があるのかどうかという問題はありますが。
Winnyの現時点での問題点として、私が知っている範囲では、

あたりでしょうか。ある程度は改良できなくはないとは思いますが、まあでもあまり効果は望めないでしょうかね、やっぱり。

次に、「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」によるシンポジウムとかいうやつについてです。日本においては作者の死後50年間とされている著作権保護期間を、70年に延長するかどうかという議論があります。世界の流れでは70年に延長の方向のようです。
いま時は、誰でも自分の著作物を公開できる手段を持っているわけで、ここにこうやって書いているこの駄文だって私の著作物と言えるわけで(まあ、私の場合には一応「商業ベースに乗っている」著作物もないわけではありませんが、それは置いておいて)、そういう意味では誰でもが著作権者になることができる時代ではあるわけです。そんな中、自分の死後50年だの70年だの「あなたの著作物の著作権は保護されます」などと言われても「はあ、そうですか」というのが大多数の意見ではないかと思います。あなたの著作物の著作権は22世紀まで保護されます、なんてことになっても戸惑ってしまいます。

さて、件の「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」のサイトにある「保護期間延長「賛成」「反対」それぞれのワケ」に賛成派・反対派それぞれの意見が載っています。ただ、このページの書き方、フェアじゃないです。賛成派が延長に賛成する理由を書いて、それに反対派が反論しているという構図になっています。その反対意見に対する賛成派による再反論は書かれていませんから、これだけ見ると延長反対派が理に適っているようにしか見えません。
「著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」自体には延長賛成派も反対派もいるようなので、どちらかに偏っているわけでは無いようですが。

さて、件のシンポジウムで、延長賛成派・反対派の意見に耳を傾けてみますと、反対派が論理的に主張を展開している(ように見える)一方、賛成派である漫画家の松本零士氏のことば、

「先人のご遺族から涙ながらに『私の主人の著作権はあと数年で切れます』と訴えかけられた時に、どんな気持ちだと思いますか」

「作家の全生命をかけた作品(の保護期間)が、短くていいはずはない。私は70年ですら短いと思っている。これは、何のために自分は作家になったのかという信念を考えた時に、どうしても譲れない一線」

「作家はお金の問題だけで仕事をしているわけではない。自分の信念をかけて、自分の表現したいものをより多くの人に受け取っていただきたい、共感を得ていただきたいと念じて仕事をしている」

を読むと、結局のところ賛成派は作家個人の心情を問題にしているに過ぎないように思えます。
ところで、著作権についての解説を読むと、まず最初に、

            ┌─著作財産権 (狭義の著作権)
    著作権─┤
            └─著作人格権

というようなことが書かれています。保護期間延長でいま問題なっているのはこれらのうち財産権のことだと思うのですが、松本氏の意見なら、人格権をきっちりと守っていけば(お金が絡まないだけに、財産権と違いおおむね守られていると思う)それでいいと思うのですが。
松本氏の描いた漫画が100年後にも1000年後にも「これは松本零士という人が19xx年に描いた漫画です」と紹介されれば著作者としての名誉は守られるわけで、それでいいんじゃないでしょうか。それとも、いままで自分の死後50年間子孫に払われてきた著作権使用料、それの支払いを70年に延長してもらわないと、自分は創作意欲が減退する、とか、著作者としての自分の名誉が損なわれる、とか、そういうことを主張したいのでしょうか。
「そういう理詰めの話じゃなくて、これは著作者としての自分の心情である」とかなっちゃうと、でもそれは法律で保護すべきものなのかどうか疑問は残ります。

というわけで、私自身としては「50年だって長いだろ、せいぜい10年もあればいいんじゃない?」くらいにしか思いません。え?「てめーの駄文なんざ、あっという間に商品価値も無くなるんだから、死後の保護期間なんてあったって無くたって一緒だろ?」ですか? すみません、返す言葉もございません。

[前へ] [次へ]

[Home] [戻る]


mailto:lepton@amy.hi-ho.ne.jp