新・闘わないプログラマ No.379

当たり前のことを当たり前に書く


去年の暮れに出した『「ネットワーク技術」勉強会』の本、「あまり売れてないかなあ」と思っていたのですが、なんとか増刷が決まったようでして、まあよかったかな、と思っています。私のほうから「こういう本を書きたい」と提案して書いた本だったので、これで全然売れなかったりしたらどうしようか、などと思ったりもしたものです。お買い上げいただいた皆さんには改めてお礼を申し上げます。
1冊の本が世に出るまでには数多くの人の手を経ているわけで、著者が勝手に「んな本売れなくてもいいや」なんていういい加減な気持ちで原稿を書くことは許されないと思います。ですので、この本に関しても、私は出せる力は出し切ったつもりです。などと書くと「力を出し切ってあの程度の(技術的)レベルかよ」というようなツッコミがあったりする可能性もあるわけですが、内容的に高度なものか、そうでないのか、というような話をしているわけではありません。入門レベルの内容の本だからと言って「んな簡単な本、俺だったら昼寝でもしている間に書けちゃうよ」というわけには行きません。確かに「難しいことを難しく書いた本」だけがいい本である、という価値判断をする方には相容れない本ではあると思います。まあ、人それぞれ判断基準は違いますから、これは仕方が無いでしょうね。

さて、この本に関しての反応や感想としては、私が設定した「想定読者層」に含まれるであろう読者の方々にはおおむね好評でした。これが私にとっては、この本を書いて一番うれしかったところです。
逆に、「いまいち」という評価として、私が見聞きしたものとしては、

  1. 内容が易しすぎる(難しすぎる)。
  2. 前回の本(アホでマヌケなプログラミング)みたいなのを期待してたのに。
  3. 会話形式がウザい。
  4. 当たり前のことを当たり前に書いているだけじゃん。

などがあります。1番目は、この本を手にされた方が私の思う想定読者層に入っていなかった、ということで、これについてはある意味仕方がないことですね。この『「ネットワーク技術」勉強会』のような目的を持った本は、読者の前提知識や知りたいことなどによりある程度読者層を絞り込まないといけないわけです。それでも、その読者層を出来る限り広く取れるようには努力して原稿を書いたつもり(←もちろんそのほうが売れるから)なのですが、どうしてもそこから外れてしまう人は出てきてしまいます。
次に2番目についてです。前作の『アホでマヌケなプログラミング』みたいな本なら、想定読者層をかなり広く取れます。しかし二番煎じはする気も無かったし、してもいいものが出来るとは思えなかったので、そういう本は書きませんでした。期待されていた方はごめんなさい、ということで。
3番目、確かに、そう思う人が出てくるとは思っていました。この本は「自習書」と呼んでもいいと思います。誰かの助けを借りて読んでいく「教科書」ではありません。ですので、基本的には、本の内部ですべてが完結できるように書かれています……もちろん私が想定している読者が持っているであろう前提知識は必要ですが。読者がたぶん持つであろう疑問も、可能な限り本の中で解決できるようにしたつもりです(もちろん完璧に解決することは不可能ですけど)。そのための有効な手段として「会話形式」というのを取り入れてみました。登場人物に質問や突っ込みをさせるわけです。余談ですが、この本、いくつかのところで教科書として使われるような話を聞きました。ううむ。
さて、最後です。「当たり前のことを当たり前に書いているだけ」ということですが、はい、そうです。そのとおりです。で、何がいけないんでしょ?

  1. 易しいことを難しく書く
  2. 難しいことを難しく書く
  3. 易しいことを易しく書く
  4. 難しいことを易しく書く

書き方としては、この4パターンがあるかと思います。1番目のような内容の本はとりあえず論外。2番目は普通ですね。よくあるでしょう、こういう本。そして、この範疇に入る本をありがたがる読者というのも、昔から一定数はいるようです。書かれている文章は難解であるほどいい、という考えですね。
で、私としては3番目と4番目の間くらいを狙って書いています。本当は4番目の「難しいことを易しく書く」をいつも実践しています、と胸を張って言えることができればいいのですが、これをやるのはむちゃくちゃ難しいことです。文章的にさらっと書かれていて、さらっと読めるものほど、実は書くのに多大な労力を必要とするのです。
私も、この本の原稿を書いていて、読者に理解してもらうために、ああでもない、こうでもない、と書いては消し、消しては書きを繰り返し、1日経っても何も進んでいなかった、なんてことが何度もありました。
そうやって書かれた「さらっと読める」文章は、傍から見れば「当たり前のことを当たり前に書いているだけ」と見えてしまうかも知れません。

あれ? ということは「当たり前のことを当たり前に書いているだけ」という私の本に対する感想は否定的意見だったんじゃなくて、もしかして実は褒め言葉だったのかしらん?
うん、そうだ。そういうことにしておこう。

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