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おめでたき日々

(2002年4月)


2002年4月30日

●実篤記念館のひとつ前の展示「装幀の世界」の見学レポートを登録した。装幀をめぐる画家と作家の関係は、漱石と浅井忠、津田青楓、橋口五葉、芥川と小穴隆一等の例もあり、直接的なものではないと思うが、影響関係などをこれからも注目していきたい。実篤と岸田劉生については注目されていたが、中川一政や梅原龍三郎といったところに興味がある。

●岩波文庫の新刊リストを見ていたら、「重版出来」として「一房の葡萄他四篇」(4月上旬出来)「平塚らいてう評論集」(小林登美枝、米田佐代子編、3月上旬出来)が挙げられていた。
●5月下旬には2002年春の岩波文庫フェアが開催され、白樺関連では前述の「一房の葡萄」と里見とん^「道元禅師の話」が入っている。後者はかなりシブい選だが、里見の代表作とは言えないので気に入った方のみ読まれるのが良いと思う。私は同じく岩波文庫の「文章の話」に続いて読んだので、彼の創作姿勢などをあわせて読み取ることができたが、いきなり読むとかなり退屈かもしれない。

●岸田劉生の孫で画家の岸田夏子氏の新刊が、4月上旬に出ていたので情報のみ(実物は未見)。『記憶の約束 岸田夏子画文集』(求龍堂)谷川俊太郎の詩も入った、「初の画文集」だそうだ。八ケ岳南麓清春の桜を25年描き続けているそうで、そのあたりの話は、朝日新聞「Mytown山梨」でも読むことができる。また、その絵が飾られているレストランの話も別のサイトで読める。

●京王線仙川駅前は現在工事中だが、その工事用の囲いに「せんがわうつし」という作品が描かれている。多摩美術大学の吉橋昭夫氏と学生によるものだが、仙川の昔と今の写真がちりばめられている。その中に2点ほど実篤の写真がある。知らずにベンチに腰掛けたら正面にあってびっくりした。仙川へ行かれる方は工事中だけのものなので、まずはチェックを。

2002年4月21日

●実篤記念館の館報「美愛眞」第2号に載っていた、兵庫県立美術館の「美術館の夢」展だが、白樺美術館(完成せず)の部分はとても興味がある。近くの方は「ストリート・アートナビ」というサイト招待券のプレゼントもあったので応募されてはどうだろうか

●4月14日付け産経新聞で、日本民藝館のリニューアルオープンが紹介されていた。記事によると、修復の費用1億円のほとんどが寄付や募金でまかなわれたこと、予想以上に傷みがひどく、まだまだ修復を要することなどが書かれていた。柳は民藝運動に政府の援助を受けていないことを誇りとしていたが、前述の白樺美術館も民間からの美術館建設運動であった。今となっては「白樺」もひとつの権威となってしまい、受け取る側には「反官」の意識はなくなってしまったが、忘れてしまってはいけないのだろう。なお記事は、以前紹介した「ichimy」で「美術」をキーワードにすると読むことができる。

●「みやざきの101人」というwebページがあって、そこに武者小路房子も紹介されていた。よくある簡単な名士一覧かと思ったが、意外としっかり書かれていて、入村65年目ごろ(1983年頃)の写真もあった。1990年没とあるので、つい最近までご存命だったのだ。かの荒俣宏氏もインタビューをしているし(文庫版「白樺記」では割愛されている)、我々とかさなって生きた部分も多いのだ。

●「出雲大社宮司の千家尊祀氏死去」という記事をアサヒコムで見た。神職の最高の称号「長老」を贈られたりと、すごい人物だったようだ。この血脈に千家元麿もつながっているのである。なお、苗字はふりがなもついていたが「せんけ」ではなく、「せんげ」である。さりげなく「せんげもとまろ」とか読むと“通”に見えるかもしれない。

