新・闘わないプログラマ No.403

行進


私が原稿を書いた「開発の現場 vol.002」が、先日発売になりました。書いた原稿は、vol.001に続いて「Cの文法、理解していますか?」です。今回は、いまさらかも知れませんがC99がテーマです。これは1回で終わらせるつもりだったのですが、さすがに分量が多くて1回では書ききれず、残った分は次回にまわすことにしました。
一応、この「Cの文法、理解していますか?」という連載、当初の約束では「3回で」ということだったのですが、「止めないでください」という数多くの女性ファンからの熱い要望によって、もう少し続けることになりました ←嘘です ←言わなくても分かるって ←すみません。
で、「さて、この後、どんなことを書いていこうか」と思案中です。

さて、今回の雑誌自体の特集は「反デスマーチ大研究」です。その特集記事(20ページ)経由で、IT用語辞典e-Wordsにあるデスマーチについての解説を読みました。引用すると、

デスマーチ 【death march】
読み方 :デスマーチ

「死の行進」という意味の英語表現。IT業界ではシステム開発現場の過酷な労働環境を表す言葉として使う。
(中略)
もともと、軍隊での過酷な訓練のことを "death march" と呼んでいたが、Edward Yourdon氏の「Death March: The Complete Software Developer’s Guide to Surviving "Mission Impossible" Projects」(邦題:デスマーチ - なぜソフトウエア・プロジェクトは混乱するのか)で、混乱したソフト開発現場を "death march" と表現したことから、IT業界で一般的に用いられるようになった。

だそうで、デスマーチとはもともと軍隊での過酷な訓練のことを指していた、ということらしいのですが、私はこの説、初耳でした。その本は、実は読んでないので、そこの何と書かれているのかはわかりませんが。
「デスマーチ」と言えば、私などは“Bataan Death March”(バターン死の行進)が思い浮かぶわけでして、でもこれは「軍隊の過酷な訓練」とは違いますよね。ちなみに、「バターン死の行進」というのは何かというと(平凡社「世界大百科事典」より引用)、

バターン攻略作戦
太平洋戦争の開戦と同時に日本陸軍の第14軍(司令官本間雅晴中将)はフィリピンに進攻し, 1942年1月2日にはマニラを占領した。
(中略)
なお, バターン攻略作戦の終了直後, 日本軍は疲弊しきった捕虜を徒歩で移動させたため多数の死傷者を出し, また捕虜に対する暴行も行われたため, <バターン死の行進> として激しい非難を浴びた。

というようなことです。これについては必ずしも日本軍が一方的に悪かったのか、というと、自軍の食料すらままならない状況では、捕虜の扱いもそれなりにしかできようが無かった、という事情もあったわけで、でもそれは補給を軽視したツケが回ってきたとも言えるわけで、まあいろいろと微妙な問題も抱えていますから、この話はこの辺で止めて起きます。
まあ、とにかく、「死の行進」と言えば、日本人なら「バターン死の行進」を真っ先に思い浮かべるよね、という話でした。
さて、辞書・事典類で「デスマーチ」「death march」という単語がどのように解説されているか、いろいろと調べてみたのですが、私の手元にあるものでは、唯一、研究社「リーダーズ英和辞典」にありました。それによると、

death march
死の行進《主として戦争捕虜に強いられる過酷な条件下での行進》.

となっています。やっぱり「軍隊での過酷な訓練」という話は出てきません。それでは、困ったときにWikipedia、ということで今度はWikipediaで検索してみます。日本語のほうには特に項目無しなので、英語のほうで探してみると、Death marchという項目が見つかりました。

Death march

For the use of this term in the software development industry, see death march (software development)

In World War II history, a death march was a march or excursion that was expected to kill some or all the marchers, who were usually prisoners.

Several death marches occurred in the course of the Holocaust in Europe, often towards the end of the war. The idea behind the marches was to force prisoners to walk, at gunpoint, without food, water, shelter, or amenities; those who couldn't keep up were often shot. In Asia, the Japanese forces also conducted death marches, including the infamous Bataan Death March.

“In World War II history”と限定していますが“expected to kill some or all the marchers”って、殺すことが前提なんでしょうか。とにかく、ここでも“the marchers, who were usually prisoners”とありますから、捕虜(囚人も?)に対する行進と言っているようです。
で、具体例としてヨーロッパにおけるホロコーストと、アジアにおけるバターン死の行進が挙げられています。いずれにしても「軍隊での過酷な訓練」という解釈(語源)は出てきていません。
いや、もちろん“death”と“march”という一般的な単語を組み合わせただけですから、さまざまなところでさまざまな意味で使われているであろうことは想像できますが、e-Wordsの解説にある「もともと、軍隊での過酷な訓練」の「もともと」というほど語源に近いわけでは無さそうに思えます。実際のところはどうなんでしょう?
あと「死の行進」の用法で見つけたものと言えば「レミングの死の行進」でしょうか。レミングが集団で水に飛び込んで溺れ死ぬ、っていう例のあれですね。

というわけで、今週は「デスマーチ」に関する考察を……え?「コンピュータの何の関係もない話ばかりじゃん」ですか? すみません。
何せ、いま原稿の締め切りが迫っていまして、一人デスマーチ状態だったりしていまして、難しいことを考える気力が無かったり(←いつものことだけど)、というわけだったりするわけで。

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