GBのアームチェアCinema見ist:シンドラーのリスト

シンドラーのリスト

シンドラーのリスト:Schindler's List

監  督 スティーヴン・スピルバーグ
音  楽 ジョン・ウィリアムス
主  演 リーアム・ニーソン
助  演 ベン・キングズレー/レイフ・ファインズ
製 作 年 1993/米
シナリオ スティーブン・ザイリアン
原  作 トーマス・キニーリー


自らがユダヤ人であるスピルバーグが満を持して作った…
これまで、あれだけヒットを飛ばしながら、それまでオスカーに縁がなかった彼が本気で賞をねらったと言われる作品。
アカデミー賞の審査員にはユダヤ系の人が多いのだそうである。それ以前にショービジネスにスポンサードする裕福な層にも…
このお膳立てなら受賞は予測された物であろう。そして、そうした勘繰りがこの作品にはつきまとう。
スピルバーグの野心作?
賞欲しさに作った…?

下素な勘繰りは止めよう。
長い長いこの映画には、それでも真実があるのだ。

大仰な芝居無しに丹念に、しかし、淡々と、記録映画のように克明に描かれる残虐…そして、敢えてモノクロで撮影されたこの作品。
モノクロームの映像には天然色にはない力と重みがある。
音楽は名匠ジョン・ウィリアムスだが、いつもの劇的かつ壮大な曲想ではなく、うっかりすると無声映画と思える程の地味で控えめなサウンドトラックを付けている。
そんな、ある種の静寂の中、あまりにも簡単に人間が殺されていく。
大袈裟なカメラワークもなく、ただ日常的に銃弾が人間を貫き、無垢の市民の命が消える…
あまりに冷静な目で次々と描かれる人の死は、モノクロームの美しさと相まって、逆に映像美さえ感じてしまうのが恐ろしい。

そんな中、シンドラーその人の描き方はあまりに格好良すぎる気もするが、壮絶で残虐な映像の中にも、大ヒットETでも見せたスピルバーグの優しさは、この作品でも溢れている。

シンドラーが救った“リスト”の子孫たちは今や6,000人を超えるという。

某所で、
ナチスを冷酷に描けば描くほど,米国のユダヤ資本家におもねっているように見えます.また,スピルバーグの表現技術が巧すぎて,逆効果の印象を受けました.「さあ,感動しなさい.早く感動しなさい.」と訴えかけられているようで...
と言う感想を読んだ。
確かにそんな感想も否定できない。

しかし、理由や動機はどうあれ、こういった「作者が作らざるを得なかった」作品は深読み、裏読みを排して素直に見るべきではないかとも思う。

歴史的知識として、恐らく全ての日本人はホロコーストの存在を知っている。
(実際にはホロコーストの犠牲者のうち、かなりの数、実は半数近くの被害者が実はユダヤ人ではなく、ジプシー達だったという説もあるのだが…参考
我々の同胞、父や祖父達も、かつて朝鮮半島や中国大陸で似たような残虐行為を行ったという。
そして、世界のどこかでは今でも同じように人により、人の血を、人の血で洗い流すような行為が行われている。
しかし、戦後に生まれて平成の現代、21世紀を生きる平和に慣らされてしまった我々には、そんな行為に走る極限の憎しみは容易には理解できない。

原作の訳者は、「ユダヤ人迫害それ自体は、この作品の主題ではなく、ナチスという強大な組織に、うわべは従順をよそおいながらも敢然と挑戦し、個人の力で1,200人を超えるユダヤ人を死の運命から救った男の物語である。」(要約)と解説(新潮文庫)に記しているが、前述したように、確かにこの映画の主人公はそういう観点から描かれているようにも思える。
だが、そういったことも含めて、この作品は少なくとも一度は見ておくべき20世紀が遺した貴重な財産だと思う。
許されざる愚行を繰り返さないためにも。


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