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都区内の考古系博物館辛口評論

●本ページは、実際の訪問に基づいた考古系常設展示の辛口評論です)。言うまでもなく、独断です。本サイトではめずらしいスタンスですが、言い過ぎがあれば、ご容赦下さい。なお、特別展は常設展とは異なります(当然ですね)。

●評価の基準は、考古系の生涯学習効果です。また、あえて交通費や手間をかけて出掛けて行く価値があるかどうかです。考古系に関する限り、全国区レベルの価値を持つ博物館は、東京国立博物館を除けば、残念ながら都内にはありません。江戸東京博物館も、考古系は一応揃っているのですが、区施設のレベルに近いのです(入館料は高いし)。東京を離れると事情は違ってくるのですが...(→周辺

●充実している展示施設はいくつかあります。その場合であっても、要するに在来型で優れているということなのです(展示デザインは設置された年代の流行を反映しているのですが)。これからは、サイバーな時代に相応しい、展示デザインの見直しが必要です(→博物館のサイバー化)。バーチャル展示で代替できる程度では(大部分は代替どころか、凌駕されますが)、実物展示の意味がありません。

●必ずしも自治体毎に施設を持つ必然性もないので、いくつかの自治体が合同で建てれば、もう少し予算的にも余裕が出来て、まともなものができそうな気がしますが... 東京都文化課でも、都レベルの考古系博物館の必要性は感じているのですが(江戸博は生活文化局の管轄で、考古系は通史の一部として置かれているだけです)もはや無理でしょう... というわけで、全面的な支持の表明ではありませんが、現状で、いくつかの施設を推薦することができます(三ツ星はありません)。なお郷土史生涯学習効果の観点でいうと、荒川ふるさと文化館はお薦めできます。

