Top>「なーんだ、そうだったの?」〜実践ガイド>彼の手

■彼の手■


が深まっていくにつれ、少しずつ外に出ることもできるようになってきました。大学に戻って何をするでもないのだけれど、いつまでも実家にいてはいけないような気分がして、後期の授業が始まる10月頃には、アパートに戻ってきました。その頃どんな生活をしていたのか、あまりよく覚えていないのですが、お昼すぎには一度大学の研究室に顔を出し、誰かがいれば話をしたり、なんとなく本を読んだりして、夕方にはアパートに戻る、そんな毎日だったように思います。

れが起こったのは12月の半ばでした。当時は短いながらもほとんど毎日日記をつけていたのにもかかわらず、その日の前後の日記は空白になっていたので、正確な日付は今となってはわかりません。

の日を境に、わたしの世界は変わりました。「わたし」がいなかった世界から、「わたし」のいる世界に。

ーんだ、そうだったの?」を書いたときにはすっかり忘れていた、当時のあるエピソードを思い出しました。

る日、大学の研究室でぼーっとしていると、一人の留学生が近付いて来て突然わたしの手を握り、わたしを励ますような言葉をかけてくれたのです。彼が何を思ってそんなことをしてくれたのかはわかりません。わたしが毎日、あまりにも元気がなさそうな様子なのを心配してくれていたのかもしれません。普段そんなことをされる機会のないわたしは、とてもびっくりしました。

も、そのときのわたしにとって、スキンシップをともなう他者からの愛情は特別な意味があったのではないかと思うのです。これはあくまでも推測なのですが、彼がわたしの手をとってくれた日が、わたしにとって特別な意味のある日となった「その日」だったのではないかでしょうか。いや、今ではほとんど確信を持ってそう考えています。

<前へ 次へ>

Top>「なーんだ、そうだったの?」〜実践ガイド>彼の手
Written by Shinsaku Nakano <shinsaku@mahoroba.ne.jp>
Last Update: 2001/04/03