●「早馬」の紹介ページを作成しました。「早馬」って何?という方は、ご参照ください。

2002年4月13日

●今年度の実篤記念館の展示予定を入手したので、記念館のページに登録した。今年の春の特別展は「描くということ」(4月27日〜6月2日)。新しく見つかった学習院時代の課題画(美術の時間に描いた絵)を起点に、白樺同人の絵画と描くことを取り上げていくそうだ。実篤以外にも長与善郎や志賀直哉、里見とん^も絵を描いていて、意外な面が見られるかもしれない。つつじヶ丘駅の掲示板にはポスターが貼り出されているが、初めて見る中等科時代の実篤の絵は後年のそれとは大きく違っていて、とても新鮮かつ驚きのあるものだ。
●秋の特別展は「仙川の家」。毎年新鮮な展示を企画される記念館の方々には敬意を表したい。通常展は出展リストだけだが、特別展ではパンフレットも発行され、展示にもさらに力が入っている。初めて来られる方は春と秋の特別展を目標にされるのがよいと思う。
●今年は実篤旧邸の保存のための工事が行われるため、6月中旬から9月末までは内部の見学だけでなく、ガラス窓越しに中を見ることもできなるそうだ(全体に囲いができるらしい)。工事前の旧邸公開は6月1日まで、工事後は10月5日からになる。
●そのかわりでもないだろうが、11月の公開日は他の月の倍の10日もある。すべての土日と祝日に公開される。また、閲覧室の休室日が毎週木曜日と毎月最終水曜日になった。これも例年と違う日程なので注意されたい。

●上記の情報は実篤記念館の館報「美愛眞」第2号(2002年3月)による。同号によると、本年4月からは実篤記念館独自ホームページの試験運用が始まるそうだ(現在は、調布市ホームページの中の1コーナー)。現在の公式ページからリンクがはられるそうなので、楽しみに待ちたい。「武者組」も負けないよう個人ページの特色を生かして、さらに充実させていきたい。
●この館報は記念館に関する情報がたくさん載っているので、興味のある方はぜひ入手されることをおすすめする。第1号は調布市の施設(図書館等)で入手できたはずだ。また、記念館の友の会会員には郵送されるので、遠くの方はこの機会に入会されてはいかがだろうか。詳しくは「武者組」内の別のページでご紹介している。私も先日今年度分の更新をしてきたところだ。

●先週紹介した作家による自作朗読「よみがえる作家の声」だが、4月8日付け日経新聞でも記事になっていた。文化財保護の目的で録音されたものでほとんど放送されていないそうだ。また、読む作品は作家が選んだため、有名な作品ばかりとは限らないというのも興味深い。いずれにしても、ハイビジョン以外での公開を待ちたい。

●「高村光雲とその時代展」が三重県立美術館で開催中だ。その後の巡回先もこれから先の展示会に登録しておく。光雲というと光太郎から見た旧弊で否定的な姿しか知識としてないが、橋爪紳也『人生は博覧会日本ランカイ屋列伝』(晶文社)(bk1/Amazon)によると見世物小屋型の大仏をつくったりしている人物なのだ。岸田劉生の父・吟香のベンチャー魂といい、「明治の父」はいろいろなことに挑戦している。実篤ら「大正の子」にはないヴァイタリティを、一度調べて学んでみるのもよいかもしれない。
●その見世物の大仏については、「佐竹の原へ大仏をこしらえたはなし」として光雲自らが語っていて、「青空文庫」で読むことができる。この文章ではできあがるところまでしか語られていないが、その後雨風にさらされて崩壊したと、前掲書には書かれていたはずだ。

●昨晩の「芸術に恋して!」(テレビ東京)はイームズのいすがテーマだったが、冒頭でデザイン全般についての柳宗理氏のコメントが紹介されていた。吹きガラスを例にとって、息を吹き込んでできたガラスのかたちに「美の始原態」があるという話(ほかにも話されていたが)だったが、すっかり髪が白くなりたっぷりと白いひげをたくわえられた姿は、以前のダンディでスマートな感じとは趣が変わり、歳をとられたなぁと感じた。

2002年4月6日

●メールニュースでもお知らせしたが、「武者組」やその関連サイトの更新情報を通知する「早馬」というサービスを始めた。サービスとは書いたが自動運転ではなく、私が手動で情報発信をする。今日の「武者組」更新から通知を開始するが、もしもよろしければご登録を。

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ゴッホ4題

●なかなか行けないが、オランダはゴッホ美術館の「ゴッホ&ゴーギャン展」を、トップページの「最近の展覧会」に入れておく。気持ちだけでも世界に開いておきたいものだ。
●「芸術新潮」4月号の最後のほうに、「ゴッホ&ゴーギャン展」を見に行くツアーの広告が載っている。8日間で35万8千円や27万8千円だそうだ。

