書展


 実篤の書のコレクションと、彼自身の書の展示。大きなガラスケースの大半はコレクションにあてている。絶海中津、兀庵普寧、夢窓疎石、慈雲、一休、良寛、鉄斎などなど。いつもの展観と違う感じで、これだけ見ているとどこの美術館かわからないくらいだ。
 掛かっているものの中では、絶海中津の「菴」の字と泰山経峪磨崖金剛経の「蜜」の字(拓本)がおもしろかった。別に詳しいわけではないが、墨蹟はいい。見ていると静かな気持ちになる。

 それら名筆に比べると、実篤の書はまだまだだ。「寒山詩」があったが、字がもったりしていて全然違う。ただし絵につける讃になると力を得るような気がする。あるいは自分の言葉で書かないとだめなのだろうか。寒山詩の隣に「もう一歩」という書があったが、これは自分のことばだけに、書にも彼なりの風格が出てきている。

いかなる時にも自分は思ふ
もう一歩
今が一番大事な時だ
もう一歩

 ここでは意味の切れ目で改行したが、実際には紙の最後まできて書けなくなったところで改行するという武者流である。記念館のポスターにも彼の書があるが、それも

自然
は不
思議

というかまわなさだ(いずれも実物は縦書き)。

 いつもの展示に比べると質量ともにもう少しという感じを受けたのは、急ぎ足で見たせいだけではないと思う。せっかちな実篤にとって、書は不得意な分野だったのではないだろうか。絵は描きたいところから重点的に描く。書は右から順番に書く。彼のリズムや勢いは定型の枠を嫌い、むしろ絵や讃や自分のことばの方に出やすかったのではないかと後知恵ながら考えてみる。

 公園は木が鬱蒼と茂り、昼なお暗い。記念館から公園へのトンネルの入口では、萩がちらほらと赤い花をつけていた。夕方帰る頃には近くの林から蜩の声がした。

(1998年7月18日見学)

(1998年7月22日:記)


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