新・闘わないプログラマ No.124

営業部長語録


「あん? カットオーバーの日を延期してくれだあ? そんなことじゃ、客に顔向けができねーんだよ。もっとまじめにやれよ、このやろー」
「なにい? いつまでも仕様が固まらないから開発が遅れた、っつーのかよ。人のせいにするんじゃねーよ。そこをなんとかするのが開発の仕事だろーが」
「出来あがって客に触ってもらったら、客から『もっとこうして欲しい』って要求が出るのはあたりまえだろー。そーゆーのも見越してスケジュールを立てるんだよ。ガキじゃあるまいし、そんなこと、ちゃんとやれ、っつーの」

「おい、おまえ、来週の客との打ち合わせで、例の件の資料が必要だから、用意しておけよ」
「なに? 来週は休みを取る? 海外に遊びに行って来るだあ。いい根性してるじゃねーか。人が仕事をしているときに、お前は、のほほんと海外か。いい身分だな」
「休みを取るのは従業員の権利だと? ほー、そーゆーのはなあ、一人前の仕事をしているやつの言うせりふなんだよ。お前のようなやつは休みなんか取らなくていいんだよ。それとも永久に休みにして欲しいか? それだったら今すぐくれてやるぞ」
「だいたい、お前が海外に遊びに行くカネ、誰が出してると思っているんだ。オレが営業で客から取ってきたカネなんだぞ。オレが必死になって取って来たカネで、おまえは海外旅行か、本当にいいご身分だな」

「なに? 開発費が足りない? 『このままだと、1億くらいの赤になる』だあ?」
「おまえら開発の人間には、コスト意識ってものが全くねーんだよ。どうせ、要らん機械を買いまくったり、使えんヤツに開発をさせたり、カネをドブに捨てるような真似ばかりしたんだろーが」
「だめだ、許さん。絶対に予算内に収めろ。お前ら全員、今月から給料はナシだ。赤字を出した責任を取れ」
「なんだとー? オレの交際費の使い方に文句を付けるつもりか? そのせいで赤字になったとでも言うのか? 交際費は、必要不可欠な営業費用なんだぞ。お前らには分かんねーだろーがな」
「とにかくこの案件は、専務がじきじきに見ているからな。そんな赤字を出したら、オレの首が…」

「おい、なんだよ。このシステムのトラブルは。客先の偉いさんはかんかんだぞ。どうしてくれる」
「サーバーのハード障害だ? そんないい訳は客には通用せんぞ。そのためにバックアップ機器を導入するとか、どうしてそういう設計にしねーんだよ」
「なんだ? 設計時に、予算が少ないからバックアップ機器は入れるな、と言ったのはこのオレだと? 知らん、知らんぞ、オレはそんなことは」
「とにかくだな、機器が故障しそうなことを事前にチェックして、壊れる前に直すのが、運用チームの仕事じゃねーのか」
「子供の使いじゃねーんだからよ。『はい、機器が故障しました』『はい、システムがダウンしました』で済むと思ってんのかよ」

「なんだと、開発が間に合わん? そんなことが許されると思っているかよ。お前、この世界で何年メシ食っているんだ?」
「このシステムの開発に遅れが出たら、どうなるか、そんなことくらい、バカなお前らにだってわかるだろーが。これが失敗したら、あの客と、その関連企業の仕事は全部、ライバル会社に持って行かれる危険性があるんだぞ」
「だから休みの日も出てきて必死に開発しているだと? そんなのあたりまえだろーが。プログラマは、徹夜させろ。毎日、徹夜させろ。一睡もさせるんじゃねー。死人が出たってかまわん。とにかく間に合わせるんだ。いいな」
「あ、それからな。逃亡者が出ないように、出勤してきたプログラマからは財布と定期券を取り上げろ。入り口に見張りも立てておけ。絶対に逃がすんじゃないぞ」
「人権問題? それがなんだって言うんだ。そんなもんじゃメシは食えねーんだよ。お前らの考えはアマいって言うんだよ。そんなことだからロクなシステムができねーんだよ」
「いいか? 何が起ころうと、このシステムだけは期限を遅らすわけにはいかないんだからな。それが出来なきゃ、おまえら全員、クビだ」

「おまえら開発のやつらと、おれら営業と、どっちがエラいと思ってんだよ。おれらがいなけりゃ、おまえらなんか仕事が無くて野垂れ死にする運命なんだかんな」
「まあな、要するにお前らのようなお気楽な開発の人間には、オレら営業がどれだけ苦労して仕事を取ってきているか、全くわかってねーんだよな」

(注) このお話に、特定のモデルはいません……たぶん。

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