スカラ座改修工事のため2002年1月19日からの約3年間ミラノ・スカラ座の公演はミラノ中心部の北、ビコッカ Bicocca 地域に新設されたアルチンボルディ劇場 Teatro degli Arcimboldi で行われることになった。 この劇場はローマ市がピレッリ社 Pirelli 社の協力を得て、ヴィットリオ・グレゴッティ Vittorio Gregotti 率いるグレゴッティ・アッソチアーティ Gregotti Associati International の設計で完成したものだ。
今までスカラのチケットは大変入手が難しかったわけだが、この劇場は座席数が約2,400とスカラより約500席増え、また郊外で交通の便が悪いことからプレミアなどの特別の日以外はかなり入手が容易になったようだ。
座席はゆったりしており、アクースティックは贅沢なウッドの使用によりスカラ座とは比べ物にならないほど良い。 
 アルチンボルディ劇場へ  帰りのバス
 アルチンボルディ劇場の内外  旅のヒント
 私の観た公演  

アルチンボルディ劇場へ

ミラノ中心部からアルチンボルディ劇場への行き方は、イタリア国鉄のグレコ・ピレッリ駅から歩く方法Sign of Fermata to Teatro Arcimbordi at Piazza Duomoや、地下鉄とバスの組み合わせ等いろいろあるようだが、旅行者にとって一番わかりやすいドゥオーモ広場 Piazza Duomo からのシャトル・バスについて説明しよう。
ドゥオーモ広場のドゥオーモのファサードのちょうど反対側に細長いプラットホーム上のタクシー乗り場があるが、よく見てみるとそこに右のようなバス停のしるしが立っている。 上の四角の中にはスカラ座の舞台の写真が表示されているのでわかりやすい。 アルチンボルディ劇場は毎夜8時開演となっており、シャトルバスはここから18:45から19:00までの間5分毎に出発する。 バスはシーズン・チケットを持っていれば無料だが、それ以外の乗客は通常のATMのチケットを買う必要がある。 事前に帰りの分も含め2枚買っておく必要があるが、その滞在にあわせ3ユーロの24時間チケット等を買っておくと便利だ。 これだとATMのバス、路面電車、地下鉄に24時間乗れる。 なおチケットは乗車とともに刻印をする。 もちろん24時間チケットは最初の一回だけ刻印する。
シャトル・バスは市内の渋滞状態によるがおおむね40分程度でアルチンボルディ劇場前に到着する。

アルチンボルディ劇場の内外

劇場を外から眺めてみよう。 バスの止まった位置から劇場正面を眺めたところが下右写真だ。 この写真では良くわからないが劇場前には5本の黒い墓石のようなモニュメントが建っている。 左奥にはチケット売り場(下左写真)があり人が群がっていた。 ということは当日売りがあるという証拠(インターネットで申し込んだ場合には申込者の名前入りのチケットがDHLで送られてくる。)だろう。

Biglietteria Front View of the Theater

オペラ劇場には著名人が集まりやすいためか、セキュリティー・ガードや警察官が目を光らせている。
中に入ってみよう。 劇場内のチケットもぎりから座席案内係まで僧服というか騎士の普段着というか黒のローブに大きなメダルを太い鎖で下げた若者たちで一杯だ。 劇場正面がガラス張りということで、夏季は8時の開演まじかでも広いエントランス・ホール Foyer には西日が差し込み大変明るい。
このエントランス・ホールの両翼にレスト・ルームはあるがここの混雑は激しい。 男性用には老年にさしかかった女性がおり、中まで入ってきて入場の指図をしている。 おまけに退場するときにはチップを要求するので不快だ。 上方階両翼にもあるので、なるべく上の階のものを利用するとすいていて、変なおばさんもいない。
La Salaカフェテリア Bar は中2階にあり、両翼のカッサで支払いを済ませ、レシートをカウンターで差し出し、受け取りスタイルだ。 ここの上方壁面(屋根)が劇場正面に見えるガラス張りの部分だ。
オーディトリウム La Sala に入ってみよう。 劇場全体が上品な朱で統一されている。 朱の緞帳(遮音シャッター)の後ろに、スカラの伝統的なデザインの緞帳が収まっている。 座席はゆったりとしており、すわり心地はすこぶるよく、長時間同じ姿勢でも疲れにくい。 どうも各座席にはメット・タイトルよりさらに進化したイタリア初のマルチ・リングァル・スーパー・タイトル・システムが付くことになっているようだが、2002年7月現在付いていない。 座席は前方からプラテア Platea、プラテア・アルタ Platea Alta、プリマ・ガッレリーア Prima Galleria、およびセコンダ・ガッレリーアの4つに分類される。 セコンダ・ガッレリーアの最後列脇まで行ってみたが、舞台からそれほど遠くなく、またかなり見やすい。

