〜薫さんの手料理〜
作:safa

・・・トントン、トントン。
小気味良い包丁の音がキッチンから響いてくる。
・・・ドキドキ、ドキドキ。
さっきから僕の心臓は高鳴りっぱなしだった。

今日は僕が初めて薫さんの家に呼ばれた日。
・・・薫さんの手料理を初めてご馳走になる為にだ。
初めて入った薫さんの家、初めて見る薫さんの料理姿・・・。
何から何まで「初めて」づくしで僕の頭はパンク寸前だった。

「もう少しで出来るわ。・・・でも、大したものじゃないわよ」
「・・・う、うん」
僕の声はちょっと上擦ってしまった。
初めて見る薫さんのエプロン姿はとても新鮮でとても眩しくて、
どうしようもなくドギマギしているからだ。
家庭的な薫さんの姿が僕の心を強く惹きつけている・・・。

「はい、出来たわよ。あなたの好きなものが分からなかったから
無難に和食にしてみたけれど、どうかしら?」
僕の目の前にはご飯、味噌汁、焼き魚、煮物・・・、
実に見事な和食が並べられていた。
「すごいね、薫さん・・・」
思わず感嘆の言葉が口から出る。
「・・・ふふふ、料理を見たときの感想じゃないわね。
出来れば、美味しそうって言ってもらいたかったな」
「あ、ごめん。美味しそうだよ、薫さん」
僕は慌てて言い直した。薫さんはおかしそうに笑う。
「さあ、食べてみて」
「いただきます」
僕は箸を手に取った。薫さんが真剣な表情を浮かべる。
・・・僕の口に合うかどうか心配なのだろうか?
まずは味噌汁から・・・。
「・・・うん! 美味しいよ、薫さん」
僕の言葉を聞いて、ようやく薫さんがほっとした表情をする。
「良かったわ・・・。あなたの為に毎日料理の練習をした成果は
あったみたいね」
「えっ、僕の為に!?」
薫さんの意外な言葉に僕は驚きを隠せない。
僕の為に薫さんが料理の練習を・・・。
・・・心の底から嬉しかった。
「ありがとう、薫さん。こんなに美味しい料理だったら、
毎日でも食べたいよ。いつも薫さんの手料理が食べられたら
幸せだろうね」
感謝の言葉を述べて、僕は次の料理を口に運んだ。
・・・うん、これも美味しい。
僕は次々と料理を平らげていった。

・・・・・?
さっきから薫さんの様子がおかしい。
ぽうっと赤い顔をして僕を見ている。
・・・どうしたんだろう、薫さん?
そこで、僕はハッと気が付いた。
先程の僕の台詞は捉えようによってはプロポーズにも聞こえる。
・・・なんとなく気恥ずかしくなって僕も顔を赤くした。
たぶん、薫さんも同じことを思っていたのだろう。
「またご馳走してもらえるかな、薫さん」
・・・僕は無理に会話をしようとして、そんなことを尋ねた。
「そうね、また・・・ね」
赤い顔をしながら薫さんは嬉しそうに返事をしてくれた・・・。

〜おしまい〜


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