新・闘わないプログラマ No.391

パスワードを保存


「おい、メール読めなくなった。ちょっと直してくれよ」
「はい? ちょっと待ってください」
「早くしろよ。急ぎなんだからさ」
「ええと、メール受信すると……パスワードを訊かれますね。パスワードを入れてもらえますか?」
「パスワード? “1234”だよ。お前が入れろよ」
「あー、そういう簡単なパスワードはちょっと……後で変更してください」
「そんなことはいいから、さっさと直せよ」
「パスワードに“1234”と入力して、OK……あれ? これパスワードが違いますね」
「さっきからずっとそうなんだよ」
「いつもこの“1234”というパスワード入れてました?」
「知らん。メールを読むときにパスワードなんか入れたことねーぞ」
「じゃあ、“1234”というパスワードは何でしょうか?」
「ほら、パソコンを使うときに入れるやつだよ」
「ああ、Windowsのログオンパスワードですね。メール受信のパスワードはそれとは別のものでして、違うパスワードを設定しているかも知れませんね」
「いいから、さっさと直せよ」
「メール受信時にはパスワードを入れたことはない、ということですか?」
「さっきからそう言ってんだろ」
「じゃあ、最初にパスワードを入れて『このパスワードを保存』というところにチェックして、ずっと保存されていたパスワードを使っていたんですね」
「何だそれは。わけわかんねーこと言ってんじゃねーよ」
「何らかの理由で、保存されていたパスワードが消えちゃったみたいですね。メールアカウントの申請をしたときに、ご自身でパスワードを決められていると思うんですが、心当たりはありませんか?」
「だから、知らんって言ってるだろ? お前、コンピュータ詳しいんだからさっさと直せよ」
「いやあ、パスワードがわからないことには、私にはどうしようもありませんね」
「ちぇ、役に立たねー奴だなあ」
「ちょっと、メールサーバの管理者に問い合わせてみます」

「メールサーバの管理者に問い合わせてみようとしたのですが、今日はもう帰宅しているようで、つかまりませんでした。明日になれば……」
「ダメだ。今日中に何とかしろ。こっちは急いでいるんだ」
「管理者がつかまったとしても、もう夜も遅いですから、これから来てもらってパスワードのリセットを行ってもらうのはちょっと無理だと思うんですが」
「他人のせいにするんじゃねーよ。お前がなんとかすればいいだけだろ!」
「私はメールサーバの管理者じゃありませんので、他人のメールアカウントのパスワードリセットを行う権限が無いので無理です」
「そこをなんとかするのが……」
「ですからパスワードを思い出していたけるのが一番なのですが」
「だまれ、このやろー。いいからとっととなおせっつーてんだよ!! この役立たず!」
「ですから、パスワードが無いものをなんとかしろと……」
「お前、コンピュータに詳しいんじゃねーのかよ。だったら他人のパスワードくらい、ちょこちょこっとやればすぐにわかるんねーのか?」
「いえ、それはできるかどうかじゃなくて、可能だとしてもやっていいことじゃないわけでして。犯罪ですし」
「だから何だっつーんだよ」
「どうしても今日、メールを読まないといけないんでしょうか? 他の方法でなんとかする手立ては……」
「無い! さっさとなんとかしろ!」
「では、心当たりのあるパスワードを順番に入れていくしかありませんね」
「しらねーよ。オレはパスワードっつーたら“1234”しか使ってねーよ。銀行の暗証番号だって……」
「あわわ、それはいいですから。で、やっぱりまったく心当たりはないですか?」
「ない、っつーてんだよ。早くなんとかしろよ」
「もしかして数字だけの組み合わせですか?」
「数字以外使えんの? キャッシュカードだって数字を押すボタンしかねーだろが?」
「このメール受信のパスワードは、数字以外も使えますよ。でも、そうお思いだったということは、このパスワードも数字だけの可能性が高いですね。ためしに“0000”とか入れてみると……」
「お、動いた」
「受信してますね。パスワードは“0000”だったようですね。で、受け取ったのは、差出人が女性名のメールが1件……」
「こ、こら、見るな!」
「とりあえず、これでいいですね? でも、パスワードは他人から分かりづらいものに変更しておいたほうがいいですよ。あと、キャッシュカードの暗証番号も」
「うるせー。おまえハッカーだな。パスワードを破りやがって! 毎日、他人のメールをこっそり見たりしてるんだろー」

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