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おめでたき日々

(2003年2月)
今月のことば:「休養と栄養」


2003年2月23日

ゴッホ「農婦」始末

●「中川一政コレクション」オークションに出品されたゴッホ「農婦」については、マスコミで大々的に報じられた。結局6,600万円で競り落とされたが、主なニュースは以下の通りである。今日現在で読める記事を選んだ。時間が経つにつれて読めなくなる記事もあると思われる。

●報じられたところを整理すると、概略次のようになる。

●それを承けて個人のwebページや掲示板では、その金額の高さや作家名がわかった瞬間の高騰への驚きや失望などが表明されていたが、そんなに批判的な意見ばかりだったわけでもないように感じた。「1万円で買った絵が6600万円で売れた」と誤解している人もいるが、1万円は「落札予想価格」である。それぐらいで売れるのではないかという値段であって、仕入の価格ではない。「今回はオークッション会社がうまく仕込んだと思います。それくらい出来なくてはプロではないと思います。」「オークッションハウスは初めから99%の確信であの絵を見ていたはすです。」「それにしても上手くマスコミを乗せて、日本人を上手く誘導したのには関心しました。かと言って反感は持たず、むしろブラボーと言って置きたいです。」という意見も見つけた。
●「2月15日付・よみうり寸評」では「俗世間の騒ぎに、存命なら、どんな当意即妙のユーモアが飛び出しただろうか。」と振り返り、橋本高知県知事のメールマガジン「平成15年2月15日 NO.57 ゴッホの価値」でも、「くどいようですが、幾らでお買い求めになろうがそれは買われた方のご自由ですから、そのことに文句を言うつもりはありません。ただ、ゴッホという名前と話題性だけに人が集まるのかと思うと、ルイ・ヴィトンの世界の売り上げの大半を日本人が担っているという話と重なりあって、どこかさみしい気がしました。」と書くなど、様々な反応が示された。

●1週間たってから日経新聞に掲載された「ゴッホ神話健在 検証中川一政コレクション競売」(2003年2月15日付、竹田博志編集委員)という記事は、冷静に今回の出来事を整理した良い記事だと思う。作品じたいの分析もさることながら、それを所蔵していた中川一政についてきちんと言及している。
●私が下見会で実物を見た限りでは(過熱報道の前で、ゆったり見ることができた)、生意気にもそういい絵だとは思わなかった。いかにもゴッホという感じがして、それ以上の印象を得られなかったからだ。絵を修復すればゴッホの真作として価値が上がるのだろうが、そこまですることと今回の落札価格は私の中ではつり合わない。

●それよりも残念なのは、私じしんも「ゴッホ!」「落札価格は?」という狂騒に巻き込まれて、それが「中川一政」のコレクションだったことを忘れてしまったことだ。一政がその絵に何を見て何を吸収したかこそが重要で、その「しぼりカス」がいくらになるかということなどは、「武者組」的には何の価値もないはずなのだ。それはマジョリカの壷もルオーの絵も同じことで、競りに関心のない冷やかしの客なればこそ、値札など忘れて作品そのものを鑑賞すべきであったと思う。いくつかの書や俑など純粋に「いいなぁ」と思えたのは少しは鑑賞眼が残っていたからだが、値札などに惑わされない超然たる態度をいつでもとれるよう修行したいものだ。
●反省の意味をこめて、中川一政の本を紹介しておく。中公文庫の本は独特な味があり、また画家ならではの新鮮な見方考え方が示されていておもしろかった。

2003年2月16日

「出没!アド街ック天国」仙川

●先週(2/8)の「出没!アド街ック天国」(テレビ東京系)で仙川がとり上げられた。毎回一つの街をとり上げて独自に決めたベスト30を紹介していく番組だが、テンポよく進行してなかなかおもしろいのでときどき見ている。
●だいぶ前に「調布」の回があり、そのとき仙川商店街や実篤公園が出てきたはずだ(そのときのベスト10を見る)。今回は仙川単独で1時間番組になるということで、地元は少なからず盛り上がっていたようだ。
ベスト30は番組のホームページで見ることができるが、第3位に「武者小路実篤」が入っていた。3位という高ランクの割には紹介された内容が少なかったと思うが、仙川に実篤ありを広く知らしめたのは良かったと思う。ちなみに第2位はスーパーマーケット、第1位は桐朋学園&白百合女子大学だった。
●番組の反応をいろいろな掲示板で見てみると、ベスト30の選び方に不満のある人も多いが(調布の回で出たせいか、「南瓜最中」の藤屋などは登場しない)、知っている場所がいつ出るかとテレビに釘付けになっていた人も多く、おおむね好評だったように思う。聞くところによると、放送日翌日の仙川は人出が多くとても混雑したそうだ。

