実篤素描展


 初日に見学するのは、本当に久しぶり。
 小は15センチ×7センチくらいから、大はB4大くらいまで、スケッチ帖がたくさんある。ごく普通のどこにでも売っているものだ。今回は素描展ということで、紙と鉛筆によるスケッチが大半。一部紙本墨画(淡彩)もあり。

自画像
 展示された自画像を見る。74歳のときのもの、84歳のときのもの。手近にあるものを描くのが楽だからといって、これだけ自画像を描いているのに、ちょっとそういう手軽さとはまったく違う感触を得た。自分が老いていくことを鏡の中に見つめ、それをスケッチ帖に定着していくという作業は、どういうものなのだろうか。それは30過ぎの私の想像などおよびもしないだろうが、おそろしくシビアなものではないのだろうか。それともそんなことにはまったく頓着していなかったのだろうか。

裸婦
 武者小路が裸婦を描いていたというのも、ちょっと記憶になく珍しく感じた(1930年代)。だいぶしっかり描けていると思う。ただ、肩からひざまではしっかり描いているのだが、ひざから下が極端に短いのと(これは当時の日本人の体型のせいではないと思う)、顔の描き方がぞんざいだ。肩からひざまでが関心事で、そこまでで力尽きたように見える。

個人的な好み
 今回の展示の中から、個人的な絵の好みを単純に挙げてみる。
 一番は「ロダンの小さなスフィンクスのスケッチ」3点。元の像がいいのかもしれないが、丁寧にスケッチされていて、フォルムの美しさがきれいに表現されている。像への武者小路の思い入れが出ているような気がする。元の像自体、私好みなのかもしれないが、以前記念館で実物を見たときよりもこのデッサンの方が印象が強い。
 次いで「安子像スケッチ」。美しいお顔立ちがきれいに写し取られている。ほんと美人だったんですね、安子さん。
 他には、「自然之傑作集」がおもしろい。屏風に墨と淡彩で春を中心とした花と実などが描かれていて、脇に描いた日付が書かれている。少しずつ描き足されていて、それも楽しい。題名通り、すばらしいと感じたものを描いているので、みなすばらしく見える。

 和のコーナーに行くと、入り口に「木蓮」。とても季節にぴったりしていて、記念館の人の心遣いがとてもうれしかった。その季節々々に見ると、また画もすばらしく見える。

 この日はけっこう人も多かった。休憩コーナーのサイン帳をちらっと見ると、子どもたちには公園の池の鯉が大人気。「えさをやったのが楽しかった」とみんな書いている。
 外に出る。梅は終わり、ユキヤナギが五分咲き。駐車場側にあるミモザ?(黄色い花だったが匂いがしないので違うかもしれない)が満開だった。
 記念館から公園への階段を上がったところで、コブシが目に飛び込んできた。春の訪れを告げるコブシ。こんなところにあったとは知らなかっただけに、不意打ちにあったような驚きと、喜びがあった。
 このところの陽気で水があたたまったのか、鯉が元気に泳いでいた。この前来たときはまったく見えなかったが、マス1匹確認。

(1997年3月8日見学)




ホームページへ戻る記念館のページへ戻る

(C) KONISHI Satoshi