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おめでたき日々

(2001年6月)



2001年6月23日

●6月16日の日経新聞プラス1は、某「チーズ」本など寓話系ビジネス書の隆盛にふれていて、「戦後最大の人生論ブームは1960年代半ばから70年代にかけての加藤諦三の一連のヒット作」と書いていた。ちょうどその頃実篤の本も人生論・青春論などが何種類も出版されていた。あわせてそれ以外の作品もさかんに文庫化されていた時期だと思う。実篤の最晩年、調布在住の時代だ。
●1980年代以降、「人生論」などは後ろに追いやられてしまったと思っていたのだが、それが昨今のこのブームである。オンライン書店にも「人生論」というカテゴリーをもうけているところもあり、ちょっとびっくりした。また時代が回ってきたのだろうか。

●最近テレビドラマをとんと見ていなかったが、先日NHKの「蜜蜂の休暇」(月曜21:15〜、池端俊策脚本)をたまたま見たらおもしろかった。全5回のうちの第2回だったが、緊密な構成に引きこまれてしまった。鹿賀丈史演じる記憶喪失の男を中心に話が進むが、物語の設定(記憶喪失)が劇的だからではなく、見せたい場面と時間を考えぬいて切り取ってそれを構成して見せられるから「劇」的なのだと思った。演劇や戯曲についての本でよく説かれていることだが、「戯曲とシナリオは違う」ということを思い出した。詳しくは古典的な解説書や平田オリザ氏の入門書(講談社現代新書)などに譲るが、役者やキャラクターによりかかったセリフの羅列ではなくて、訴えたいものを考えぬいて構成されたドラマの力を再認識した。
●「武者組」にひきつけて考えると、実篤は描写が苦手だからセリフ中心の「対話」をしぜんと書くようになったと言われているが、それらは「シナリオ」ではなくてれっきとした「戯曲」だったと思う。書きたいものがあり、それに合わせた舞台を考え、登場人物を考え、ことばを考える。実篤の戯曲は短い分量の中で、カチッと訴えたいことを描ききっていたと改めて感じた。まさしく全5回のTVドラマのように。
●物語の緊張感という点からは、5回ぐらいのものが良いのではないだろうか。少し前だが緒形拳主演の「飛ぶ男」というドラマ(これもNHK)もとてもおもしろかった。舞台演劇を見る機会はほとんどないが、TVドラマで少しでもそういう感覚を補えればと思う。

●神田神保町の岩波ブックセンター信山社に寄ってみる。少し前に岩波の直営店ではなくなったと聞いたが、いまだに岩波の本はここがいちばん持っているのではないだろうか。ここでも岩波新書「人生論」は並んでいない。ここになければ、もう新刊で手に入れることはできないだろう。
●同店で『青鞜人物事典』(らいてう研究会編、大修館書店刊)を立ち読み(bk1/Amazon)。それぞれの項目は小さいが網羅的に(調べがついていないものはそのリストというかたちで)掲載されている。広がりが見えておもしろい。長沼智恵子は載っていたが、竹尾房子は立項はされておらずコラムに名前が登場するのみ(索引から引ける)。富本憲吉も同伴者として後ろの方に載っていたが、後に妻と別居した(?)と書かれていたが初めて聞いたので驚いた。世田谷での暮らしぶりなど、良き父、良き家族というイメージがあったのでちょっとショックだった。この件は少し調べてみよう。

●次号の「文学」(岩波書店)は大正文学特集だそうだ。隔月刊で奇数月発売だから、7月か。ちょっと楽しみにしておく。

●Webを閲覧しているとき、「BLINK」というオンラインブックマークサービスを利用している。これを使うとブラウザのブックマークをインターネット上に持つことができ、自宅と職場、外出先でも同じデータが使える。私の個人データのうち「武者組」に関係する部分を公開してみる。個々のリンクは説明不足ではあるが、最近見つけた興味深いホームページが見つかると思う。

「日向堂」もこっそり更新している。志賀直哉に続いて、有島武郎と里見とん^の棚をつくった。次は柳宗悦あたりか。

2001年6月16日

●まずは、おわびと訂正から。
 トップページの「最近の展覧会」に、ずっと「ロダンと日本」展=名古屋市美術館と掲示してきましたが、これは「ロダンと日本」展=静岡県立美術館、「ルノワール展」=名古屋市美術館の誤りでした。おわびして訂正いたします。
 原因はHTMLファイルの誤りで、文章自体にはそれぞれ正しい順番で書いてあったのですが、ほんの1文字を書き落としたために2つの行を1行で表示するようなファイルになっていました。今後は書いてある内容だけではなく、表示したときの確認もより注意して行うようにいたします。申し訳ありませんでした。また、ご指摘くださった読者の方、ありがとうございました。

●6月10日(日)のNHK「小さな旅」を見た。「緑 奏でる街」と出して調布市東部の雑木林と、そこに暮らす3組の人々をとり上げていた。番組の最初と最後には実篤公園の緑と水がとてもきれいに映されていた。ブラウン管を通して改めて見る調布の風景はとても美しく、こんなきれいなところに住んでいるのだなぁとちょっと自慢に思った。