所蔵作品の交換展示

●福島県立美術館(福島市)と新潟県立近代美術館(長岡市)の間で所蔵品を交換した展示会が開かれている。福島から新潟に貸し出した作品としては、アンドリュー・ワイエスやルオー、関根正二、斎藤清、岸田劉生「自画像」(1914)「静物(白き花瓶と台皿と林檎四個)(1918)「天地創造」(版画)(1914)、木村荘八「樹の下に遊んでいる子供」(1915)など。「福島県立美術館コレクション展」として2月15日(土)〜3月23日(日)まで。
●同じ会期で、福島県立美術館では「新潟県立近代美術館所蔵 日本近代美術の名作展」が開かれている。こちらには、横山大観、土田麦僊、小林古径、浅井忠、岸田劉生「冬枯れの道路」(1916)、梅原龍三郎「紫禁城」(1942)などが展示される。近くの方はいつもとちょっと違う作品を見てほしい。こういった試みがもっと広がると良いと思う。
(情報源:福島民報 2003/02/15「きょうから交換展示/福島・新潟美術館/美の交流」)

2003年2月8日

●「中川一政コレクション」オークションに出品された、ゴッホ「農婦」は6,600万円で落札されたそうだ。落札したのは、以前岸田劉生「毛糸肩掛せる麗子肖像」を3億6,000万円で落札しているウッドワン美術館(広島県)館長の中本利夫氏。住建美術館を改称したようだ。
●私はNHKのニュースで速報を見たが、新聞では朝日新聞毎日新聞読売新聞産経新聞と報じられている。また、テレビニュースの動画配信では、TBS News i(TBS)NNN24.com(日本テレビ)ANNニュース(テレビ朝日)で見ることができる(ブロードバンド環境が必要)。

『七人の武蔵』その6 訂正本到着

●今日角川書店から『七人の武蔵』の訂正本が届いた。訂正前のものは交換用に送ってしまったので比較は出来ないが、おおむね違いは次の通り。

●まずはこれで一段落と言ったところか。珍しいものが手に入ったが、本来なら実篤の作品が文庫本で発売される数少ない機会だったのに、「非売品」になってしまったのが惜しまれる。

●将来図書館や古本屋などで『七人の武蔵』を手にされる方に伝言(もしもこのページを見ることがあれば)。
●そこにある武者小路実篤「宮本武蔵」は、直木三十五の作品ですよ。なんとなく実篤のようにも見えますが、実篤の「宮本武蔵」の書き出しは「慶長十五年四月十三日、宮本武蔵はいつもとちがって日が高くなるまで起きて来なかった。」ですよ。「玄関の次へくると、奥の部屋まで、開けっ放しだった。」で始まるのは、直木三十五の「宮本武蔵」ですよ。

2003年2月7日

「中川一政コレクション」オークション下見会に行ってきたので、見学レポートを書きました。ゴッホ出品でにわかに注目が集まり、明日のオークション結果が気になります。

2003年2月4日

岩波文庫の新刊、『友情』!!

●たしかに『小僧の神様』や『破戒』や『山椒太夫 高瀬舟』が「新刊」になっていたのだから、驚くべきことではないかもしれないが、「図書」(岩波書店)2月号で3月予定の岩波文庫に『友情』を見つけたときには、さすがにびっくりした。
●今日、紀伊国屋書店新宿南店でひさしぶりに「抜き打ち調査」をしたが、新潮文庫『友情』『愛と死』『真理先生』各2冊、『詩集』『人生論』『お目出たき人』各1冊、角川文庫『友情・愛と死』『詩集』『人生論』各1冊ときて、岩波文庫の『友情』が1冊も見当たらなかったのがちょっと気になっていた。オンライン書店を見ると、Amazonでは扱っていなかった(でもbk1では取り寄せ可の表示)岩波書店のサイトでは「重版中」となっていた。
●たぶんまったく変わっていないと思うが、出たら見てみなければなるまい。ページ数が180ページとなっていて、今のもの(解説まで入れて134ページ)より増えているのが気にかかる。

