休眠担保権(古い抵当権)の抹消について(作成途中) 不動産 fudousan.html

弁済等により抵当権はすでに消滅しているにもかかわらず登記はそのまま残っているという場合がある。長い年月が経ち、抵当権者が死亡し相続が生じているとか、行方不明とか、会社の場合ですでに存在していないなど、その抹消が困難となっている場合がある。

1、原則的な抹消方法

登記権利者(所有権登記名義人)と登記義務者(抵当権者)の共同申請

この場合、登記義務者の協力が不可欠。

すでに所有権登記名義人・設定者(所有者、抵当権抹消につき登記権利者)や、抵当権者(債権者、抵当権抹消につき登記義務者)に相続が生じている場合

抹消原因が相続より前の場合

所有権登記名義人・設定者(所有者)につき、相続登記をしなくても、相続人が申請人(保存行為として相続人の一人からでも可能)となって抵当権抹消の登記申請をすることができる。申請書には相続人が複数いる場合でも相続人一人を記載して、その人を申請人とすれば足りる(相続証明書は、被相続人が死亡し、申請人がその相続人であることがわかるもので足りる)。

抵当権者(債権者)につき、相続を原因として抵当権移転登記をしなくても、抵当権者の相続人全員(義務者なので必ず全員)が申請人となって抵当権抹消登記の申請をすることができる。ただし、この場合、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合、相続人全員の印鑑証明書の添付や実印の押印が必要となり、本人確認情報の提供をするかもしくは事前通知がなされたりする。

抹消原因が相続より後の場合

所有権登記名義人・設定者(所有者)につき、相続登記をする必要がある。乙区欄の抹消につき、甲区欄の登記が要求される!

抵当権者(債権者)につき、相続を原因として抵当権移転登記をする必要がある。この場合、抵当権移転登記の登記済証が抵当権抹消登記の際 添付する登記済証になるため、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合でも、印鑑証明書の添付、本人確認情報の提供などは不要となる。ただし、オンライン庁で登記識別情報が通知される場合は、それは申請人にしか通知されないため、抵当権移転登記(相続)の際、相続人全員が申請人として申請しないと、やはり抵当権抹消の際、抵当権設定の登記済証(原契約書)がない場合と同様、申請人とならなかった相続人につき、印鑑証明書の添付、本人確認情報の提供などの問題が生じる(注意)。

2、登記義務者の協力が得られない場合の判決による単独申請

登記義務者の協力が得られない場合、弁済や被担保債権の消滅時効などを主張し、抵当権抹消登記手続を求め裁判所へ訴え提起。その勝訴判決(確定証明書付き)を添付して登記権利者の単独申請により抹消登記をする。抵当権者が行方不明の場合、不在者財産管理人を選任の上、その管理人を相手方(被告)にしたり、公示送達を利用したりする。抵当権者に相続が生じている場合、訴えの相手方(被告)は相続人全員。判決の抹消原因日付が抵当権者の相続より後の場合は、代位により抵当権移転登記(相続)をしてから抹消登記をする。抵当権者の相続証明書は裁判用と登記用にすべて2部ずつ取得しておくのが無難か。

訴額は、目的物の価額の2分の1とする。ただし、被担保債権の金額(抵当権において登記された債権額、根抵当権において登記された極度額)が目的物の価額の2分の1に満たない場合には、被担保債権の金額とする。昭和初期の抵当権などは債権額が通常100円、1000円等と小額なので、その額が訴額となる。

判決で抹消原因がはっきりしていればよいが、明確でない場合、判決確定の日を原因年月日として年月日判決として登記することができる。

被担保債権の消滅時効を原因として抹消する場合、時効の起算点(弁済日など)が原因日付になると思われるが、不明の場合、年月日判決か。時効期間は弁済日の翌日から計算するが、時効の効力が発生する起算日(遡った)は弁済日か。

3、除権決定による単独申請や 債権証書・受取証書を添付してなす単独申請

あまり利用されていない。両方、抵当権者が行方不明の場合に利用できるが、公示催告の申立をし、除権判決を得る方法は、時間がかかり、また官報公告費用がかかる。手間としては上記の判決による場合とあまり差はないので、あまり利用されていない。債権証書・受取証書を添付する方法は、もともとその書類がない(場合が多い)。

4、供託による抹消

要件、@ 登記義務者が行方不明であること。A 被担保債権の弁済期から20年を経過していること。B 申請書に、被担保債権の弁済期から20年経過した後に債権、利息及び債務不履行によって生じた損害の全額を供託したことを証する書面を添付すること。