私の観た公演

ご存知のようにオペラの場合には聴衆いかんによって演奏の良し悪しが大幅に変化するといわれる。 「オテロ」の場合にはその出だしの荒れ狂うコルシカの海の表現しだいで聴衆の集中度が俄然違ってくる。

2002年7月11日 ヴェルディ 「オテロ」
  Othello Andrej Lantsov   Desdemona Adrianne Pieczonka
  Jago Renato Bruson   Cassio Cesare Catani
  指揮 Roberto Rizzi Brignoli   演出 Graham Vick
  美術 Ezio Frigerio   衣装 Franca Squarciapino

ロベルト・リッチ・ブリニョーリの最初の一振りはすばらしかった。 これほどまでにはじけるような鮮烈なオテロの出だしを聞いたのは初めてだった。 今日は十二分に楽しめるぞと思ったし、ヤーゴのブルソンそしてカッシオのカターニも良い。 特にカターニは高音が楽々と出ている感じだ。
しかし舞台の間口を狭くするような馬蹄形の城壁を基本としたフリジェリオの舞台がよくない。 なぜわざわざ間口を狭める必要があったのだろうか。 ひょっとするとスカラ座よりここアルチンボルディの方が間口が広く、スカラで使ったものを変更せずに持ってきたのだろうか。 なんとも両翼が空いた舞台はみっともない。 また写実的でも抽象的でもない中途半端な舞台だ。
ランソフのオテロは迫力がなく、ピエチョンカのデズデモーナは何か自信過剰のような気がし、清楚でひたむきな役柄とはなっていなかった。 その他脇を固めるシンガーたちと合唱は手堅い演奏で、ブリニョーリの統制の取れた指揮の元、総じて楽しめる演奏だった。
この日の公演ではたしか1幕の後に35分、2幕の後に同じく35分、そして3幕の後に25分の休憩が挟まれていたのだが、2幕の後の休憩の後なかなか演奏が始まらない。 この日の観客は大変マナーがよく、オペラの進行を妨げるような場所での拍手は一切なかったのであるが、業を煮やしたOthello聴衆から催促の拍手が起こり、客席はいったん暗くなった。 しかし再びシャンデリアがつきさらに激しい拍手が起こる。 それでもなかなか指揮者が出てこずブーイングが起こり、それは指揮者の登場で最高潮に達した。 指揮者ブリニョーリは苦々しげな表情を見せ指揮を始めた。
終演後のカーテン・コールのとき見せたピエチョンカの立ち居振る舞いも、何かおごりを感じ好感が持てなかった。

Shuttle Bus帰りのバス

行きのバスは劇場のほぼ正面に停車するが、帰りのバスはそこからかなり前方が乗り場となっている。 しかしよく見ると例の停留所のポールがたっているので間違うことはない。 私は何回ものカーテ・ンコールがほぼ終了したころ劇場を出たが、バスに乗り遅れることはなかった。 ミラノの中心部まで約30分はかかるので、できれば座って行きたい。
このバスは途中何ヶ所かに止まるので、その経路と景観をよく頭に叩き込んで乗るのがよいだろう。 私は何も考えずに乗り終点のドゥーオーモ広場まで行ってしまったが、到着時間がおおむね午前1時で地下鉄の終電はすでに出ていた。 途中見知った場所もいくつかあったので、おそらくホテルの近くを走ったのであろうが、降りそこなってしまった。 なお市電と市バスは相当遅くまで走っているようだ。

旅のヒント

この劇場の開演時間は8時となっている。 今回の公演でも必ず幕間に十分な休憩時間をとっているところを見るとスカラではあまり終演時間を気にしていないということだろうか。 したがって長大なオペラになればミラノ中心部に帰り着く時間は相当遅くなるだろう。 したがってシャトル・バスを利用する場合の宿は帰りのバスの停留所の近くか、ドゥーオーモ広場の近くが便利だろう。