●今日から、実篤記念館では特別展「武者小路実篤の抽出しの中身」〜東京都寄贈資料を中心に〜 第二部が始まった(7月15日(日)まで)。第一部の見学レポートの最後に書いたが、今回資料を提供してくださっている東京都近代文学博物館の存続の危機にあるときの催しとはなんとも因縁深い。第一部は晩年の資料が中心だったが、第二部は「白樺」創刊前後の若い頃が中心となるそうだ。楽しみにして見に行きたい。
●いまだまとまった言挙げができていないが、ただ単純に近代文学博物館をなくしてしまうことには反対だ。都の危機的財政状態ばかりが喧伝されるが、あんな都庁を建て処分転用のできない土地を抱えている状態で、通りいっぺんな評価マトリックスで裁断されてしまうのは釈然としない。もっと大きな会場での資産活用をなどということが報告書に書かれていたが、江戸東京博物館などといったこれまた悪趣味な小屋で、東京の文学遺産がきちんと保管展示されるとは思えない(記憶に残っている近代文学関係のイベントは「荷風の江戸」だけか)。
●現在近代文学博物館に収められている資料は、実篤のように東京にゆかりのある文学者のものが中心であろうし、それは東京だけの財産ではなく、日本全体の財産である。だから都で持つのは不適当と屁理屈をこねられると困るのだが、じゅうぶん都が貢献する意義のある事業だと言いたいのである。
●この件については、たといかたちにならなくても私の中では続いていく。

●「武者小路実篤」で検索してみつけたもの。
●「きょうは何の日〜毎日が記念日〜」というサイトがあり(富山いづみさんの労作)、実篤の誕生日「5月12日」を見てみる
 ナイチンゲールの誕生日。誕生花は3つあげてあり、その1つはカーネーションで、花言葉は「母への愛」。母親思いの実篤にぴったりの花だ。
 草野心平がちょうど18歳年下。EPOが同じ誕生日というのは、彼女が実篤を好きだと聞いたときに知った。イギリスのロセッティ(1828-1882)が同じ誕生日で同じ日に亡くなっているというのには驚いた。たしか実篤らが若い頃に好きだったラファエル前派の画家のはずだ。

●似たようなページにZDNetの「今日は何の日?」がある。その「5月12日」はナイチンゲールの説明に割かれているが、脇に「ハレーの予言通りに彗星が出現(1910)」とある。これが最近大逆事件などと一緒に描かれる明治のハレー彗星だろう。そのとき実篤は25歳。
 正月に一斉に年をとっていた昔の人にしては珍しいのではないかと思うのだが、彼は誕生日というのを強く意識していて、26歳の誕生日には「誕生日に際しての妄想」という詩を書いている。この詩の中にもうかがえるが、彼は世界の天才と自らを並べて考える基準のひとつとして「満年齢」というものを考えていたのだろう。生まれた時代が違っても、同じ年齢のときに彼らが何をしていたかを自分と比べることができるのではないかと。
 その実篤も、25歳の誕生日に彗星が流れたのを見たか聞いたか、残念ながらそれに関連する作品はまだ見つけていない。
●もうひとつ年齢にまつわる実篤のエピソードとしてよく聞くのが、晩年の年齢へのこだわりの話。晩年の書画には実篤は年齢を署名とならべて書いていたが、画商らは年が明けると一つ年を加えた年齢で書いてくれ(その方が価値が上がるのだろう)と頼むが、実篤は頑として誕生日がくるまでは同じ年齢で書き続ける。誕生日の朝になって初めて一つ年を加えた署名をして、それを画商がさらうようにして持っていくという話だ。
 私の親の世代ぐらいまで「数え年」という習慣が残っていた中で、祖父より上の世代の実篤が満年齢にこだわっていたというのは、たいへん興味深いし、ハイカラだったということなのかもしれない。

2001年6月9日

●少し前に「笑っていいとも」に実篤のお孫さんの武者小路篤信氏が出演された。読者の方から教えられて、当日は見られなかったがその後の「増刊号」(再放送)で見ることができた。「ご先祖さまはスゴイ人!」というコーナーで、著名人の孫などが登場しその人のご先祖(著名人)は誰かを当てるというものだった。篤信氏は「○○○○篤信」という名札をつけていて、実篤の似顔絵(自筆)をヒントとして掲げていた。似顔絵も似ていたし苗字が4文字という段階でかなりわかりやすい問題だったと思うが、5人中2人ぐらい当てていたと思う。
●テレビで見たところ大柄ながっちりした方で、顔もごつごつした感じ(失礼)が実篤に似ているように思えた。番組をご覧になっていたなっちさんから教えていただいた情報によると、篤信氏は52歳で実篤の次女・妙子さんの長男だそうだ(系図も紹介された)。青年時代の篤信氏が晩年の実篤と写った写真をどこかで見た記憶があるが、その方が今や52歳である。
●放映日は私のメモでは本放送が4月18日(水)、「増刊号」が4月22日(日)だったが、確認のために試しにインターネットで検索してみたら、ものすごいデータベースが見つかった。「笑っていいとも資料室」というサイト(浪岡昌弘さん作成)で、「テレフォンショッキング出演者全リスト」や「レギュラー出演者リスト」などがあり、「いいともニュースカレンダーインデックス」では毎日(?!)の番組の様子が記録されているのだ。「ご先祖さま」のコーナーは水曜日だとわかっていたので、4〜5月の水曜日を見ていくとたしかに4月18日に放映されたのを確認した。それにしても、ものすごいサイトをつくっている人がいるものだ。脱帽。

