京奈和自動車道(大和北道路)の環境影響評価準備書について

 環境保全の見地からの意見書


方法書を見てきました

2006.Oct.23rd(Mon)
前日は藤井寺の知り合いの所に寄らせていただいて、7時半に出発。橿原神宮前を経由して県庁に着いたのは9時40分。
前回よりもボリュームが増えて、こんな厚さ。


上から
・補足資料
・概略
・全容
の3部構成。
全容の大半は2004年の資料とかなり重複しており、概略を読めば2004年の後に寄せられた意見に対する回答が判るようになっている。
それでも全部読破するのに昼食1時間を挟んで午後3時くらいまで掛かってしまった。

その中で注目したのは県民とのコミュニケーションという記述。


後日談:郡山市下三橋に出店を予定しているイオングループの計画に対応するためと公然の秘密となっている「大和都市計画区域区分・用途地域の変更に係わる閲覧用図書」 の縦覧(2006/12/1〜12/22)もしてきましたが、貼り紙も出してないのは相変わらず。
巨大掲示板でも、店舗規模に対し周辺の充分とはいえない交通事情をさらに悪化させているダイヤモンドシティ・アルル(橿原)よりさらに酷いものになるのは必至だろう、と叩かれています。イオングループには別件でCSRに関するお伺いを出してましたが、返事は今のところ全くありません。同業種のイトーヨーカドーからは丁寧に連絡を頂いたのですけれども。


奈良県
奈良県知事 御中
京奈和自動車道(大和北道路)の環境影響評価準備書について
環境保全の見地からの意見書

(概要)
1. 県知事の意見において示されている、県民とのコミュニケーションを充分に行っていることを、準備書に記載されている各項目のように明確な基準をもって示す必要があります。
2. 地下水位の保全において、実証試験を行うことと、また保全のための追加施策が行われる可能性を県民に確実に知らしめる必要があります。
3. 気象変動、車両の使用状況の変動、地理的特性を組み入れた評価が必要です。
4. 高松塚シンポ(*1)における青柳氏や、ユネスコが求めていることは、「柔軟に修正でき、やり直しのできるもの」です。この評価がありません。
5. 八条では現在の国道24号線がJRと佐保川を同時にまたぐ高架構造になっていますが、大和北道路はその上を跨ぐ構造になっていることが明確に示されていません。
6. 八条高架付近の、50m前後になる標高差の上下移動に掛かる環境負荷が示されていません。
7. 景観への影響には、遠景の評価、近景の評価の両方が必要です。
8. その他

(各論)
1. 県知事の意見において示されている、県民とのコミュニケーションを充分に行っていることを、準備書に記載されている各項目のように明確な基準をもって示す必要があります。

 県庁の土木課があります北庁舎の6階の通路壁には、JR連続立体化事業に伴う大森陸橋や油阪陸橋の撤去に関するポスターが多数掲示されているのに対し、本件に関しては一切案内がありませんでした。奈良新聞のweb siteでの報道などを鑑みても、縦覧開始と郡山ICの完成予想図の報道くらいで、重要な事項が殆ど報道されておらず、充分なコミュニケーションが図られているとは言い難いです。むしろ「関心のある人だけそっと見て来てもらいたい」のようであり、これは縦覧において閲覧者の居住地、人数を記入する欄において、10月23日の時点で10名余しかなかったことからも感じられます。
 また、保護の対象が、施策が国際的に評価されている世界遺産地域である手前、県民のみならず全国、全世界レベルでコミュニケーションを図るものと考えられます。これは5月20日に大阪市内で開かれたシンポジウム「高松塚古墳・キトラ古墳を考える〜遺跡保存活用のあり方」(24日、朝日新聞にて紙面報道。以下、高松塚シンポジウムと略する)で坪井氏が特別講演で述べた「幅広い知恵集結しよう」に呼応しうるものです。

