実篤のブックカバーを求めて


 今から2年ほど前だと思うが山手線に乗っていたら、私の隣の隣ぐらいに立っている人が読んでいる文庫本のカバーが目に入った。まさかと思ってよく見ると、カバーには実篤の描いた野菜の絵が使われていた。そういうものがあると知らなかった私は、それをなんとかして手に入れたいと思ったが、どこのものかわからなかったし、探すにしても山手線沿線には書店は無数にあり、またその人がどこからか乗り換えて来たなら探索の範囲は無限に広がる。情報不足のため、そのときは探索を諦めざるをえなかった。

 昨秋偶然またそのブックカバーを見つけた。今回は京王線の中で、なんとか書店の名前の一部も読める。「・・鳥堂・・」「新橋2丁目」この2点を頭によく覚えこませて、下車してから手帳にメモした。ひと月もしないうちに新橋で人と会う機会ができたので、少し早目にでかけてその本屋を探すことにした。手がかりは番地と店名の一部だけ。SL広場に出て大通り沿いにぐるっとまわってみるが、それらしい本屋はない。奥まったところにあるのかもしれないと、一本路地に入ってゆっくり探す。交番があったのでちょっとまぬけだとは思ったが、「鳥と堂の字がつく本屋はこの近くにないか」と尋ねると、地図で一緒に探してくれた。するともう少し駅寄りに目的の書店はあった。「文鳥堂書店」。小さな店だが、レジを見るとたしかに実篤の絵のブックカバーがある。ブックカバーだけもらうわけにもいかないので、有島武郎の『一房の葡萄』(角川文庫)を買った。ようやく手に入れたブックカバーは、漂白していないざらざらした紙で、レンコンなどの野菜と「よく味はふ者の血とならん」という讃が茶一色で印刷されていた。

 新橋の他にも店舗があるようなので、文末に住所と店名を記しておく。無理してまで手に入れなければというアイテムではないが、近くまで行ったなら立ち寄られるのがよいと思う。今度は店名はわかるので「鳥と堂の字がつく本屋」などとかっこ悪い質問はしないですむだろう。

文鳥堂書店

牛込北町店牛込北町交差点際
四谷店四谷駅西口野原ビル1階
赤坂店赤坂TBS通り(2003年9月閉店)
新橋店新橋2丁目ブラザービル(2000年8月閉店)
原宿店明治通りルーセント原宿1階
飯田橋店飯田橋交差点際

(1999年3月14日:記)
(2004年6月27日:閉店時期を追記)



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