GBのアームチェアCinema見ist:僕のスウィング

僕のスウィング

僕のスウィング:swing

監  督 トニー・ガトリフ
音  楽 トニー・ガトリフ
主  演 オスカー・コップ
助  演 ルー・レッシュ/チャボロ・シュミット/マンディーノ・ラインハルト
製 作 年 2001/仏
シナリオ トニー・ガトリフ


『ベンゴ』『ガッジョ・ディーロ』『モンド』と、自らのロマの血の誇りを描き続けるトニー・ガトリフの最新作。
上映館が少なく、見に行く機会を逸してしまったのでDVD発売発表と同時に予約し、発売前日に入手。
ジャンゴ・ラインハルトの後継者とまで言われるチャボロ・シュミットが重要な役柄で出演している。 これはもう、特典映像のチャボロ・シュミット ライブ(17分)を見るだけでも手に入れる価値はあるかも。

映画は、特に美しくはない普通の少年とロマの少女の一夏の淡い恋。そして、二つの別れ…
炎に包まれるD-Hole マカフェリギターと小川に流される燃え残ったネックとテールピース…持ち主の遺骨のような姿が悲しくも美しい。
“ギター弾きの恋”では「今までに、こんなに哀しく壊れたギターを、見たことがない。」と書いたが、時を置かずして「こんなに悲しい壊れたギター」をまた見せられてしまうとは…

特に大きな事件も山場もなく、淡々と語られる少年少女の過ぎゆく時間。
過去を語らないロマの老婆が言葉少なに口を開いた迫害の人生…
映像はチャボロの言葉『音楽は耳と心だ』を辿るように、紡がれる。

ロマの歴史は流浪と迫害の歴史。
しかし、彼らは過去を振り返らない。黄泉へ旅立った人々を語らない…
近年では、ナチスによるユダヤ人に対するホロコーストの人数カウントとされている内、かなりの数、半数近くの被害者が実はジプシー達だったという説もあるが、それが知られていない理由を初めてこの映画で知った。

悲しくも美しく、そして儚く過ぎ去る夏の日…
少女見つめる少年のギターは“黒い瞳”を奏でてスウィングする。

湯水のように資金をつぎ込んだ特殊撮影も、血沸き肉踊るアクションも、燃えるようなラブシーンも、手に汗握るスリルとサスペンスも、壮大なオーケストラが奏でる重厚な音楽もない。
たまにはこういう地味ーな映画も良い物だ。


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