新・闘わないプログラマ No.464

被害


原稿の校正は、紙に印刷して、赤ペンを使ってやるのが一番です。PCの画面上でやったほうが資源の無駄遣いにならない(……って、電気代がかかりますが)のですが、それだとPCが使えるところでしかできませんし、しかも画面を見ながらの校正は非常にやりづらいものです。
そんなわけで、その日も、原稿を印刷して外出時に持ち出し、出先で赤ペンでいろいろと書き込みながら校正を行っていました。

ぽと
「ん?」
ぽと、ぽと
「あれ? 水滴が……やっぱり染料インクは水には弱いなあ」

先日、家の(テキスト印刷用)プリンタを替えました。いままで使っていたのが顔料インクのプリンタで、替えたのが染料インクのプリンタです。校正に使うのが主な用途のプリンタですから「別に耐水性が無くても、黒の濃度が低くても、耐久性に劣っていても、校正で印刷するだけだから、顔料インクじゃなくたってかまわないだろう」ということで染料インクのプリンタを選択したのです。
その判断自体は間違ってはいないと思っていますが、水滴でかなり滲むあたり、やはり染料インクは耐水性が劣るなあ、と思ってしまったわけです。まあ、それはともかく……

「うわ、雨かな?」
ぼと、ぼとぼと、ぼとぼとぼとぼと、ざ、さざざざー
「うわあ、本降りじゃん。やばい、やばい、校正はきりあげて、どこかで雨宿りでも……って、あれ? ここって外だっけ?」
まもなく大手町、大手町。東西線・千代田線・半蔵門線・都営三田線はお乗換えです。
「って、よく考えたら地下鉄の電車の中じゃん。なぜに電車の中で雨が? それにこの雨、アルコールの匂いが……」

電車の座席に座っていたことにようやく気付いた私。「電車に乗っていたことを忘れるなんてこと無いだろ」と思われるかも知れませんが、集中して原稿を書いていたり校正していたりすると、一瞬、いま自分がどこにいるのかわからなくなってしまうことがあります(私だけですか?)。はっとして見上げてみると、網棚に載せてあった鞄から大量の液体が、私と、あと私の隣に座っていた女性少しばかり降り注いでいました。
「ええと、この鞄の持ち主は……」と、思ったちょうどその時、私の前に立っていたサラリーマン風オヤジがこの惨事を把握したらしく、慌てて鞄を網棚から引き摺り下ろしました。どうやらこのオヤジの持ち物だったようです。
件のオヤジ、鞄の中を調べ、それが終わると、ちょうど駅に着いて開いていたドアから一目散に逃げて行きました。ちょうどタイミングよくオヤジが電車から出た約0.37659347秒後にドアは閉まり、電車は動きだしました。そしてオヤジは逃げることに成功したわけです……よかったですね。
って、ちがうちがう。あまりのことに周囲は唖然。謝罪して「いまの液体はこれこれですから危険なものではありません」くらい言えば別にどうということはないのに、いったいこのオヤジ、どういう神経なんでしょうか。
一瞬、次の駅で「見知らぬ男に怪しい液体をかけられた。男はそのまま逃走した」とか言って騒ぎにしようか、などと思わないでもなかったのですが、そこまで当局(ってドコ?)に面倒をかけさせるのもなんだし、液体はたぶん酒だし、だいたいにしてそんなことで時間を取られるのもかなわん、ということで止めました。

さて、いまこの駄文を電車の中でノートPCを広げて書いているわけですが、酒が降り注いだのがノートPCを使っているときでなかったのが不幸中の幸いだったでしょうか。それにポケットに入れていた電話機とiPodも無事でした。まあ、ノートPCは、このようなときのために延長保障には加入しているとは言うものの、こういう場合にどれだけ保障されるのかいまいち見えないところがありますし、だいたいにして修理に時間がかかって手元にノートPCが無い期間が長引くと不便ですし。
ちなみに、私はこんな風に液体が降り注ぐ危険性や、網棚から荷物が降ってきてノートPCを直撃する危険性や、はたまた通路を歩いている人や荷物とぶつかる危険性を考慮して、ある程度以上混雑している電車の中ではノートPCを使わないことにはしてます。混雑している車内でノートPCを使うことはまわりの人にも迷惑ですしね。

そんなわけで、今回は印刷した原稿(と髪の毛・服)に酒を飲ませてしまった、という程度の被害で済みました。で、謝りもせずに逃げたオヤジに怒りを持ったというより、あまりの鮮やかな逃げっぷりに関心した、といいましょうか、唖然とした、といいましょうか、それよりなにより「ここに書くネタ見っけ」とでもいいましょうか。

[前へ] [次へ]

[Home] [戻る]


mailto:lepton@amy.hi-ho.ne.jp