●「みんなの書店」に「日向堂」を出店したほかにも、オンライン書店が募集しているアフィリエートプログラムに参加してみた。1つは「bk1ブリーダープログラム」で、もう1つは「Amazon.co.jpアソシエイト」だ。それぞれ書籍の詳細情報等にリンクを張ることができるようになり、それをたどって実際に書籍が購入された場合、紹介者である私に前者は3%相当のbk1ポイント(bk1での書籍購入に使えるポイントで、1ポイント=1円換算)、後者は5%の現金が支払われるようになっている。
●いずれもキックバックは少額であり、売ることが目的ではない「オンライン書店ごっこ」なので、これから張るそれらへのリンクも気軽にたどってみていただきたい。単にリンクをたどって書籍の詳細情報を見るだけでは何のコストも発生しない。
●たとえば前回ご紹介した文庫本は、惜みなく愛は奪う―有島武郎...新潮文庫となり、クリックするとAmazonの書籍紹介ページにジャンプする。今年の新刊ではなくて、よく見ると2000年4月の発行だった。
●もしも「なにがしかの本を買って、いくらかでもこにしに還元してあげよう」というありがたいお志の方がいらっしゃるのなら、www.thehungersite.comwww.givewater.orgなどのオンライン募金サイトでワンクリックしていただきたいと思う。これらのサイトは所定のボタンをクリックするだけで、そのサイトのスポンサーから食糧や水がそれらを必要とする人々へ送られるのだ。

●そこでひとつ新刊情報。山田風太郎の「人間臨終図巻」(徳間書店)は、有名無名の人々の死を享年順に並べた奇書と言われていて、図書館で探していたのだが見つからなかった。この春それが徳間文庫から全3巻で発売され、店頭で手に取ることができた。その第3巻は、73歳から121歳で亡くなった人々(泉重千代さんまで)が取り上げられていて、長命な白樺同人はだいたいこの巻に入っている。実篤、志賀直哉、里見^とん、バーナード・リーチ、高村光太郎、梅原龍三郎等々。実篤や志賀には少しショッキングが話もあるが、有名な話でもあり文章もさっぱりしていて暴露的ではないので落ち着いて読めると思う(bk1/Amazon)。

●ちなみに書籍紹介の末尾に(bk1/Amazon)と入れるのは、「たけのこ雑記帖」のマネさせていただいた。スマートで良い方法だと思ったからだ。なお、この「たけのこ雑記帖」は社会学と歌謡曲をテーマとした書評が中心で私のお気に入りのひとつなので、一度お読みになることをおすすめする。

アイコニストフレッシュアイで検索していたら、「実篤風?野菜アイコン」というページを見つけた。いろいろな人がつくったMac用アイコンを紹介する「Iconist 〜アイコニスト〜」というホームページに”そらみみ”さん作成の「実篤風?野菜アイコン」(6個)が載っていたが、作者のホームページ「そらみみ日和」を見るとWindows版もある。私はそちらをダウンロードしたが、なかなか実篤風である。茄子、南瓜、玉ねぎ、トマトなど題材も実篤風だ。

2001年6月5日

●新潮社の「波」6月号を見ていたら、「6月の掘り出し本」という広告の中に「改版 惜しみなく愛は奪う −有島武郎評論集−」というのがあった。「文字が大きくなった」とあるが、それ以外に内容も増補されているかもしれない。定価が743円とだいぶ高くなった気がする。もともとはだいぶ薄い本だった記憶がある。
●これは新刊扱いではないので広告も別だし、店頭でも別扱いになるようだ。書店では注意して見ておこう。この「掘り出し本」というのは最近始まった販促で、映画化やコミック化、話題の本の関連書などをちょっとした工夫で再発見していくという試みだ。おもしろい仕掛けだと思う。

2001年6月3日

●昨日実篤記念館の展示を見て来たので、そのレポートを掲載した。もう展示は今日で終わってしまったが、その様子が少しでも伝わればと思う。レポートはほんとうに久しぶりだ。

●今日図書館(若葉分館)に行ったら、ドアのところに「6月10日(日)朝8時からのNHK”小さな旅”に仙川と実篤記念館が出て来る」と告知されていた。どんな内容かはわからないが、楽しみに見てみたい。再放送は翌6月11日(月)BS1で12時から、とのこと。

●「みんなの書店」というサービスを使って、実篤の本だけを並べた「日向堂」という本屋をインターネットに開いてみた。本の表紙を楽しむのがメインの書店だが(新刊書店なのに絶版本のコーナーもあり)、購入もできるので一度ご来店を。


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