推薦できる施設 ★★及第... ★



千代田区
四番町歴史民俗資料館 図書館の入口付近にあるのですが、設備は最低クラスです。建物の設計から間違っています。関係者のやる気は感じられるのですが、廊下にまで事務室が張り出し、気の毒としか言いようがありません。近世遺跡の豊富な千代田区を反映して、それなりに内容は充実しています。展示の場所が限られているので、企画展の時は全部の展示室を使ってしまうようです。
※四番町歴史民俗資料館は日比谷図書文化館1階の展示室にリニューアル移行しました。
中央区
郷土資料館 リニューアルしました。
港区
港郷土資料館 三田図書館4階なので、一部屋ですが、結構よく出来てます。確かに小規模施設ですが、考古展示は充実しています。
新宿区
新宿歴史博物館 建物デザインも展示デザインも優秀です。施設は中規模で、考古系展示への気配りも行き届いています(無論、満点ではないです)。四ッ谷〜四ッ谷三丁目という、都会の真ん中にありながら、静かな環境です。
文京区
文京ふるさと歴史館 コンピュータ端末が置かれた走りでした。千駄木貝塚の資料は見ていって下さい。廃屋墓から、よく揃った縄文中期人骨が出土しました。
台東区
考古系の展示施設はありません(東博はあります)。
墨田区
すみだ郷土文化資料館 新しくて綺麗ですが、施設としてミニすぎます。考古資料も少なすぎるので(千葉県内の資料−区施設の緊急発掘−が学習効果のために置いてありますが)、考古系の評価はできません。国技館で出土していた遺物は驚きですが... 限られたリソースを生かした郷土資料館としては、納得できる作りです。お近くの方は、ぜひ訪れてみて下さい。なお、墨田区内には、江戸博があります。さすがにそちらは充実していますが。
江東区
考古系の展示施設はありません。
品川区
品川歴史館 施設としては中規模ですが、展示量は多くありません。特に考古系資料の展示は少なすぎます。大森貝塚やモースに関する展示(土器や動物遺存体含む)は2階にあり、それなりに展示されていますが、いかにもサイド的で(何と最初の計画に入っておらず、後から加えたということです)、日本で最高に有名な貝塚の扱いとしては、全く疑問です。
 歴史館の建設場所で発掘されたのが大井鹿島遺跡なのですが、床面に住居の位置がタイルの色違いで表現されています。庭に出ると、掘出された状態で住居址が保存されています。
 歴史館から数百m南にある大森貝塚遺跡庭園には、もう少し詳しい貝塚の説明板があります。この施設は歴史館とは異なり、高い意識の元に作られています。貝の形をした白い覆い屋根の下に、地下に掘込んで、貝層が展示されています(剥ぎ取りとは思われますが)。公園の右奥の線路際に下りていくと、大森貝塚の碑があります。地形も保存されていますので、往時の様子が偲ばれます(あの有名な発掘風景が想起されます)。
目黒区
郷土資料室 まさに郷土資料室という作りです。遺物量はそこそこあり、目黒区の遺跡調査の現状をよく反映しています。絵解きの説明もあるのですが、説明文は概ね小さく、型式表示はありません。全体に手作りの展示という感じです。ガイドブック『目黒の遺跡』は素直な作りで、よく出来ています(500円)。展示もガイドブック作成時(平成五年度企画展「目黒の遺跡」)に、リニューアルされたようです。なお、将来の博物館建設のプランはあるようです。
大田区
郷土博物館 出色の展示です。遺物は質、量とも豊かです。何しろ縄文・弥生に加え、都内最大級の古墳群など、トップクラスの遺跡を擁している区です。当世流の業者風展示デザインではないのですが、個々の展示の意図がよく分り、生涯学習効果は高いといえます。(どことなく市川考古博物館に似ているように感じるのですが...) 駅から博物館への案内板が見られるのも、都内では珍しいことです。
多摩川台公園古墳展示室には、さらに詳しい古墳の展示があります。こちらは、小規模ながら、よく出来ていて、情報量も豊富です。無論、古墳群を訪れる時には必見です。
世田谷区
世田谷郷土資料館 資料館としての建築デザインは、トップクラスです(決して贅沢なものではありません)。展示は、旧石器から通史を、万遍なくカバーしています。考古の資料数自体は、決して少ないものではありません。展示内容も(筆者は不満ですが、客観的には)妥当なものです。展示デザインは、ややレトロですが、丁寧なもので、重厚な雰囲気です。展示室は2階ですが、エレベータも用意されています。
 ただ、照明が暗く、パネルの文字も小さくて読みにくいのが気になります。内容も、専門的すぎたり、浅すぎたりします。先土器という表記はいいとしても、いきなり武蔵野編年I期とかII期とか、説明なく専門的用語が用いられます。どこの博物館でも同じですが、遺物が時期をある程度まとめて展示され、区分けが充分でないのも気になります。生涯学習効果としては、食い足りません。やはり考古資料は、展示業者としても、持て余す存在なのでしょうか。
 世田谷区の遺跡は、質量とも都内トップクラスなのですが、郷土資料館の考古系常設展示はその充分な反映にはなっていません。
渋谷区
白根記念渋谷区郷土博物館 リニューアルしました。
中野区
歴史民俗資料館 中規模の施設ですが、都内では上位クラスに位置付けられる資料館です。展示は、通史をカバーしながら、考古に関しても深い掘りさげが感じられます。遺物もなかなか豊富な情報量を感じさせます(量の絶対量は多くはないのですが)。つまり、生涯学習効果は、トップクラスです。展示デザインとしては、やや新しい世代に属します。
