僕の為に鐘は鳴るか?
サブタイトル〜琴梨_冬ストーリー〜

言いたい事は沢山ある。
言えない事は増えてゆく。
そして言えない事は胸の中でわだかまりになっていく・・・・・。
ふと叫びたい気分になるし、それが出来ない自分が嫌にもなる。

「もっと明るいほうに考えろよ」

友達はこう言った。
悪かったな、どうせ僕は悪い方向にしか、ものを考えられない奴さ。
なんだか頭の中が重くなってきた。
ちょっと気分を変えよう。

僕は大通り公園を散策し始めた。
様々なイルミネーションが輝き、雪に覆われた世界が華やいで見える。

「感傷的な気分になるなぁ・・・・・・」

白い息を吐きながら、ぼそっとそんな事を呟いた。

事の発端は、夏に出掛けた北海道旅行にある。
この頃、今とは比べ物にならない(としか今は感じられない)ほど小さな事で思い悩んでいた。
そんな時かあさんは、北海道行きの航空券を僕に渡したのだった。
そこで長年会ってなかった親戚宅にお世話になることになり、そして僕は琴梨ちゃんと再会したのである。
久しぶりに出会う僕たちは、夏の間にそれまで会ってなかった長い時間を取り戻し、その時僕は恋をしたのだろう。
(自分で言ってて、かなり気恥ずかしい)

東京に戻った僕は、琴梨ちゃんと手紙を交わし、会えない時間を埋めていた。
僕も冬に再会を果たすため、バイトを始めた。
かあさんはそんなバイトに出掛けていく僕の背中をニヤリと見ていたと思う。
そして僕はこの場に立っている。

独り公園内を歩いていると、再び悪い考えが頭を擡げてきた。
もっとクールに・・・・・・。
と思えば思うほど、琴梨ちゃんに会いたくて、でも会えなくて‥‥不安で‥‥切なくて‥‥床をゴロゴロ転がって‥‥それでも不安で‥‥\e
違う、そうじゃなくて、自分が今立ってる状況をふと思って、つくづく
「人間って弱いよなぁ」
とか思っていた。

夏にここにやって来たとき、琴梨ちゃんからイルミネーションカウントダウンの話を聞いたことがあった。
そしてそれにまつわる恋人同士のことも・・・・・・。
僕はそれをダシに、琴梨ちゃんに時間と待ち合わせ場所だけ伝え、のこのここの場にやってきたのだ。
琴梨ちゃんも、どういう意味での待ち合わせか、その真意はわかっている(と思う)。
人間誰しも他人の心はわからない。
それが親友であれ、恋人同士であれ、夫婦であれ、である。
お互い、気持ちが通じ合ってると思っても、それは大抵経験則による考えうる予想であると言うのが殆どだろう。
わからないからそれを何かで量ろうとする。
そして、その量り方は如何に自分が傷つかないで済むか、そんな後ろ向きとも言える手段であることが多い。
今回のこれこそ、究極の自己中心的且つ、人を量る行為ではないかと思うのだ。

来てくれれば、僕を好きである。
来なければ、少なくとも恋人とは見ていない。

二者択一の、殆どゲームみたいなものだ。
来てくれればハッピーエンド。
来てくれなければバッドエンド。
ハッピーならそれで良いし、バッドでも僕も情けない顔を見られて、恥ずかしい思いをすることは無い。
一つ屋根の下にいるのだから帰った後の心配もあるが、まぁ何とかなるだろう。
どうせ次の日には自宅に帰るのだ。
機内で気持ちの整理もつくだろう。
そうこう考えているうちに、時間は23:30になろうとしている。
そろそろ待ち合わせ場所に行こうと足を向けた。

ここは琴梨ちゃんと待ち合わせた場所だ。
カウントダウンが終わるまで僕はここで待つつもりだ。
待ち合わせの時間はもう過ぎている。
不安は残るし逃げたくもなる、だけど今だけはそれを止める勇気がある。
もしかしたら次には出てこない勇気かもしれないなら、ここで思いっきり使っておこう。
更に時間は回る。
そして・・・・・・・・・。



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