GBのアームチェアCinema見ist:ハクソー・リッジ

ハクソー・リッジ

ハクソー・リッジ(原題:Hacksaw Ridge)

監督 メル・ギブソン
脚本 アンドリュー・ナイト/ロバート・シェンカン/ランダル・ウォレス
原案グレゴリー・クロスビー
出演 アンドリュー・ガーフィールド/ヴィンス・ヴォーン/サム・ワーシントン/ルーク・ブレイシー/ヒューゴ・ウィーヴィング/ライアン・コア/テリーサ・パーマー/リチャード・パイロス/レイチェル・グリフィス
音楽 ルパート・グレグソン=ウィリアムズ
製作年 2017/米


太平洋戦争の沖縄戦で衛生兵(Combat Medic)として従軍したデズモンド・T・ドスの実体験を描いた戦争映画。デズモンドはセブンスデー・アドベンチスト教会の敬虔なキリスト教徒であり、沖縄戦で多くの人命を救ったことから、「良心的兵役拒否者(Conscientious objector)」として初めて名誉勲章が与えられた人物である。
「ハクソー・リッジ」とは、沖縄戦において、浦添城址の南東にある「前田高地」と呼ばれた日本軍陣地の北側が急峻な崖地となっており、日米両軍の激戦地となったことから、米軍がこの崖につけた呼称(Hacksaw=弓鋸)である。
2017年の第89回アカデミー賞において録音賞と編集賞を受賞した。
(Wikipediaより)

銃も手榴弾もナイフさえも、何ひとつ武器を持たずに第2次世界大戦の激戦地〈ハクソー・リッジ〉を駆けまわり、たった1人で75人もの命を救った男の物語を、俳優、監督としても数々の賞を受賞しているスター俳優が、およそ10年ぶりに監督した意欲作。

そんな予告編を観て、これは本編観たい、と思った。

監督はあの「マッドマックス」、「リーサルウェポン」のメル・ギブソン。

結論から言うと、「戦争映画は苦手」と言う向きは見ない方が良いかも。
私は「観て良かった」と思うのだが。

本作は、日本での公開は「PG12」と比較的緩い鑑賞制限しか設けられていないが、その戦闘シーンは、地獄のような残虐描写に溢れている。

映画は凄惨な戦闘シーンで幕を開く。
霞んだ戦火の中で駆け抜け、吹き飛ぶ人影、シルエット。
(いや、これはほんの小手調べで、後半の表現は…)
あれれ…
戦闘帽に後ろ垂れを付けたこの姿は日本兵?

今回もいつもの様に事前に情報を入れずに劇場に臨んだので、漠然とヨーロッパ戦線をイメージしており、まさか対日戦争が舞台だとは思っていなかった。

比較的平坦で広大な大陸で戦われたヨーロッパ戦線は、その状況も「俯瞰」出来るので、悲惨な戦場もそれなりに“綺麗に”見せることが出来る。
旧日本軍が戦った多くの戦域は狭く険しい島嶼部が殆どなので、直接視点で肉弾戦を描くしかない。

本作の戦場は戦争史上でも最大級に熾烈を極めた「沖縄戦」だったのだ。

『汝、殺すなかれ』とは、ユダヤ教・キリスト教の戒律であると同時に、人類の普遍的な倫理観である。だが人類は平和を実現すると言う名目の元数多くの戦争を行い、人を殺してきた。しかし、この矛盾を受け入れることを良しとしないまま、戦地に赴いた兵士がいたのだと言う。

突っ込んでしまえば、一人の負傷兵を救出するために、群がる敵兵(今回は日本兵)を弾幕でなぎ倒すなどという矛盾は…取り敢えず置いておくしかない。

これは太平洋戦争の沖縄戦で衛生兵(Combat Medic)として従軍したデズモンド・T・ドスの実体験を描いた戦争映画。デズモンドはセブンスデー・アドベンチスト教会の敬虔なキリスト教徒であり、沖縄戦で多くの人命を救ったことから、「良心的兵役拒否者(Conscientious objector)」として初めて名誉勲章が与えられた人物である。

