「あなた・・・方は?」
 おそるおそる、と言った風に若菜が尋ねる。
 既に侵入者たちの姿はない。
 不利を悟ったのであろう、その撤退ぶりは迅速であった。
 ようやく落ち着きを取り戻した若菜の問いに、だが二人の男女は答えなかった。
 「ちと、遅かったな。」
 そんな若菜の言葉を遮ったのは、若菜の祖父であった。
 「おじいさま・・・」
 「もう一つの目的、ですか・・・」
 確か、碇ユイとかいっただろうか、その女性がにがにがしげに言葉を口にする。
 「ああ。若菜も目的には違いないだろうが、真の目的は、あれじゃよ。」
 「タブリス、ですか・・・」
 そう呟いたのは、六分儀ゲンドウと呼ばれた男であった。



Sentimental Midnight
第三章




 「はあ。」
 その頃僕は、その日何度目かのため息を吐いていた。
 そんな僕の顔を、るりかが怪訝そうな表情で覗き込む。
 「どうしたの?」
 「あ、いや、その・・・」
 別段やましいことがあるわけではない。
 単なる中学校時代の女友達、というだけのことである。
 けれどなぜか僕は、明日香と知り合いである、という事をるりかに言えなかった。
 言ったとて、何がどうなるわけでもない。
 ただコンサートを見に行く、というだけのことで、直接明日香に会うわけでもない。
 けれどなぜか、気が咎めた。
 あんな、別れ方をしたせいかもしれない。
 最後の最後、果たせなかった約束。
 一緒に見に行こうといって、結局見れなかったあの映画。
 僕はあの日、約束の場所にさえ、行くことができなかった。
 どこか罪悪感のようなものが、今でも僕の心の中にはある。
 だから、明日香の顔を、まともに見ることすら、できない。
 ブラウン管の向こうの、彼女の笑顔さえ。
 結局怖いのだ、明日香と関わりを持つ、ということが。
 「ほんと、何でもないんだよ。」
 どこか、自分に言い聞かせるかのように、僕は呟いた。




 世の中というものはつくづく皮肉なものであって、避けようとすればするほどに、引き寄せられていくのが運命なのであろうか。
 結局、コンサートの内容など、全く頭にも入らないまま、僕らは帰途につこうとした。
 「とりあえず、夕食でも食べにいこうか?」
 どこかるりかに悪いことをした、という感覚があったのか、僕はそう言ってるりかに笑顔を向けた。
 「うん、そうね。」
 そんな僕の笑顔を見て、やはりどこかでるりかも気にしていたのかもしれない、ようやく嬉しそうな、どことなくほっとしたような表情を、彼女は僕に向けた。
 混雑を避け、裏道へとまわった僕たちは、そこで彼女に出会った。
 「なに食べにいこっか。」
 なんの気なしに僕のほうをるりかが振り返ったその時、
 「るりか!前、前!」
 ドンッ、と軽い衝撃と共に、るりかが飛び出してきた誰かとぶつかった。
 「「アっ。」」
 その反動で二人が倒れる。
 「駄目じゃないか、前見て歩かなきゃ。」
 倒れたるりかを起こしつつ、僕は謝ろうと、その飛び出してきた人物の方を見た。
 それは・・・
 「明日・・・香?」
 サングラスで顔を隠してはいたものの、そこにいたのはまぎれもなく、星野明日香本人であった。



 「え?」
 明日香の方もまた、驚いたような表情で僕の方を見た。
 おそらくは、ファンを避けるために裏道から帰ろうとしていたのだろう。
 始めは、僕のことをそんなファンの一人だと思ってか、まずそうな表情を見せていたが、すぐにその表情が別のものへと変わる。
 「う・・・そ?」
 それは明らかに、僕が誰であるのか、それがわかっている、そんな表情であった。
 「会いに・・・来てくれたんだね。」
 不意に、目にいっぱいの涙を浮かべて、明日香は僕に抱き付いてきた。
 「明日香・・・」
 そんな明日香の突然の行動に、僕は驚きながらも、明日香の身体を受け止める。
 明日香を抱き留めると、色々な想いが交錯し、いろんな思い出が頭の中を過ぎった。
 あの頃の、思い出が。
 明日香をそっと抱きしめながら、僕は一番大事なことを忘れていることに、気付いていなかった。



第四章へ続く



あとがき

るりか:ちょっと、人の恋人に馴れ馴れしいんじゃない?
若菜:まあまあ、落ち着いて。
明日香:なあにが恋人よ。人がいない間に掠め取っただけでしょうに。
若菜:まあまあ、落ち着いて。
るりか:元々であったのは私の方が先なんですけどね。
明日香:なに!?
るりか:なによ!?
若菜:二人とも落ち着いて。
るりか:でもねえ!
若菜:最後にはあの方は私を選ぶのですから、関係ないじゃないですか。
るりか・明日香:アンタが一番図々しいわ!!



マナ:いきなり修羅場ですねえむこうは。
ジェイ:そうだねえ。
アスカ:しっかしいい根性してるわよね、この主人公も。
マナ:アスカさんが言うんだから相当なもんですよね(^^;)
アスカ:どういう意味よ(怒)








 

新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAX の作品です。



おなじみJ’s Archeのジェイさんの、
センチ&エヴァ連載シリーズの第3話です。

ついに再会した少年と明日香。
しかし、誰か忘れてるような......

次回はまさに修羅場に突入か!!!

続きを速く読みたい方はジェイさんへ感想の
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