2007年集英社文庫「夏イチ」


毎年夏休みになると、「新潮文庫の100冊」や「角川文庫、夏の百冊」といった各社のキャンペーンで書店がにぎやかになる。新潮と角川は例年どおりのようだったが、今年(2007年)の「ナツイチ 夏の一冊 集英社文庫」はちょっと違った。初めての試みである、キャンペーン限定カバーをつくってきたのだ。対象は漱石の『こころ』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、そして実篤の『友情・初恋』。

カバーは女優・蒼井優の撮り下ろし写真。私は彼女のことを全く知らなかったのだが、若い層に人気があるようで、男性を中心にいわゆる「ジャケ買い」が続出した。これまで『友情』を読まなかった人まで、彼女のカバー欲しさに買っていったのだ。あるいは既に違う出版社の版で持っていても、もう1冊買うという人々もいた。blog検索で反響を見てみたが、いろいろな声があっておもしろかった。

友情;初恋 (集英社文庫)
武者小路 実篤
集英社 (1992/01)
売り上げランキング: 10528

これまで『友情』というと、新潮文庫か角川文庫、あるいは岩波文庫といったところがメジャーで、集英社文庫は目立たない存在だった。実篤の研究者・大津山国夫の解説と芥川賞作家・三田誠広の鑑賞を収録するなどしっかりとつくってはいたが、表紙があっさりしていて素っ気ない印象があった。もう1編が「初恋」という取り上げられることの少ない作品でもあり(角川文庫は「愛と死」を収録)、その存在は知られていなかったと思う。

しかし今回カバーを変えることで表舞台に登場した。限定カバーをそろえることが目的で、中身が問題にされていないとすればさびしいが、それでも買ってもらえれば読む可能性も増える。

先ほどAmazonで「友情」と検索したら、4番目に集英社文庫が出た(驚)。新潮文庫はその5つ下だった。

また、「ダ・ヴィンチ」2007年8月号に表紙撮影のときの話が載っていたが、撮影場所は 箱根湯本の老舗旅館・環翠楼だそうだ。アートディレクター・居山浩二も「ぜひジャケ買いしてください」と言っている。 (「ダ・ヴィンチ」の掲載は、third-gridのblogで知った。多謝。)

ダ・ヴィンチ 2007年 08月号 [雑誌]

メディアファクトリー (2007/07/06)

今年はインパクトのあった集英社文庫だが、来年も『友情・初恋』はラインナップに残ってほしい(新潮と角川の100冊から実篤作品は落ちてしまった)。そのとき表紙はまたあの地味なものに戻ってしまうのだろうか。それがちょっと心配(残念)だが。

(2007/9/2)

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