映画はその中盤までの時間を費やして、主人公の少年時代から陸軍に志願するまでのアメリカの家族を丁寧に描く。
この前半部分があればこそ、後半の酸鼻を極める戦闘シーンが存在する意味がある。

彼は、些か狂信的ではあるが…自己の宗教的倫理観と過去の過ちと父親との葛藤、戦場でそれらと戦っていたのであろう。

スプラッター・ホラーのグチャグチャと比較してはいけない。

陰惨で血みどろな残虐描写は主人公の「命を賭けた信念」を際立たせる物なのだ。
彼が戦っていたのは日本兵ではなく、信仰心に対する自分自身の心の揺らぎ、自分を排除しようとする軍隊、家庭に不幸をもたらした父親だったのだと思う。

ドンパチは凄まじいが、本作は単なる戦争アクションではなく、心の闘い。ある意味“宗教映画”なのだろう。
作中で宗教色は強く語られないが、ラスト近く、主人公が救出されるシーンは、宗教画そのものであった。

スパイダーマンとアバターとエージェント・スミスのエルロンド様。

いや、結構豪勢な配役ではないか。

映像の壮絶さに目を奪われるが、実はメル・ギブソンは、日本人に対して同情はしておらず、さりとて悪意も感じられなかった。ことさらに凶暴で狂信的な軍隊というような描き方もしていない。
政治的なテーマにも一切触れていないし、史上希に見る“悲惨な戦場”「沖縄戦」に関しても具体的な提示は行っていない。
「強いぞ勝ったぞアメリカ万歳正義の祖国」的なメッセージもそこにはない。

ただ、そこには“普遍的な戦場”があるだけである。

本作は戦争を肯定も否定していない。
イラク戦争の英雄クリス・カイルを描いた「アメリカン・スナイパー」も似た印象があったが。

米軍兵士達に「ハクソーリッジ」と呼ばれた難攻不落の前田高地(浦添グスク跡)は、沖縄戦で最も熾烈な闘いが繰り広げられた場所だという。
そのそそり立ち切り立った150mの絶壁が、弓鋸=Hacksawに見えたことから、米兵の間でその渾名が付いた。

もちろん沖縄戦がとんでもない闘いだったと言う事は認識していたが、この事実は…知らなかった。

狭く起伏が激しい前田高地の闘いでは米軍も機動力を行使出来ず、生き地獄の如き白兵戦を行ったのだと、そしてその損耗は甚だしかったのだと、彼の側の状況を初めて知ったのである。
この位置・地形から米軍はここを乗り越え、拠点として押さえない限りは目的地首里へと進軍することが叶わなかったのである。

そんな中、一切の武器を持たず、敵味方関係なく命を救い続けた神がかりの男の存在は不気味でもあるが、しかし、感動は呼び起こす。

実話といえど脚色もされているようだが。
(Wikipedia英語版によれば、ドスの超人的な活躍が実際には短期間ではなくある程度の期間で成し遂げられた功績であるとされる。)

デズモンドは、沖縄戦で75人の負傷兵を救い、1945年10月、良心的兵役拒否者として初めて名誉勲章をトルーマン大統領から授与された。彼は1991年に妻ドロシーが死ぬまで幸せな結婚生活を送り、2006年に87歳で死去した。

「前田高地(浦添グスク跡):国の史跡」は、現在では第二次世界大戦の戦跡として観光地となっているそうな。

 前田高地の闘い

 浦添市「ハクソーリッジ」案内

本作の日本のディストリビューターは「キノフィルムズ」。
前日観た「パトリオット・ディ」もそうで、スクリーンにその社名がクレジットされた時は、おや?と思った。
こんな会社は知らなかったからである。

ハウスメーカー・木下工務店でおなじみ株)木下グループホールディングスの傘下にある映画製作・配給会社で。最近の配給作品を見ると比較的エンターテイメント色が薄い歴史モノ、文芸モノ、言葉を変えれば爆発的ヒットが期待できない作品が多いようだ。

マーケティングが難しい本作のような作品が観られると言う事、こんな会社があって良かった。


return目次へ戻る