新・闘わないプログラマ No.87

電源を切る


もう10年以上も前、コンピュータと言えばメインフレームが全盛のころのお話です。時々、社外からコンピュータやら開発現場の見学に来る人がいて、私もそういうのの案内役を何度かやったことがあります。
ある時、うちのとこで開発しているシステムのユーザーさんが大勢見学にこられたことがありました。案内役は、そのシステムの開発を担当していた人(仮に「Aさん」とでもしておきます)だったのですが、この人、自分の担当しているシステムについては詳しいけど、それ以外のコンピュータに関する一般的な知識がかなり欠けている、というCOBOLプログラマにはありがちな人物だったんですね ←大勢のちゃんとしたCOBOLプログラマの方、ごめんなさい。
「さて、これからご覧頂くのが、皆様がお使いになられている○×システムが動いているコンピュータの本体になります」と得意げに話すAさん。「ご覧頂いたとおり、何の変哲もない箱に見えますが、これ一台数十億円もする大変高価な代物です」
Aさんの得意げな話は続きます。「この装置の中では、御社のシステムをはじめ、大変重要なシステムがいくつも動いておりますので、これが止まってしまうと大変なことになってしまいます。これが1分止まっただけで、億単位の損害が発生してしまうことになります」おいおい、いくらなんでも、そんなに損害は出んだろう、という突っ込みをものともせずに、Aさんの話はなおも続きます。
「装置のはじの方に、電源スイッチが見えますね。間違って操作しないようにカバーが付いていたりしますが、そもそもプログラムが動いている最中は電源スイッチを操作しても、電源を切ることは出来ないようになっています。あちらにある端末から複雑な操作をして、プログラムを止めてからでないと、電源は切れません」
そんなに、複雑な操作だったっけ? それに、あそこにあるのは「端末」じゃなくて「コンソール」って普通呼ぶんだけど。「このように、簡単にはコンピュータを止められないようになっているわけです。では、試しにこの電源スイッチを操作してみましょう」
ば、ばか、それは違うってば。確かに、OSをシャットダウンしないと電源が切れないのは確かだけど、そのスイッチは違うって。バン、ヒュルヒュルヒュルゥ〜。ピ〜〜〜〜。「あれ? 電源が落ちちゃいましたね?? ヘンだな??」
そのスイッチの横には「Emergency power off」の文字が……

当時、パソコンのOSはDOSが全盛の頃で、DOSには「シャットダウン」などという高尚(?)な概念がありませんから、いつでも電源を切ることが出来たりしたわけなんですが、メインフレームなどは、正常にシャットダウンしてから電源を切る、というのが常識でした。
でもって、OSが動いている最中には電源スイッチを操作しても電源が落ちないようになっていたわけですが、でも、例えば装置から火を噴いた、とか、そんな理由でシャットダウンの操作なんかしてられない、緊急に電源を切らなければいけない、なんてこともあるわけです。装置自体に付いている「Emergency power off」スイッチはそのためにあるんですね。
ですから、このスイッチを操作すると、いきなり電源が切れてしまう。普通は、スイッチの前にカバーが付いていたりとか、手前に起こしてひねるとか、間違って操作してしまわないような仕組みになっています。そのスイッチの説明が英語でしか書いていなかった、というのも問題ですけど、知ったかぶりしたAさんが一番問題だったりして。
でもね、あのスイッチ、触ってみたくなるんですよね。核ミサイルの発射ボタンのあるところに勤務している軍人が、そのボタンを押してみたくなるのと同じ心理かも知れません。「やっちゃった」人間の話はよく聞きます。

話は変わって、その昔DOSが全盛だった頃、DOSの動いているPCと、UNIXが動いているワークステーション(WS)って、よく知らない人にとっては、ぱっと見、区別が付かなかったりするんですね。だから、パソコンのつもりでWSの電源をいきなり切ってしまう、という事件がよくありました。
「えー、これパソコンでしょ? 電源を付けっぱなしにしてあったから、切っといてあげたよ」とかいうお話。最近はPC用のOSでも、ちゃんとシャットダウンの操作をしてから電源を切る、というのが当たり前になってきていますから、あんまりそういう問題は起きないようですが。
そう言えば、あるメーカーのUNIX WSで、OSが動いている最中に電源スイッチを押すと、いきなり電源が切れるのではなく、シャットダウンの処理が走ってから電源が切れる、というのがありましたっけ。そういや、このあいだ入れたPCサーバー(OSはWindowsNT)にも同じような機能が付いていたっけ。結構一般的な機能なのかな。
いきなり電源を切られてしまう、というのでよく問題になるのに、支店とか営業所とか事業所とか、そういった所においてあるサーバとかルータとかの機器の電源を勝手に切られてしまう、というのがあります。
こういう機器は、いろいろな理由から、ずっと電源を入れておくような運用にすることが多いのですが、現場には、そのあたりが理解してもらえない場合が多かったりして、それはそれで大変です。

かく言う私は、と言いますと、「Emergency power off」スイッチを操作して、メインフレームの電源をいきなり切ってしまったことは無いです(←そういう誘惑にかられたことは無いわけでは無いかも知れない)。せいぜい、機械室を歩いていて、電源ケーブルを足で引っかけて、数十台くらいのルータやらハブやらの電源を切ってしまった程度のことがあるくらいです ←実はオオゴト

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