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ロード・オブ・ザ・リング

ロード・オブ・ザ・リング“王の帰還”
:The Lord of the Rings: The Returen of the King

監  督 ピーター・ジャクソン
音  楽 ハワード・ショア
主  演 イライジャ・ウッド
助  演 リヴ・タイラー/ケイト・ブランシェット/ヴィーゴ・モーテンセン/イアン・マッケラン
製 作 年 2003/米・ニュージーランド
シナリオ ピーター・ジャクソン/フラン・ウォルシュ/フィリッパ・ボーエンズ/スティーブン・シンクレア
原  作 J.R.R.トールキン


偉大なる哉ヲタク。
南半球の片田舎、ニュージーランドの一人のヲタク、それまでは、一般的にはほとんど無名の存在であった、ピーター・ジャクソンは映画史上最高の金字塔をうち立てたのかも知れない…

私は、プロローグ直後エドラス王宮の俯瞰が映し出されたとき、「ああ、帰ってきた…」とその場で物語世界に回帰してしまったのであった。
そして、私の三年間(物語中の人々にとっては約一年)の旅も又完結した。

前にも述べたように、私は、一作目は期待に胸膨らませて封切りと同時にスクリーンに向かったが、二作目は実は映画館へは行っていない。
嫌いなわけではなかったのだが、何故なのか、自分でも良く分からない。
しかし、たまたま入った貸しビデオ屋で、「まぁ見ておいても損はないか…」程度の気持ちで手に取った“二つの塔”に、見事にノックダウンを喰らい、結果、次の日に一・二作とも購入のためにビデオショップに走ったのである。
食わず嫌いは一生の不覚となるところであった。

前作「二つの塔(The Two Tower )」の感想で、私は、

前作も映画レベルからすればかなりな物なのではあるが、本作を見る限り、前作は第二部第三部に至る壮大な予告編に過ぎなかったのかも知れない。

…と書いたが、監督のピーター・ジャクソンも「三部作の一・二部はこの三部を撮るための物だった」と語っており、まさにそれは映像に具現されている。

本作は書籍の三部「王の帰還 (Return of the King)」に当たる。
多少の猜疑心を捨てきれず、劇場へは行かずじまいでDVDで見てしまった第二部では、ビデオ鑑賞の弊害とも言えるミクロ視点“あら探し”的な見方をしてしまったが、本作では大スクリーンを前にして“大好きなトールキンの物語世界”に入り込むつもりで気持ちよく鑑賞できたのである。
桁違いの「指輪ヲタク」であるこの監督の視点を疑う余地はすでにない。
中つ国とそこに住まう人々の描写はもはや全てお任せなのである、
(主人公のキャラクターにはいまだに馴染めないのだが…)
203分(3時間23分)という途方もない長尺映画ではあるが、少なくともその長さを感じさせない。

映像表現について、こういった作品においては必須とも言える特殊撮影についてであるが、それを売りにしているきらいのある作品も多い中、本作では特殊撮影については語るべきではないと思う。
本作は特殊撮影を見せるための映画ではなく、「指輪」を再現するにあたって、たまたま表現上必要であっただけであり、特殊撮影はあくまでも製作手法。
その手法に対して云々するのは無粋というものである。また、特殊撮影そのものに着目する暇がないほど隙のない作劇が成されている。
完成した作品が良くできていれば、その素材は何であろうと、はっきり言ってどうでも良いことなのである。

受賞は
2003年度ゴールデングローブ賞 作品賞・監督賞・作曲賞受賞

第76回アカデミー賞 最優秀作品賞/最優秀監督賞(ピーター・ジャクソン)/最優秀脚色賞/最優秀作曲賞(ハワード・ショア)/ 最優秀主題歌賞/最優秀編集賞/最優秀美術賞/最優秀衣装賞/最優秀音響賞/最優秀メイクアップ賞/最優秀視覚効果賞

とほとんどの賞を総なめであることを記録しておく。

しかしながら、本作でも劇場公開では尺の関係でカットされたシーンが又かなりあるらしい。
カットシーンはビデオ/DVD発売時には復活させるらしいが…
前作同様、また“劇場版”と劇場公開時にはカットされた重要なエピソードを復活させた、いわば“完璧版”を販売額を違えて売り出すのだろうか?

再度書いてしまうが…
公開に際しての映画尺の問題があり、仕方なくカットした場面の再追加とは言え、両方とも購入してコレクションにしろとでも言うのだろうか?
マニアはそうするではあろうが…凄い商売だな。

映画もお奨めではあるが、出来れば原作にも触れて置いていただきたいと思う。
原作『指輪物語』は評論社から3種が刊行されている。
瀬田貞二は既に故人となってしまったが、ファンタジーの翻訳では第一人者で、その日本語には美しい趣がある。
もう一つの名作「ナルニア国物語」でも、こちらは多少年少者向けではあるが、瀬田貞二の素晴らしい訳文を読むことが出来る。

『指輪物語』J.R.R.トールキン作/瀬田貞二・田中明子訳
A5ハードカバー版(全7巻):各2200円(税別)
文庫版(全10巻):1〜9巻700円(税別),10巻900円(税別)
カラー大型愛蔵版(全3巻):各7800円(税別)

実は、私が読んで蔵書しているハードカバーも文庫版もまだ田中明子が参加していない“旧訳”なので、そのうちにこの“新訳”も読んでみたいと思っている。

フロドの養父ビルボ・バギンズの若かりし頃の冒険談(指輪物語の前振りとも言える)『ホビットの冒険』は岩波書店刊の全2冊、やはり瀬田貞二の訳で読むことが出来る。

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