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武満徹
にほんごのちから/おんがくのちから
現代音楽家として知られる故武満徹は、シンプルで分かりやすい“Pop-Song”も数多く残している。
歌詞も作曲家の手になるものが多く、親しみやすい旋律と心優しい言葉が胸に沁みる。
武満徹のPopsは多くの歌手がレコーディングしているが、私は次の二つが好きだ。
石川セリ|翼|武満徹ポップ・ソングス
SERI/TORU TAKEMITSU POP SONGS COCY-78624/NIPPON COLOMBIA
1993年12月〜95年9月録音
- 小さな空
- 島へ
- 明日ハ晴レカナ曇リカナ
- 三月のうた
- 翼
- めぐり逢い
- 死んだ男の残したものは
- うたうだけ
- ○と△の歌
- 恋のかくれんぼ
- ワルツ「他人の顔」より
- 雪
- 見えないこども
『きっと多くの方が、なぜクラシックの、しかもこむずかしい現代音楽を書いている作曲家がこんなアルバムをつくったりするのか、不思議に思われただろう。』
と武満徹本人の製作の弁が載っている。
そう、作曲家存命中のアルバム、それも作曲家が歌手を指定して作った物だったのだ。
編曲は服部隆之、コシミハル、羽田健太郎、佐藤允彦、小林靖宏とトップクラスのセンスを持つ人々。
次に紹介する、小室等の、不器用にも思える素朴さとは違い、豪華絢爛、しかし、作曲家のポップ・ソングスを貫くシンプルなメロディとちからを持った歌詞は見事に生きている。
紹介する二枚は、全く異なるアプローチから作られたアルバムではあるが、どちらがよい、とか、どちらが好き、とか言う次元ではなく、どちらも作曲家の精神を見事に具現している。
もう一枚の方
武満徹ソングブック/小室等
TORU TAKEMITSU SONG BOOK/HITOSHI KOMURO FLCF-3684/FOR LIFE
発売日: 1997/05/21
- 明日ハ晴レカナ,曇リカナ
- うたうだけ
- ○と△の歌
- 小さな空
- 恋のかくれんぼ
- 見えないこども
- 三月のうた
- 死んだ男の残したものは
- 翼
- 昨日のしみ
- ぽつねん
- 明日ハ晴レカナ,曇リカナ(リプリーズ)
どれも良いが、ラグタイム風の“明日ハ晴レカナ,曇リカナ”これ、大好き。
前項で「不器用にも思える素朴さ」と書いたが、実はこのアルバム、バックミュージシャンに斯界のトップクラスのスタジオミュージシャンをそろえた録音なのである。
流石はプロ集団。決して出張らず、歌のバックに徹しているが…それは素晴らしい伴奏なのである。
小室等の歌はもちろんだが、バックの演奏も聴いて欲しい。
最近の皆さんはあまりご存じないようだが…
小室等は、二本のフォークソング黎明期、「六文銭」を率いて一世を風靡し、上条恒彦を世に出した、あの有名な“出発(たびだち)の歌〜失われた時を求めて〜”、中村敦夫の出世作「木枯らし紋次郎」のテーマ“だれかが風の中で”、中村雅俊(確か…)の青春TVドラマ「俺達の朝」の主題歌で、後に市川崑「八つ墓村」のエンディングにも使われた“青空に問いかけて”(TVの時のタイトルは“俺達の朝”:歌詞も異なる)、それから意外な作品ではTBSのニュース「テレポート6」のテーマ“夕暮れに”等を作っている。
“青空に問いかけて(俺達の朝)”もそうだが、谷川俊太郎とも親交があり、彼の詩に付けた曲も数多くある。
もちろん、自作の詩を歌った曲も多く、この人の[にほんご]も、谷川、武満に勝るとも劣らない美しい物だと思う。
ちなみに代表曲“雨が空から降れば”の歌詞は別役実である。
紹介した二枚のアルバムは、ひとつは作曲家自身が、ポップ・ソングス(大衆音楽)としての自作を気に入った歌手に託してまとめたいという気持ちを形にした物。
もうひとつは作曲家と親交があった歌い手が、去ってしまった彼に捧げるために作った物。
にほんごのちから、うたのちから、おんがくのちから、をこの二枚の録音盤から是非感じて欲しい。
(日本語歌詞は作曲家本人と谷川俊太郎による)
こんなのもお奨め
武満徹:SONGS
日本ショット ISBN4-89066-900-0 C3073
武満徹の楽曲20曲の譜面と作品ノートに加えて、大竹伸朗の絵画・オブジェ作品をカラーで収録した絵本仕立ての楽譜集。
Toru Takemitsu/武満徹:SONGS
\5,000.…ちと高いが。
(武満Popsは、聴く分にはシンプルだが…、譜面を見ると…エラいことになっている)
CD棚をかき回していたら、こんなのも出てきた。
一応、作曲家の「本業」とでも言うべき仕事も聴いておいた方がよい。
(生前の武満はポップスを書くのを楽しんでいたそうだが…どちらが「本業」か、などと考えていたのだろうか?)
上に紹介したポップ・ソングに比べれば「難解」と言わざるを得ないが、それでも組み合わされた音は美しいし、気持ちが落ち着くことだろう。
武満徹/翼(Wings) PHCP1823 [追悼盤]
- ア・ストリング・アラウンド・オータム(1989)
- そして、それが風であることを知った(1992)
- 海へIII(1989)
- 夜
- 白鯨
- 鱈岬
- スタンザ II(1971)
- 径 --ヴィトルド・ルトスワフスキの追憶に(1994)
- 遮られない休息(1952 - 59)
- ゆっくりと悲しく、語りかけるように
- 静かに、残酷な響きで
- 愛のうた
- リタニ --マイケル・ヴァイナ-の追憶に(1950/1989)
- Adagio
- Lento misterioso
- 〇と△の歌
- 死んだ男の残したものは
- 翼
今井信子(Va.)
サイトウ・キネン・オーケストラ(指揮:小澤征爾)
吉野直子(Hp.)
オレル・ ニコレ(Fl.)
ホーカン・ハーデンベルガー(Tp.)
小賀野久美(Pf.)
晋友会合唱団(指揮:関屋晋)
録音:
1990.8.14.(1), 1993.2.13-18.(2-5), 1996.5.23-6.3.(6),
1994.9.25-30.(7), 1990.2.23-24.(8-12), 1992.9.15-16.(13-15)
これは、1996.2.20.に没した作曲家の追悼盤。
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