登記の添付書類である行方不明であることを証する書面としては、登記義務者の登記簿上の住所宛に受領催告書を送付し(配達証明付郵便)、その不到達であったことを証する書面(もしくは市区町村長発行の住所に居住していない証明書など)でよいとなっている関係上、この行方不明の要件がどの程度のものでよいか実務上問題。

一般的に、住民票、戸籍簿等の調査、官公署や近隣住民からの聞き込み等相当な探索手段を尽くしても、なお不明であることを要する。とされる。が、一方、質疑応答で「登記義務者が死亡している蓋然性が高い場合でも、登記義務者が登記簿上の住所に居住していないことの証明書の添付があれば、その相続人を確認する必要はない」「登記義務者が死亡し、その相続人が明らかであるにもかかわらず、受領催告書が不到達であったことを証する書面等を添付して登記権利者から抵当権抹消の登記申請があった場合は、受理せざるを得ない」とある(これは登記官宛のものか?)。相続人が分かっている場合は、その相続人については、行方不明の要件にはあたらない。

相続人が不明の場合も含まれ、その行方不明の相続人につき供託による抹消を適用。

質疑応答「相続人が複数の場合において、その一部の者が行方不明であるときは、その者に対する関係では本特例が適用される(その者の法定相続分に応じた債権額を供託したことを証する書面の添付を要する)が、他の相続人に対する関係では共同して又は判決による登記を申請すべきことになる。」

明治・大正・昭和初期頃の抵当権については、通常、抵当権者(自然人)について相続が生じている。行方不明ということであれば、この簡便な供託による抹消の制度が利用できるが、行方・相続人調査については、司法書士はその調査能力が高いから多くの場合、相続人が判明する。そうすれば供託による抹消の制度が利用できず、しかもその相続が何代にもわたって生じているため、相続人の数が非常に多くなり、抵当権抹消が手間暇・費用のかかるものとなってしまう。調査能力が高いがゆえに、行方不明の要件にあてはまる機会が少なくなり、この制度が利用できる範囲が狭まり、手間暇・費用のかかる手続を選択せざるを得なくなる(ジレンマ)。

抵当権者(担保権者)が法人の場合

抵当権者が法人の場合にも適用があるが、その法人の登記簿(閉鎖含む)がなく判明しない場合などになる。その法人が解散・清算結了していたとしても法人の登記簿があり、判明する場合は「行方不明」にはあたらない。

銀行については、「銀行変遷史データベース」で調べると(便利!)、判明することが多く、その銀行の閉鎖登記簿も残っていることが多い。

例えば、過去経験したものとして、株式会社関宮銀行の抵当権が残っていたケースで、この銀行の登記簿は「昭和5年5月合併」により閉鎖されているが、請求してみるとちゃんと出てきた。古い抵当権だけれども抵当権者が合併により存続しているのであれば、上記 個人の相続が発生している場合と同様になる。ブログより

銀行変遷史データベース|全国銀行協会

(つづく)

裁判所で法人の「清算人」を選任してもらう方法、もしくは裁判をする場合、裁判所でその裁判遂行のための法人の「特別代理人」を選任してもらう方法

聞いたことがないような銀行名の古い抵当権が残っている場合がある。登記簿を調べるとすでに解散・清算結了している。当時の清算人は不明か死亡している。このような場合、裁判所にその銀行の清算人の選任申立をし、その清算人が登記義務者として抹消登記申請をすることになる。このような清算人選任は、(本来、清算人は清算事務全般を担当し、その銀行の清算結了登記を抹消し、清算人の登記をしたりしなければならないのだが、そういうことをせず)便宜上、清算人の権限を「抵当権抹消登記手続きに関する行為のみとする」として、簡便な手続がなされたりしている(スポット運用)。抵当権抹消登記には、その裁判所の清算人決定書と銀行の清算結了済みの閉鎖登記簿謄本が添付書類となる。スポット運用なので、事前に可能かどうか裁判所に問合せは必要か。(経験はないが)清算結了していなくても解散状態で清算人が死亡しているなど不明な場合も同様にできるようだ。

また、担保権者の法人を被告とし、被担保債権の消滅時効などを理由に、抵当権の抹消登記手続きを求める訴えを裁判所へ提起する場合で、上記と同様に法人の代表者(清算人等)が死亡しているなど不明な場合は、法人の特別代理人を裁判所で選任してもらい、裁判をし、その勝訴判決で抹消登記をすることができる。ちなみにこの特別代理人の制度は、個人が意思無能力者の場合(後見人がいない場合)にも適用可。

(つづく)