98.11.29初稿…(予測は適中しているが、技術の動向に合わせて随時更新)…最終更新00.8.17

埋文調査事業体の情報化モデル(1) 

通信速度がもたらすもの

 一般的なユーザにとって、現在のインターネットは、伝送速度3〜4KB/秒くらいである(INS64でも5〜7KB/秒)。サーバのレスポンス、サーバ間の経路や、混み具合によって異なるが、3KBはラッキーな場合で、時として0.3〜1KB/秒のことも多い。

 近い将来、通信回線は1.5〜6Mビット/秒になるだろう。仮に128KB/秒だとすれば(それが当り前という環境は実在する)、1MBがたった8秒で転送できる。これなら、例えば、200頁のPDF版報告書(10MBと仮定)が、1分半で転送できる。

 実は、数百Kbps程度ならば、2001年までに複数の手段が実用化される。 但しサーバ間の経路によるボトルネックは別問題である。バックボーン強化は多大なコストを要し、必ずしも楽観できるわけではない。バックボーンの解決なくして、一般向けの回線云々は、あまり意味がない。サーバのレスポンスも問題である。

 CATV利用のシステムは、良いのだが、速度がユーザ数に左右されやすく、やはりバックボーンがボトルネックとなる。
 一般電話回線を利用するxDSL(ADSL)も期待される(ただし銅線に限る…ネットワークの総光化−オールオプティカル−の時代というのに…しかしニッチマーケットとしては有効と予測されている)。xDSLには様々な形態があるが(INS64も類似の技術だったが、今や旧式で時代遅れらしい)、簡易版(1.5Mビット/秒)が、G.liteとしてITU-Tの勧告が1998年10月に、ITU-TG.992.2 Annex-C(やや速度は遅くなるが、ISDNとの干渉を避けられる)が1999年6月に勧告となっている。DSLモデムの価格は、通常のモデムと同水準で済む(はずである...)。

ADSL事業者
http://www.eaccess.net/jp/
http://www.metallic.co.jp/

 ちなみに、光ファイバー網を家庭まで張り巡らす計画(=FTTH)は、2005年までには実現しているらしい(これが本命なのだろうか...)。
 2001年春導入予定の次世代携帯電話(IMT-2000、あるいはW-CDMA)は、移動時384Kbps、静止時2Mビット/秒だそうである。クアルコム自身は、平均上り300Kbps、下り600Kbps、最高2.4Mbpsのシステムを提案しており、2000年秋導入予定だそうである。
 また、インターネット専用の高速無線系ネットワークサービス展開の動きも急である。

ハードディスクの大容量化がもたらすもの

 ハードディスクは、年々容量が倍増している。

 98年の(普及機種の)標準は4GB(ギガバイト)だった。97年は2GBだった。99年は8GBになるだろう。2000年には16GBが標準装備となり(これは1998当時の予測だったが、現実は10〜20GBといったところ。ちなみにGB単価は5400rpmで500円程度である…外付けでも750円程度…00.8.17 2001年には32GB、2002年には64GB、2003年には128GB、...2006年には1024GB=1TB(テラバイト)になる計算である。現在の技術の延長線上では、数百GB程度で頭打ちの可能性もあるが、そのレベルなら、いずれにしても、すごく大容量であることに変わりない。

 こうした大容量を前提にすると、何が可能だろうか。

 例えば、ビデオをデジタル化すると、MPEG2(6Mビット/秒の場合)で2.7GB/時間、Video CDレベルのMPEG1なら0.6GB/時間である。後者なら、8GBあれば12時間以上、16GBあれば24時間以上の録画が可能である。(00.8.17追加…ビデオのハードディスクレコーダーも、現実に2000年には登場した…30GBで5〜20時間記録可能)

 音楽では、今話題のMP3や、NTT開発のTwinVQ(ヤマハではSoundVQ)、SONYのATRAC3、マイクロソフトのWMA、あるいはAAC等々。これらは、CDクオリティの音データを、品位をそれほど落とすことなく、(例えば)1/11〜1/18(128Kbps〜80Kbps)にできる。つまり1時間分の音楽が、57MBないし35MBあれば、収録できてしまう。MP3の音質はエンコーダの性能に左右されるが、良いものは良いようだ。

 家庭での用途を考えると、デジタル写真も有力である。1年間の撮影カット数を500とし(36枚撮フィルム14本相当)、1枚500KB基準とすると(XGAレベルでJPEG高画質圧縮の場合)250MBになる。10年分でも2.5GBにすぎない。よしんば高品位な写真であっても、1枚2MBを基準に考えられるから()、500枚あっても1GBである。保管するハードディスクのコストにして、僅か500円程度である(1回の現像代程度?)。