 なぜか、練馬区出土などの資料が、豊かな内容を持っていたりします(寄贈品です )。
杉並区
郷土博物館 駅から遠いのが、最大の欠点です。駐車場もないので、事実上、タクシーを使うしかありません。敷地に余裕があるせいか、施設は立派です。展示室は、そんなに広いものではありませんが、平均的なところでしょう。考古展示は、杉並地域の埋文への長い取組みを反映して、力が入っています。少なくとも旧石器の展示方法は、ここが最高でした。考古系全体としての情報量は食い足りません。
塚山遺跡(区立塚山公園)に行くと、ある種の「やる気」と、「やる気のなさ」が同居しているのが分ります。
豊島区
郷土資料室 考古系の展示は、ほとんど見られません。近代〜戦後の池袋周辺が、展示のメインです。区内での埋文調査活動は近年さかんになったのですが...
北区
飛鳥山博物館 どこからアプローチしても、丘の上にある博物館(地図上では駅の隣ですが、高低差があるのです)。1998年3月開館と新しく、上の階には喫茶コーナーと図書室があります。常設展示室は下の階ですが、エレベータは完備しています(入口フロアが2階)。全体に中規模博物館ですが、都区内の施設としては大きい部類です(飲食施設付は、あと江戸東京博物館があるだけです)。
 北区には、中里貝塚、西ヶ原貝塚、七社神社前、豊島馬場(方形周溝墓)、都民ゴルフ場(古墳時代祭祀)、宮堀北(古墳時代祭祀)、赤羽台(特に古墳)、御殿山(豊島郡衙)などがあり、区内の考古資料は豊富です。
 旧石器、縄文土器、弥生土器、土師器はそれなりに並んでいます。地質や貝層関係の説明にも力が入っています。目玉は、実物大の郡衙正倉、中里の丸木舟(舷側が高い)、七社神社前の鉄釧、豊島馬場のガラス小玉鋳型、といったところでしょうか。
 展示や説明文の質としては、平均的なものです。弥生復元住居の背景にある映像展示で、弥生人が原始人のように描かれているのは残念です。資料のバラエティが豊富なせいもあるのでしょうが、全体に有機的な説明が不足しています。良かったのは、縄文土器への照明(文様が見易い)。飛鳥山博物館の長所は、展示デザインと、最新の資料まで取り入れられていることでしょうか。なお、横浜市歴史博物館と同様に、エンターテインメント(アトラクション)としての大画面映像プログラム(入替制)が、定時的に上映されています。
荒川区
荒川ふるさと文化館 新しい施設なので、展示デザインは洗練されています。説明文も概ね読みやすく、学芸的にも高度なもので、郷土史の生涯学習効果は高いといえます。入口手前の地質概説も簡潔ながら適確なものです。もともと荒川区内の先史遺跡は限られているのですが、その割にはしっかりした考古系展示といえます(展示は延命院貝塚と道灌山)。ただし先史時代についての情報量は少なく、型式表示もありません。むしろ板碑の解説の方が凝っています。全体的には好印象ですので、お近くの方にはお薦めします。
板橋区
郷土資料館 小規模とも中規模ともいえる設備ですが、基本的には一部屋です(企画展は2階)。板橋区は、遺跡関係は有力な区であり、遺物の質量とも、ある程度反映されています。建物はリニューアルされており、都内では標準的な施設といえます。いずれにしても、充分なものではありませんが...
練馬区
郷土資料室 全くやる気がありません。練馬区内には、有力な遺跡が多数存在するのに、そんなものは全く無いかのようです。まさに、ほこりをかぶった資料室のレベルで、生涯学習効果をうんぬんするレベルではありません。展示室も狭いので、早く心を入れ換えて、まともな郷土資料館を建設すべきです(無論、今となっては資金上の問題がありますから、バーチャル博物館でもいいのです)。
足立区
郷土博物館 外観は立派ですが、なぜか展示室自体は小規模です(ロビーや2階の回廊にも展示はありますが)。考古系は、基本的に伊興遺跡の西垣コレクションを展示しています。壁面を上手く使って、密度の濃い展示を工夫しています。透過光源の展示シートが色褪せてますが... 伊興遺跡公園内の展示館の方が、伊興遺跡についてはさらに詳しい展示が見られます(公園化に先立って行われた調査の成果を主に展示)。ただし、公園の作りには期待しないで下さい。伊興遺跡では(都史跡白旗塚古墳公園とは異なり)充分な遺跡調査を行った上で、公園化したのですが、土木課主導の公園作りだったようです。
葛飾区
郷土と天文の博物館 名前通り、プラネタリウムと天文部門を併設した、立派な博物館です。都内ではトップクラスです。建物も贅沢な作りです。展示についても、難がありません。年に一度は、考古系の凝った企画展が行われています。また「考古学ボランティア」として、市民参加活動も本格的に組織されており、毎年夏には学術的発掘調査を実施しています。
 なお、葛飾で特筆すべきことは、平日の閉館時間が遅く設定されていることです。つまりアフター5に行けるのです。これだけの立派な施設でこのサービスは、素晴らしい配慮です。
江戸川区
郷土資料室 2000年2月1日にリニューアル後は未だ見ておりません。以前は、古い展示でしたが、味がありました。考古系については未整理状態でしたので、評価の対象にはならないレベルでした。

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