●ついでに岩波書店のサイトをちょっと見るが、「写真で見る岩波書店」の中の「総合雑誌『世界』創刊(1946年1月1日)」には、同心会と岩波書店の共同で「世界」が創刊されたと紹介されていた。
●また「岩波テーマ館」の「絵画の世界」では、いちばん下に劉生の『初期肉筆浮世絵』が出ていた。こんなのあったかしらんと見ると、これから(2月20日に)出る復刻版だった。15,000円ではとてもとても手が出ない。

2003年2月2日

●NHK教育テレビ「新日曜美術館」の“アートシーン”で、「木村荘八展 東京繁昌記の挿絵を中心に」(小杉放菴記念日光美術館)が紹介されていた。明治26年生まれ。少年時代のスケッチで、兄(木村荘太?)のところに来た文学者達を描いたものがあった。小山内、大貫(?)、和辻、谷崎の名前が見え、谷崎はまわりに空の徳利を並べて、鬼のような感じで描かれていたのが意外だった。展示作品一覧にある「1911年のスケッチ帳」がそれだろうか。谷崎25歳、荘八18歳の年だ。谷崎は1886年の生まれだから実篤より1つ年下だが、接点が思い当たらないため、どうも違う時代の人と思いがちだ。

●このページもだいぶ日記的になってきたので、毎回更新をお知らせするのはどうかと思い、しばらく「早馬」をお休みすることにした。購読者の皆さんへは通知済み。

●これまで「Blink」に記録していたリンク集を、確認しながら「武者をたずねて三千ページ」に移動中。さまざまなページが出てくるので、ときおり参照していただけるとありがたい。

2003年2月1日

橋本図書館にて

●先日用事の帰りに相模原市立橋本図書館に寄った。橋本駅の隣で便がいい。新しい図書館だけに設備はすばらしい。高圧的なガードマンが入口に立っているのはいただけないが(図書館にいるか、ふつー)、本をパラパラと見る。
●まだ本棚がこなれていない感じがして、いかにもとりあえずそろえました風な雰囲気。おかげで他の図書館なら閉架書庫にあるような『木下利玄全集』(歌集篇、散文篇。昭和15年3月、弘文堂書房)も開架にあって、手に取ることができた。実篤の装幀で、月報には「白樺」とその周辺の綺羅星のような人々がメッセージを寄せている。思わず欲しいと思ってしまった。
●タイトルだけは知っていた『日本文学の中の障害者像 近・現代篇』(花田春兆編著、2002年3月、明石書房)もあったので、中を見てみる。実篤の「その妹」が主人公が盲目という理由で5ページほどとりあげられているが、特段見るべきものはない。取り上げる作品が「或阿呆の一生」「丹下左膳」「風立ちぬ」「人間失格」と、どうもピンと来ない。
『東京文学探訪 明治を見る、歩く(下)』(井上謙、2002年7月、日本放送出版協会)を見る。上巻しか書店で見かけなかったのだが、下巻もちゃんと出ていたようだ。「第29章 『白樺』の誕生」として、有島兄弟や実篤の家のあった千代田区番町が紹介されていた。実篤の「お目出たき人」を中心に四ッ谷駅から半蔵門駅までが書かれているが、実篤の生家、そこを出て初めて借りた家、有島兄弟の旧居、泉鏡花・島崎藤村・滝廉太郎・国木田独歩・菊池寛らの旧跡が出てくる。地図があるのがありがたい。2001年の7月〜9月にNHKラジオで放送された講座のテキストに加筆したもの。テキストはすぐになくなってしまうが、こんなかたちで残ってくれるとありがたい。

