Children's Corner-『子供の領分』〜ドビュッシーのピアノ曲のために--7
音と香りは夕暮れの大気に漂う





ドビュッシー「前奏曲集1」より




音と香りは夕暮れの大気に漂う

ゆっくりとした夕暮れが好きだ
夏の真昼の暑さとざわめきを残して暮れていくそれ
秋の寂しさと初冬の厳しさの空気に
静かに降りてくるそれも

都会の雑踏のなかでは
気がつかないうちに夜になる前触れのそれも
自然とともにあるところでは
休息と沈黙へと誘う大気に満ちている
そこにはなつかしい遠い声が聞こえる
ささやかな生を営む人と
植物と動物の音と香りがある

電飾のつくり笑いも装う自意識も
静寂を脅迫しようと

ここに帰って来よう
光と闇の溶けあうこの時間に
生と死の出会う心の場所に


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