新・闘わないプログラマ No.228

エセ講師


今回のタイトルは、このコラムから(無断)拝借しました。このコラムを読んでみて、いやあどこでも同じような話があるんだなあ、としみじみ。
私も長いこと「エセ講師」をやってましてですね、それをやっている時間も、うちでは一応お金(給料)は出ているんでまだ恵まれているのかも知れません。ただ、評価の対象には全くなりませんね、そういう講師の仕事をしても。例えば何らかの研修の手伝いをしたとして、「研修にかかった時間」=「(本来の)仕事をしなかった時間」=「評価ゼロ」というのが現状です ←エセ講師だから仕方ないか…。
コンピュータ関連業界の仕事をするにあたって、能力が人によって雲泥の差があるのと同じくらい、講師をするにあたっての能力にも天と地ほどの差があると思うのですが、そういうのは全く考慮されないのが実情のようです。
そういえば、10年以上前の話ですが、新人研修で、ある人物が講師を務めたのですが、新人の一人が「何を言っているかさっぱり分からん」と席を蹴って帰ってしまった(聞くところによると、そのまま辞めてしまったらしい)という事件があったのですが、奴の講師ぶりじゃあ、真面目に聞いている方は怒るよなあ、それこそ「何を言っているかさっぱり分からん」説明をするし。
もちろん、席を立って帰ってしまった新人が(公的には)悪いことになるのですが、そもそもあんな奴を講師にした責任はどうなんだよ、と思ったりもしました。

私が見てて、これはちょっと、と思う講師の特徴を挙げると、こんな感じです。
まず、声が小さい。受講生の方を見ない。ホワイトボードなどの方に向かってぼそぼそと喋る。そう言えば椅子に座ったまま、下を向いて喋っていた奴もいたなあ。受講生の反応も見ずにどうして講義を進めていけるのか私には不思議なのですが。受講生が理解できなくて困っていないか、あまりにも易しすぎて退屈していないか、受講生の興味から外れていないか、受講生の反応を見なければ、そういうことが分からないはずなのにねえ。
次に、説明もしていない用語を使いたがる講師。しかも変な省略語だったり、部内用語(社内全体ですら通用しない、ごく一部でしか使われていない用語)だったり。また、用語の使用に一貫性が無い。同じことを指す言葉なのに、あるときには○○と言って、またあるときには△△と言う。常に、「その言葉は、いまの受講生に理解できるだろうか?」と考えながら、話をしていけば、用語の使用に一貫性を欠くようなことにはならないはずなのに。そもそも、こういう人、講師としてだけじゃなくて、例えば仕事で仕様書を書いたとしても首尾一貫していない矛盾だらけのものになりそうに思えます。
それから、やたら知識を詰め込もうとする講師。受講生はすぐになんでも覚えられるわけじゃないのですから、「ここだけは押さえておいて欲しい」というとこにポイントを絞って、そういう方向で話していけばいいのに、余計なことまで話しちゃう人、「こういうものもありますし、ああいうものもあります。そうそう、そういうものもありまして…」ってな感じ。「こういうものとこういうものがあります。他にもああいうものとか、そういうものもありますけど、ここではとりあえず重要じゃありません。ここのポイントはこれとこれがあって、その違いはなになにで…」と言えばいいと思うのですが。余計なことは話さず、ここはどういうことを伝えたいか、と考え、伝えたいことだけをちゃんと伝える、と。
あと、矛盾するような話を平気でする講師。前回言ったことと違うじゃないか、と聞く方を不安に陥れて、そのまま何のフォローもなしだったり。

とは言え、この「聞く方を不安に陥れて」というのは、テクニックとして使うことはありえます。例えば私なら、こんなことやったりします。

ええと、そういうわけでCにおいて関数への引数の受け渡しは「call by value」という方法を取っているので、たとえば「swap(int m, int n)」という関数を作って、mとnの変数の中身を入れ替える、などということは原理的に出来ないわけです。

などと言っておきながら、次回で、

さて、ここで「swap(char s[ ], char t[ ])」という、引数で指定された配列に入っている文字列を入れ替える関数を作ってみることにします。

とわざと言ったりします。で、「あれ? 変だぞ。前回説明された『call by value』なら、そういうことは出来ないのではないか、前回そう言ったじゃないか」と不思議に思わせるようにするわけです(これをやるのは、ポインタの話を出す前、配列とポインタの関係を知らない時点)。
実際には、もうちょっと細かく話して、少なくとも前回やった「call by value」の話を覚えていたら、不思議に思ってくれるように誘導するわけですが、でも実際には、こういう仕掛けを作って話しても、不思議に思って聞いてくるような受講生はほとんどいないんですよね。
というわけで、策に溺れてしまっているかも知れない「エセ講師」のたわごとでした。

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