 書籍は、PDFで平均60KB/頁(多少の図版を含む、報告書の場合)と仮定すると、17000頁/GBくらいである(CDなら1万頁くらい…これは積み重ねれば厚さ50cmくらいに相当する)。1年間の全国の報告書が厚さ5mで計10万頁とすれば、6GB程度で済むことになる(ちょっと大容量の光ディスクなら、1枚で収まってしまう!)。

オンディスクということ

 データを、通信経由で、必要な時だけ入手すれば十分なのか、ハードディスクにずっと置いておくのか、あるいは光ディスクにバックアップをとっておくのか、その辺のバランスは、何ともいえない(伝送速度、伝送コスト、個人的ニーズ、技術開発の進行状況、企業行動、市場の反応等に依存する問題である)。情報の所在が明らかで、何時でも再度ダウンロード可能であれば、特に(大量に)手元に置いておく必要はない。遠くにあるサーバが、個人にとっての情報ストレージになるのは、一つの理想形である。

 いずれにしても、データの「オンディスク」性は、コンピュータ活用に於いて、重要な要素である。インターネットの利点=オンラインの利点の中核は、実はオンディスクということでもある(この場合はサーバ上のこと)。手元のハードディスクと、ネットワーク上のディスクは、アクセス速度が多少違うだけで、本質的な差はないというわけである。

 リムーバブルディスクにデータを置くと、アクセスの手間や時間が余計にかかり、使い勝手や整理上の問題が生じやすい。決して、リムーバブルディスクを貯めていくことが、電子化、情報化ということではない。逆に、どれだけオンディスクを貫徹できるかが、情報化の決め手である(当面は、光ディスクも重要な要素である)。

電子化報告書

(このサイトで繰り返し主張しているところだが)これからの報告書は、電子媒体に移行していくべきである。そして埋蔵文化財をめぐる研究活動も、情報化していくべきである。その背景には、上述したような、速度と容量のさらなる増大がある。

(当面の)電子化報告書のフォーマットはPDF、HTMLないしXML、メディアはCD-ROM、CD-R、あるいはWebが考えられる。電子化が、研究者や研究機関によって受容されれば、紙の報告書への需要は、徐々に減っていく経過をたどるだろう。

 但し、PDFを筆頭にあげたことから明らかなように、電子化報告書は印刷可能性から離れることはできない。パブリッシュということは、ある時点で確定した編集物を、保存・公開するという意味もある。パブリッシュの時点での完成度を高く保つためにも、印刷レディネス(準備万端)は意味のあることである。印刷の問題から離れていくならば、なおさら本格的な文書の構造化が問われることになるだろう。

 需要が200部以下になったら、「オンデマンド印刷」の活用もいいだろう。「オンデマンド印刷」とは、製版フィルムや刷版などの中間工程を省き、DTPデータから直接印刷する方式で、1部から印刷可能である(ただし300部以上ではオフセット印刷の方が単価的に有利−品質もオフセットにはかなわないし...)。これは稀少本に特に有効であり、原理的に絶版ということは、無くなる。「オンデマンド印刷」は、紙にこだわる人々の、最後の砦となるかもしれない。

 最近はCD-Rレコーダも8倍速になっているから、たとえ650MBあっても10分程で記録できる。それくらいの生産性があれば、研究者の注文に応じてPDFをCD-Rに焼き、郵送するサービスも、手軽にできる。実費は常に1枚300円以下で済む(生CD-Rは100円、郵送代は120円、残りは梱包コスト)。CD-ROMを正式に作る経費は概ね次の通りである。

500枚150,000円
700枚178,000円
1000枚185,000円
1500枚238,000円
2000枚270,000円
3000枚365,000円
4000枚460,000円
5000枚505,000円

 マスタリングが高く、プレス自体は安い。CD-ROMは媒体として安定しており、複製の手間はかからないし、在庫もコンパクトである(音楽CDのようなパッケージは嵩ばるので、どうせなら定型90円で送れるパッケージがお薦め)。

 もっとも、最初に述べたような高帯域通信環境が本格化すれば、こうしたディスクサービスも不要になるだろう。Web経由なら、いちいち対応する手間がかからないし、電子メール利用でも、梱包したり、切手を貼る手間はかからない。

問題点の認識

 筆者が報告書(および論文集)の電子化、ネットワーク化を勧めるのは、何時でも必要な時に、如何なる文献でも、入手し、読みたいからである。つまり、目標は全ての考古学関連文献の電子化である。そうなれば、全ての研究者にとって、研究上の障壁は、消滅する。他の分野でも同様だとは思うが、考古学では、文献の入手(閲覧)が、研究上最大のポイントであり、ネックでもある。

 そのための、技術的なインフラは、既に揃っている。CD-ROM、Internet、HTML、PDF等、基本的なものに限れば、いずれも十分に信頼できる技術であり、利用のためのハードルは既にかなり低くなっている。後は意識の問題であり、戦略の問題である。


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