新・闘わないプログラマ No.201

愛社精神


某社SE「…というわけで、次期システム全体の設計はいま申し上げたようにさせていただきたいと考えておりますが、何かご質問はございますでしょうか?」
部長「ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ」
某社SE「何がどのようにダメなのでしょうか?」
部長「全部だ。まったく設計というものがなっておらん。お前、何年この仕事やってるんだ? ウチの仕事を始めてから何年になる? こんな設計が通るとでも思っているのか?」
某社SE「いえ。ですからどこがどのように…」
部長「ウチのやり方はこうじゃないんだよ。こんな作りはダメなんだよ」
某社SE「と、おっしゃられましても…重要な基幹システムですから、基本的に冒険はするべきではないのは確かですが、最近はこのやり方で作られるケースが多くなってきておりますし、世間的にもかなり普及した手法になったと思います。そこで今回はこのような設計にいたしました」
部長「だから、それがダメだって言っているんだよ。ほかもやるからウチもやる、って、そういうもんじゃないんだよ。ウチにはウチのやり方ってもんがあるんだよ。もう何十年もかけて作り上げてきた、ウチの伝統とノウハウってものがな」
某社SE「ただ、このやり方は、ハードやソフトにかかる費用も少なく済みますし、トラブルも発生しづらいということで、この数年で世間に急速に普及した大変優れた手法です。これを採用するのは御社にとってもかなりのメリットがあると存じますが」
部長「ダメだ。ウチのやり方を変えるわけにはいかん。ウチのやり方に従って設計してもらわねば、キミのところとはもう付き合えん。おい、ところで、お前はどう思うんだ? さっきから黙っていないで、意見くらいしたらどうだ? ここは会議の場だからな。いろいろな意見を出し合って、よりいいものを作っていかないといけないからな。なんか発言しろ」
ヒラ「はい。某社さんの提案どおりのやり方がベストだと思います」
部長「なにい?」
ヒラ「私もあちこちで情報交換してますが、この方法で深刻なトラブルに見舞われた、というような話も無いようですし、ノウハウもかなり蓄積されてきています。何より費用を安くあげることができます。同業他社の状況を見ても、当社以外ではもうあたりまえの技術として採用されていますし、当社だけがそれを無視する、というのは逆にまずいのではないか、と考えますが」
部長「そんなことは聞いてねーんだよ。お前は黙ってろ! 横から口出すんじゃない」
某社営業「どうでしょう? 一度お持ち帰りいただいてご検討いただく、ということでは」

部長「おい、お前。さんざん余計なことばかり言いやがって。なんで某社の味方するのだ? ええ?」
ヒラ「いえ、ですから私は、世間の現状をお話したまでで、別に某社の味方をしたつもりはありませんが」
部長「うるせー、某社のあいつの言うことに賛成して、俺の方には反対しただろう? それが某社の味方をしたんじゃなくて何だと言うんだ? だいたいな、こっちは某社から見たら客なんだぞ。こっちの要求を受け入れさせるののどこが悪い? こっちの言うことを聞かなければカネは払わん。当たり前のことだろうが」
ヒラ「いえ、そういうことじゃなくて、某社さんの提案はウチにとってもメリットがあると思いましたので、あのようなお話をしました。ハードウェアの購入費も開発費も少なく済めば、当社にとってもいいことなので」
部長「そんなことはどうでもいいんだよ。ウチにはウチのやり方があるんだって、言ってるだろう。お前、そんなに某社の肩を持つんだったら、某社に転職したらどうだ? あん? お前のような愛社精神に欠ける奴はウチの会社には要らん。お前になんか払う給料など無いんだよ!」

このお話はフィクションです。たぶんフィクションだと思う。フィクションなんじゃ無いかな。

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