GBのアームチェアCinema見ist:平成狸合戦ぽんぽこ

平成狸合戦ぽんぽこ

平成狸合戦ぽんぽこ

監  督 高畑勲
音  楽 上々颱風
製 作 年 1994
シナリオ 高畑勲
原  作 宮崎駿(企画)

語 り
古今亭志ん朝
出 演
野々村真.石田ゆり子.泉谷しげる.神谷明.林家こぶ平.福澤朗. 三木のり平.清川虹子.芦屋雁之助.桂米朝.桂文枝.柳家小さん他

1994.8.
行こう行こうと思っていてなかなか行かれず、夏も終りになってやっと重い腰を上げて映画館に向かった。
夏休み中は休みの子供達で映画館も混雑する筈なので一番すいている週始めの最終回を狙って出かけた。封切り後だいぶ経つと言う事もあるのだろうが、案の定人気作品にも関わらず、19時からの回は座って見られるどころか館内は1/3程度の観客しか入っていない。しかし、映画はなるべく封切り直後に見に行くのが得策で、この映画も一応封切り館にも関わらずフィルムの傷みが激しく、画面の乱れ、音質の劣化がかなり酷く、見苦しかった。

さて、肝心の映画だが、ジブリ作品は相変わらずグレードが高い。お家芸の風景描写は懐かしく美しく、登場人物(?)達はデフォルメにも関わらずリアルで存在感がある。
何よりざっと見ただけでもこの声の出演者達の豪華さは凄い。

スタジオジブリは宮崎、高畑の監督作品をほぼ交互に製作している。両氏ともかつての東映動画労働組合出身であり、その思想背景を作品に色濃く反映させている。
特に高畑は思想的表現が直接的で、見る人によってはその主張が些か煩わしく感じられることも又事実であろう。
高畑監督作品において、原作を持つ作品「火垂るの墓」では、その思想表現が原作の強さ、重さと絶妙に調和バランスして見事な映像世界を創り出していたが、同様に原作を持つ作品ながら前作「おもひでぽろぽろ」では監督の色が強く出すぎ、かなりうっとおしい作品となっていたのが印象的であった。
「火垂るの墓」は原作が作者の個性やメッセージを非常に強く持った作品なので、自由な脚色がし難かった、許されなかったと言う事情が有るかも知れない。
「おもひでぽろぽろ」に関しては原作とは言え少女漫画で描かれた部分は本編の半分程度にしか過ぎず、メインの大部分は監督のオリジナルである。現代農村問題・女性の自立等を提起したそのオリジナル部分が妙に社会派ぶりっこで説明、説教臭く感じてしまったのは私だけだろうか。

本作品「平成狸合戦ぽんぽこ」は原作を持たない監督オリジナル作品で、監督の力量やセンスが随所に光る物となってはいる。しかし、脚本発想の時点で既に「社会派」たる問題提起が強く出てしまった様でもある。
確かに映像は素晴らしく、テンポも生き生きとはしているのだが、妙に説教臭さが目立ってしまい楽しい筈の「総天然色漫画映画」にどっぷりと浸りきることが出来なかったのは又、事実ではある。
特にエンディングにおける狸による観客へのメッセージは蛇足も良い所で、完全に興ざめという他はない。
主張や訴えは、もちろん、これをを否定するものではないが、もう少し工夫があっても良かったのではないか。
妙に説教臭い台詞で説明して映像世界を台無しにしてしまった例は昨年劇場公開されて、先日TVでも放送された「水の旅人」でもあったが、直接的に台詞(言葉)で説明するのではなく、映像やストーリーの流れの中で自然な形で観客にメッセージを伝えることが、「水の旅人」の監督大林宣彦や、この作品の高畑勲なら出来るのではないだろうか。

-追記-
しかし、最近は殆どがそうだが、TV局の紐付きで映画を作って劇場公開1年でTVに落としてしまうような作り方をしていたら日本の映画の未来は益々暗いものになってしまうよなぁ。



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