北海道立近代美術館でも、今夏「ゴッホ展」を予定している。「フィンセントとテオ:2人のファン・ゴッホ」ということで、弟のテオにも注目し、同時代の画家の作品も展示されるようだ。北海道新聞社が気合の入ったサイトをつくっているので、作品リストや年譜など事前に勉強しておくとよいだろう。

●安田火災海上保険が購入した「ひまわり」については真贋論争があったそうだが、2002年3月28日付けの毎日新聞では、カンバスに使われているジュートの麻袋の布地から、ゴッホ美術館の専門家は本物と断定したと報じていた。
●おもしろいのは同時期の朝日新聞(2002年3月20日)が、同じジュートの布地に注目しながら、それをもとに3枚の「ひまわり」の制作年代を見直したという記事にしていることだ。

以前メールニュースに書いたゴッホのひまわりのタネだが、サカタのタネからすでに発売されていた。ゴッホの描く「ひまわり」のような花が咲くというものだが、「モネのひまわり」「ゴーギャンのひまわり」とセットで800円(税込)。インターネットで注文でき、注文締切は5月20日。


東京・目白の永青文庫では「近代の工芸」展を開催中である(6月29日(土)まで)。細川護立・護貞父子が支援し蒐集した河井寛次郎、高野松山、平櫛田中らを中心とした近代工芸作家の陶磁器、漆芸品、彫刻、金工品などを展示とのこと。「パトロネージュ」ということばはいまだによく理解できないが、こういうかたちで作品を後世に残す点でも評価できるのだと思う。

●今年の近代文学関連の展覧会では、神奈川近代文学館の「夏目漱石展 −21世紀へのことば−」がひとつの目玉ではないだろうか。夏目漱石遺品受贈記念という副題にあるとおり、同館に寄贈された遺品を元に漱石山房の再現などを中心にしている。
●同展のwebページによると漱石と交流のあった人々を「松山、熊本で出会った人びと」(高浜虚子、寺田寅彦ら)「装幀・挿絵を手がけた画家たち」(浅井忠、津田青楓ら)「帰国後に教えを受けた人びと」(和辻哲郎、中勘助、野上弥生子ら)「晩年に門をたたいた文学青年たち」(内田百閨A久米正雄、芥川龍之介ら)の4つに分けていた。「白樺」の人々と世代的にも思想的にも近いのは、3番目の「帰国後に教えを受けた人びと」のグループで、ほかに鈴木三重吉、小宮豊隆、安倍能成、阿部次郎などがあげられている。
●「白樺」のメンバーにとって漱石は尊敬する人ではあったが、その後をついていく人ではなかったと思う。だから私も気にはなるが、あまり「見なければ」という気持ちにまではなっていない。

●NHKハイビジョンの番組だが(残念ながら私は見られない)、「よみがえる作家の声」という15分番組が、4月10日から毎週水曜(12:40〜12:55)に放送されるそうだ。制作会社のwebページによると、第3回が志賀直哉「池の縁」(1953年収録)、第5回が高村光太郎「智恵子抄」(1952年収録)、第8回が武者小路実篤「愚者の夢」(1965年収録)となっている。NHKのアーカイブからとりだされた、作家自身による自作朗読の録音というので期待度大だ。ぜひ感想などをお聞きしたい。

●現在店頭にある「歴史読本」5月号(新人物往来社)は、「特集 皇族・華族の真実」だった。ざっと見たがそう浮ついた内容ではなく、勉強になったりヒントになったりする部分があった。経済基盤が失われても、それまでに築いた人脈、学歴や職歴が財産となり、上流社会をかたちづくっていったという指摘は、戦後の「心」グループにまで連なる流れを思い出させた。

『筑摩eブックス』の1冊として臼井吉見『大正文学史』(ドットブック形式、800円)が出た。安くはないのでおすすめはしないが、役に立つ方もいるかもしれないので、情報まで。

●けっこう長くなったので、2月分はバックナンバーへ移動した。
●年度末の多忙から抜け出したので、そろそろと活動を再開したい。


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