2. 地下水位の保全において、実証試験を行うことと、また保全のための追加施策が行われる可能性を県民に確実に知らしめる必要があります。

 「事前の涵養池設置、緊急対応としての注水井設置を行う」とありますが、これが確実に可能であるかどうかが確認されているのでしょうか。地下水位の急激な低下が発生した場合に、注水井がきちんと機能しなかったらどうするのでしょうか。高松塚などでは、後から冷却パイプを地中に多数通したりなどの努力を図られたようですが、劣化を止めることが出来ませんでした。また、キトラ塚では、関係者が高松塚の事例をもって「劣化を止めるのは無理だ」と予感していたことや、劣化を防ぐ可能性のある技術情報の伝達が確実に行われなかったことが判明しています。これらをふまえると、事前準備が不足していたことも大きいように感じます。
 高松塚・キトラ塚の二の舞を防ぐには、地下水位を確実に保持でき、また適切な水質(現時点で木簡が保存されている仕組みが未解明であるのならば、水質の確実な分析作業も必要になります)により木簡が確実に保護されることが確認できるような試験施策を行う必要があります。具体的には、冬期よりも水位が下がる夏期において、冬期と同じ水位まで保てるようにすることです。これは「もし水位が下がったとしても数cm」という予見に相応できるからです。
 そして、県民に伝えなければならないのは、トンネルが完成した後の異常低下が継続して発生した場合において、注水事業を継続して行わなければならなくなることです。これは特に夏期において、深刻な水不足が発生し、奈良県北部で広大な断水が長期間にわたって発生しても、注水事業を中断することは、世界遺産の保護の建前上、出来ないことを意味します。これを県民に納得してもらって、はじめて県知事の求める「コミュニケーション」が確立します。
 それから、最新のトンネル工法をもってしても漏水を止めることは出来なかったことが、奈良県の議会の議事録の中でも明示されています。(平成15年9月定例県議会)
上村庄三郎議員の報告→http://www.imj.ne.jp/uemura/keigikai/01.html
 完工直後は漏水が発生しなくとも、今後の地震によって発生する可能性は、高松塚に残っている地震の亀裂跡と、活断層の地図でも充分に予見できるのではないでしょうか。

3. 気象変動、車両の使用状況の変動、地理的特性を組み入れた評価が必要です。

 排気ガスにより発生する各種物質の発生量、分散のシミュレーションを記載されていますが、シミュレーションのための条件が「平均的な風向き」というのは適切ではありません。郡山市内においては、秋季には水田での野火焼きの匂いが長時間かつ広範囲に立ちこめています。これは逆転層の発生、盆地としての地理的特性が考えられます。同様に、無風状態が継続した場合、換気口近辺で排気ガスが滞留し、風が吹き出せば、一種の酸性霧の形で風下の住環境に重大な悪影響を及ぼす可能性も考えられます。これは、私自身、「やすらぎ通り」と「一条通り」の交差点付近に住んでいたことがあり、時々、塩素系のゴミが不完全燃焼したような匂いが一帯に立ちこめて頭痛がしたのを覚えています。この原因は当時ははっきりしませんでしたが、北の換気塔近くにある清掃工場で発生した可能性が高いと考えています。煙突で上空拡散を行っているにも関わらず、です。
 もちろん、酸性霧が霧散されずに春日大社近辺などに移動したらどうなるのかは、充分にご理解いただけるものと思います。
 車両の使用状況の変動ですが、トンネルの中に限らず、トンネルの反対側で事故などが発生し、通行中の車両が閉じこめられれば、アイドリングによる排ガスの発生はどのくらいになるのでしょうか。これはオートバイで第二阪奈生駒トンネルを走行中、大阪側で強い排気ガス臭を感知したことからも、換気は完璧に行えないと感じています(現在、改善されたかどうかは判りませんが)。また、想定されるような浄化装置を装着しない整備不良とおぼしき車両も多数存在することも無視できないでしょう。騒音についても、同様です。
 上記をふまえ、示されたシミュレーション値に対しては、数割の上下変動があることも思慮せざるを得ず、増加方向の値に対し、基準値を大幅に超過するような地点もかなりあると指摘されるのも予想されます。

4. 高松塚シンポジウムにおける青柳氏や、ユネスコが求めていることは、「柔軟に修正でき、やり直しのできるもの」、「取り返しのつくもの」です。この評価がありません。

