Cross of the EDEN
エデンの園の十字架


『近きに遠けり』


 夕方。といっても夏の夕方だから太陽はほとんど傾く事無く、僅かにかしげ
 ている程度だった。

 リリアンの正門の門柱にもたれるように聖は彼女が来るのを待っていた。
 しばらくして彼女はやって来た。

 彼女と彼女の妹、そしてその同級生たちと先輩達。
 最初に自分に気がついたのは先頭を歩いていた令だった。

 「聖さま!」

 その声に弾かれたように志摩子が自分を見つめる。

 「お…姉さま…」
 「志摩子…」

 志摩子が小走りにやってきた。
 聖は彼女をやさしく抱きとめる。

 「変わり、ない?」
 「はい」

 志摩子は頷く。
 頭を撫でながら顔を上げると、二条乃梨子ちゃんが何が起きたの?みたいな
 顔でこちらを見ている。

 「キミが二条乃梨子ちゃんだね」
 「は、はい。そうです」
 「わたしは佐藤聖。志摩子のお姉さまな人よ」

 −前の白薔薇さまで、志摩子さんのお姉さまだよ。

 まだ事態を飲み込めてないような乃梨子ちゃんに祐巳ちゃんがそっと耳打ち
 をしてくれる。
 すると、「ああ」といった感じで頷く。

 「乃梨子ちゃん、お邪魔しちゃって悪いけど今から志摩子ちょっと借りても
  いいかな?」
 「お姉さま?」

 志摩子が乃梨子ちゃんの方を見やる。

 「あ、はい」
 「ごめんね。明日にはちゃんと返却するから」
 「返却…」

 乃梨子ちゃんがぽかーんとした表情を浮かべる。

 「お姉さま!」

 志摩子が何やら言いたそうだったけれど、そのまま腕を取って歩き出す。

 「じゃあ、みんなちょっと志摩子借りるね。ごきげんよう」

 祐巳ちゃんが手を振りながら見送ってくれた後、乃梨子ちゃんの肩に手を
 やってくれていた。

 −ありがと、祐巳ちゃん。

 こういう心配りが自然にできる祐巳ちゃんを羨ましいと思いつつ、志摩子
 を連れて歩き続けた。

 「お、お姉さまどちらに」
 「この辺でいいかな?」

 リリアンから少しだけ離れたところにある小さな児童公園。
 そこの木の株を並べたようなベンチに腰を下ろした。志摩子も座らせる。

 「これ」

 ジーンズのポケットから出したものを志摩子に渡す。

 「これは…」

 それは小さなロザリオのようなキーチェーンだった。
 前に大学の友人達とM駅のモールで見つけたものだった。

 「ロザリオの代わり。って訳でもないけど、それは重くないでしょう」

 志摩子はそのキーチェーンを見つめて頷いた。

 「…はい」

 「祐巳ちゃんがね、怒ったの。わたしは志摩子と距離を置き過ぎだって」
 「祐巳…さんが」
 「うん。そうしたらなんか色々気づいちゃってさ」

 志摩子の肩に手を回す。

 「志摩子のためって想っていた事が実は自分のためだった事とか、志摩子
  には妹は出来たけど姉である自分はもういない事とか」

 思いつくまま話す。志摩子は黙って聞いていてくれた。

 「大学ってさ、志摩子にとっては近いようですごく遠かったんだなぁって」
 「お姉さま」

 志摩子が空いた方の手でシャツをきゅっと握り締め、肩に顔を埋めてきた。
 その重みがとても心地よかった。

 「ごめんね。優しくない姉で」
 「そんなこと…そんなこと、ありません」
 「志摩子…」
 「こうして、側にいてくださるんですから」

 志摩子の肩を少し強く抱いてさらに引き寄せる。

 「もう少し、近くいられるようにするよ」
 「…はい」

 さっきよりほんの少しだけ赤みを増した空がとても綺麗だった。

  -f i n-


ごきげんよう。
初の聖・志です。
瞳・祐を謳っているくせに白薔薇率が高くなって来ています。(汗)
原作読み返して思ったんですけど、聖さまって祐巳にはやたらめったら卒業しても
絡んでくるのに、ご自分の妹の志摩子さんにはほとんどというか思い返す限り、全
く接触がないんですよね。聖さま冷たすぎる(涙)
というわけで自分で書きました(爆)
祐巳がちょっと立派すぎなような気がしますが、こういう所気がつきそうなのって
祐巳しか思い浮かばなかったので。
いかがだったでしょう?
それではまた近いうちに。


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