『小津安二郎 新発見』

今年は小津生誕100周年ということで、いろいろなイベントがあるらしい。その中で『小津安二郎 新発見』(松竹編、講談社+α文庫、2002年12月)という本が出ていたので、立ち読み。小津は志賀・里見関係で要チェック人物なのだ。
●10ページに卯年(1963年)にちなんで(ウサギのまねして)ジャンプという写真があった。実篤にも卯年にジャンプしている写真があったはずと、帰ってから確認したら同じ昭和38年だった。ひょっとしてこの年にそういうことが流行ったのか、文化人のユーモアというのはこういうものなのか。
●小津組プロデューサという肩書きで、里見とん^の四男・山内静夫氏も書いていた。とん^にならって、小津も道化るようになったとか。尊敬する志賀直哉とのツーショットもあった。小津作品には志賀の作品の一部が下敷きに使われているところもあるそうだが、里見とん^の原作では「秋日和」「彼岸花」がある。小津全作品の紹介もあったので、そこでこの2つの作品の概要も見ることができた。

(「とん^」というのは「武者組」独自の表記で、JIS第二水準までにない文字は、ひらがなで表記して、ほんとうは違う漢字があるのだという意味でその後ろに「^」をつけている。さらに詳しくは「外字の扱いについて」を参照願いたい。

『直木三十五全集 第13巻』

●『七人の武蔵』関係で、直木「武蔵」の出典を読んでみた。『直木三十五全集 第13巻 中短編小説集 下』。示人社から平成3年7月に出たものだが、昭和10年5月の改造社版全集の復刻のようだ。昔のままで活字が古く、かすれて読みにくい。角川文庫で読まなければ、あそこまでおもしろいと思ったかわからない。
●「宮本武蔵」と同じ趣向のインタビュー小説「河合又五郎に話を聞く」を読んだが、直木「武蔵」とは格調が違いすぎる。低すぎる。「今夜は、わざ/\お忙しい所を、お越し下さいまして有難う存じます。私が直木で御座います」「速記を校正する時に、消してをきますよ」と、ひねり方も当時としては新しかったのかもしれないが、今では面白くもなんともない。同じ現代の視点から歴史上の人物を見るという話では、「宮本武蔵」の方が数段成功している。
●ほかにも「明智光秀会見記」という作品があるらしいが(縄田一男編『剣豪列伝 宮本武蔵』解説)、この路線はこれで終了。なお、直木三十五については、P.L.Bさん作成の「直木賞のすべて」というホームページの中で略歴や著作目録などが紹介されている。ひじょうによくつくられたサイトだ。

『近代つくりかえ忠臣蔵』

『近代つくりかえ忠臣蔵』(日高昭二編、2002年12月、岩波書店)を、実篤の「木龍忠臣蔵」芥川龍之介「或日の大石内蔵之助」を中心に拾い読み。十一段(章)14作品からなるアンソロジーだが、装幀がさびしくてどうもアンソロジーに期待するワクワク感がない。巻末の解説がこれまた歴史の教科書のようなかちっとしたもの。明治6年2月の太政官府「復讐禁止令」と昭和20年12月のGHQによる「敵討・心中物上演禁止」の指令、この2つの禁止令のあいだで、多彩なステージを繰り広げてきた、と歴史をきちんと整理しているが、「忠臣蔵」に読者が期待しているのはこういうものではないだろう。その点、縄田氏や磯貝氏の仕事はすばらしい。
●実篤の「木龍忠臣蔵」(戯曲)は江戸時代の討ち入りそのものではなく、室町時代に背景を変えた歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」を踏襲した設定。だから主人公は内蔵之助ではなくて「由良之助」。全9場のうち、最初の「本蔵の家の場」が全文収録されている。「仮名手本」がベースのため耳慣れない登場人物にあれっと思うが、やがて実篤の話術にとりこまれて、一場の終わりごろには違和感がなくなっているのがおもしろい。


●川崎市某所の古本屋で『追悼 素顔の里見とん^』(別冊かまくら春秋、昭和48年12月、かまくら春秋社)を450円で購入。いろいろな人が追悼文を寄せているが、それよりも目に入ったのは巻頭の写真集。呵呵と笑う様がいかにも彼らしい。笑い顔がとても似合うと思った。

昨年末の話だが、多摩美大生がつくった映像が京王線新宿駅で流されていたそうだ。仙川駅周辺を素材に4本のビデオ(各15秒)を作成して、その1本が「実篤公園」だったそうだ。残念ながら見逃したが、仙川駅と新宿駅にしかポスターを貼らなかったらしく、せめて隣のつつじヶ丘駅ぐらいには貼って欲しかった。

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