尾張の古墳時代開始前後の数値年代について

2003年6月8日の名大祭考古学研究集会「AMS14C年代測定法による尾張・三河の古墳出現期の年代」で、愛知県内の試料(土器の付着炭化物(注1))の年代測定成果が発表され、一部で報道された。発表要旨から、尾張のデータを調べてみる。尾張の試料数は弥生時代後期から古墳時代前期にわたる27点だが、内23点で較正年代が得られたようである。

 較正年代は、1つのC14年代に複数の年代が対応する事もある。( )内は中央値である。標準偏差で計算されているはずだが、ここでは簡易に、弥生時代後期から古墳時代早期にかけての17点を、較正前のC14年代順に並べ、それらを見渡して上限と下限を抽出して図化した。グラフも簡易なものだが、意味はお分かりいただけると思う。罫線で時期を分けているが、上から弥生時代後期前葉(古宮II式)、中葉(山中I式)、古墳時代早期(注2)前葉(廻間I式前半)、中葉(廻間I式後半)、後葉(廻間II式)となっている。全体としてはC14年代らしく、それなりにばらつきが大きい

 廻間式に限っていえば、I式からIII式まで似たような年代幅に収まり、ほとんど分解能を持ち得ない。いずれにせよ、報道で古墳時代の始まりがAD80といった数字が出ているが、それが一人歩きしていいような数字には思えない。ちなみに廻間I式前半は、従来の年代観では、概ね2世紀後葉ないしAD160〜210とされていたようである。

番号型式C14(BP)較正年代
12古宮II式2076±40BC166( )126, 124(89,77,57)42, 7( )4
10古宮II式2019±38BC49(38,30,21,11,1)AD26, 43( )47
6山中I式2034±39BC89( )78, 57(42,7,4)AD4, 10( )19
11廻間I−02050±40BC105()104, 95(46)35, 35()17, 13()AD2
14廻間I式前半2002±69BC88()80, 55(15,15,AD2)74
15廻間I式前半1947±41AD4()8, 21(65)84, 103()119
7廻間I式前半1933±38AD27()42, 49(73)89, 99()125
13廻間I−01917±40AD32()38, 53(80)129
4廻間I式前半1914±41AD32()37, 54(81)129
2廻間I式前半1903±38AD67(85,103,120,)131
5廻間I式前半1873±38AD81(129)179, 190()214
3廻間I式前半1809±37AD133(236)253, 305()316
16廻間I−42025±40BC86( )83,53(39,28,23,9,2)AD24, 44( )46
8廻間I式後半1917±38AD32( )37, 54(80)128
9廻間I−4〜II−11852±37AD89( )99, 125(132)235
17廻間II−11981±40BC39()28, 22( )10, 2(AD25,44,47)69
19廻間II式後半1921±40AD30( ), 52(78)128

 確かに(見ようによっては)従来の年代観より50〜150年遡る可能性が示されたと言えるかもしれないが、その程度は各種の誤差の範囲内ではなかろうか。とりあえず(クロスチェックを含めた)試料数の増加を期待したいし、各種編年上の整合性も研究課題としかいいようが無い。

 今回の成果を控えめにまとめると、下表のようになる。ここから例えば、弥生時代後期→紀元前1世紀、古墳時代早期→紀元1〜2世紀、古墳時代前期→紀元2〜3世紀という推定が可能かと言うと、それは難しいだろう。
弥生時代後期八王子古宮II式〜山中I式BC166〜AD19
古墳時代早期廻間I〜II式BC105〜AD316
古墳時代前期廻間III式〜松河戸I式BC45〜AD317

 C14年代自体は、あくまで目の粗い物差しだと思う。ただ、測定結果を積み増していく事で、特定型式の年代参考値を得られるかもしれないという事である。


  1. 付着炭化物とは土器の「おこげ」と思われる。しかし「おこげ」の由来は問題である。米など陸生の一年草なら問題は少ないが、樹木や海産物だったら、やっかいである。周囲の土壌との関係も心配の種である。
  2. ここでは(赤塚編年)廻間I式の開始が庄内式の開始とパラレルとされ、廻間II式末葉〜III式前葉が布留式の開始とパラレルとされている。廻間III式以降は古墳時代前期とされている。

[文献]『AMS14C年代測定法による尾張・三河の古墳出現期の年代』2003年6月8日,編集・発行:名古屋大学文学研究科考古学研究室


WebSiteTop …03.6.11  参考までに→あいまいな年代観