 青柳氏の特別講演において「文化財保存の方法に『これが最高』というものはない。失敗を糧に、次の方策を立てていく必要がある。まず10年先を見て方針をたて、状況を見ながら修正していくべきだろう。ただし、その方法は柔軟に修正でき、やり直しのできるものでなければならない。」と記されています。ユネスコも同様な考えを示しています。これにたとえて言えることは、「交通量の増減状況を見ながら修正」です。トンネルという工法を用いてしまえば、「やり直し」ができないのは明らかです。
 さらに付け加えると、平城京跡で復元中の太極殿は、地中への悪影響を最大限に回避するべく、石を敷き詰めてその上に建立しており、地中に柱を埋め込むことはしていません。つまり、技術的に可能かどうかは別として、太極殿を分解して撤去して元通りの平地に戻すことが保証されていると受け止めています。このように未来においても充分な配慮を用いている事業に対し、顔向けのできるようにすべきなのは明らかですし、これに応えられる工法を提案できる事業者を公募する方法もあるでしょう。

5. 八条では現在の国道24号線がJRと佐保川を同時にまたぐ高架構造になっていますが、大和北道路はその上を跨ぐ構造になっていることが明確に示されていません。

6. 八条高架付近の、50m前後になる標高差の上下移動に掛かる環境負荷が示されていません。

 他の場所については明確な断面図が示されているのに、この場所だけは断面図が明確に示されていません。構造が決定していないから示されないという理由は、断面図が明確に示されている他の場所との整合性から見ても考えにくいです。また、建築廃材の発生量を抑制するのならば、大和北道路が現在の高架になっている国道24号線を跨ぐ構造になるのが妥当と考えられます。この仮定でいきますと、地上より15m前後のかなり高い高架道路になるのでしょうか。 そして、そのすぐ北でトンネルになりますが、このトンネルは一番深い所で地下40mとなりましょうから、前後で合わせて50m超の標高変化になります。これを自動車道路として時速80キロで走行させるとなれば、車両から発生する排気ガスも、平地のみの道路と比べてもかなりの量になるのは火を見るよりも明らかと感じます。このような重大と感じられる事項を伏せているようでは、とても公正な環境影響評価準備書として受け取ることができません。これを明らかにされたくないから、県民へのコミュニケーションも消極的にならざるを得なかったのだろうかとも感じますが、これらも含めて日本の道路史に、深く刻み込まれることを充分に理解しているのか疑問です。
 もし、地上15mにてまたぎ越す構造にしないのであれば、この場所の断面図を示すのにはなんら問題はないはずでしょう。

7. 景観への影響は、遠景の評価、近景の評価の両方が必要です。

 高架道路を遠くに望んだモンタージュ画像の掲示ならびに、通行には支障がないとありますが、一面的な評価でしかありません。歴史の散歩道がいくつか紹介されていますが、このうち高架道路と交差するコースにおいて、徒歩で通行することを想定しますと、近景を認識することになるでしょう。もちろん、高架道路に近づくにつれて視界を左右に大きく遮られます。しかも時間の掛かる徒歩ですので、遮られると認知する時間もかなり長くなります。 東京では歴史的な場所と評される日本橋の上空を塞ぐ高架道路を撤去しようという運びになっていることを考えると、あきらかに逆行していると感じます。  東京は別としておいても、観光客は一過性の認知であっても、住民にとっては余所へ引っ越さない限り、ずっと認知することも理解しておく必要があるでしょう。
 また、これらのモンタージュ画像を、県民に広く報せていたのでしょうか。

8. その他

 ウワナベ古墳(濠)のすぐ脇にトンネルを設けるようですが、この場合は危険物積載車両の通行に制限が発生する「水際トンネル」の指定を受けることになりませんか。複数の代替案で交通問題が解消すると指摘されるにも拘わらず、わざわざ制限を設けるようなトンネルを掘る必然性があるのでしょうか。
 極小の発生率に拘わらず、発火の懸念があるという唯一点のみにおいて、ソニーがリチウムイオン電池を全数回収する運びとなりました。また、中部電力浜岡原子力発電所で発生した低圧タービンのタービン翼の破損、損傷に関し、日立製作所は「当時の知見では予測できなかった」と、予想外の振動が原因だったと発表し、「もっと幅広く検証すべきだったという反省点はある」とも述べています。 (http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20061027/122869/)
このようにトンネル案においても同様に予想外の事態が発生することを考えれば、発生するための元となるトンネル案の取り下げも視野に入れるのはごく自然な指摘です。このような各方面の教訓を生かされることを望んでおります。

 最後に、環境影響評価準備書の主旨に拘泥し、矮小的かつ紋切り調子な答弁に終始することは、コミュニケーションの点でも非常に疑義を感じる所であることも申し添えておきます。

以上
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