「設計料入札」を批判する理由


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記載者:江口 征男 on September 30, 2104 at 10:36:20:

 市民のみなさまと地方議員の方々へ

 ここでの話題は,「8366円で基本設計受注 都内初の区立病院入札で」という陣内利行さんの問題提起(2004/8/22)から始まりました。
 一見すると“ダンピング受注”することが悪いという議論ととられがちです。そのため,税金が節約されるのだから結構なことではないのか。ダンピングを容認すると建築家が“儲からなくなる”から批判するのではないのか。それは建築家のエゴではないのかという意見もでてきます。ダンピングが悪いのは次のような理由です。
 多少低い設計料で受注しても,“企業努力”で経費を圧縮することもある程度は可能でしょう。しかし常識外の金額では,慈善事業でもないかぎり,手を抜く(設計に時間をかけない=考えない)か,外部のどこかに手伝わせるという,発注者(市民)に対する重大な背信行為をするとしか考えられません。手伝うことによって結果的に利益を得る企業はいくらでも存在します。どこにもあるブラックな世界です。このようなことまでお話しするのは大変つらいことですが。

 しかし,最も悪いのは『設計料の多寡で設計者を選定する制度』そのものなのです。
 従って,そのような入札に参加すること自体を批判する建築家も多く,百歩譲って「公共建築の多くが設計入札をしているのが現実だから,経営上参加するのはやむを得ないだろう」という消極的に容認する考え方もあります。

 では,なぜ「設計料入札制度」が悪いのでしょうか。
 建築設計という仕事は何もないところから始める創造行為です。設計の品質は,担当する設計者(建築家)の能力(構想力やデザイン力や技術力)に大きく依存します。
 そのような設計という“これから行う”創造行為を担当する設計者を,「安いほうがいい」という基準,すなわち設計料の多寡で決めることはおかしくないでしょうか。
 美術館が作品を収集するとき価格で選ぶでしょうか?出版社が入札させて作家を選ぶでしょうか?

 建築工事では,設計者が描いた何十枚何百枚という設計図書を読み取って見積りし,入札します。したがってかりにダンピングで受注しても,設計図の通りに施工しなければなりませんし,工事監理者は施工が適正に行われているかをチェックするので,手抜きはできません。ですから工事そのものは入札制度になじみます。談合さえ排除できればいいのです。
 一方,設計という業務は創造行為です。それでも,安ければ誰でもいいのでしょうか。

 国土交通省大臣官房官庁営繕部が出したリーフレット『質の高い建築設計の実現を目指して(0405)』には,
 ○「設計者の選定にあたっては,物品購入などと同じような設計料の多寡だけでは判断できません。」
 ○「よい建築の実現のためには,最適な設計者の選定が重要です。」として,
  1)設計競技(コンペ)方式 2)プロポーザル方式 の二つが紹介されています。

 さらに,(社)建設業協会,(社)日本建築家協会,(社)日本建築学会,(社)日本建築士会連合会,(社)日本建築士事務所協会連合会によってまとめられたリーフレット『公共建築の設計者選定方法の改善についての提案(0309)』では,「良質な建築に馴染まない設計入札の見直しを!」と訴えています。

 それにもかかわらず,地方公共団体の多くが公共建築の設計者を選ぶために,“問題だらけの「設計料入札」”を行っているのです。地方行政の“手抜き”です。
 きわめて残念なことです。ぜひご理解ください。

なお,『公共建築を良くする市民の会(設計料入札を問う)』と,
 『「設計料入札」に関するQ&A』がありますがここに載せるには長文ですので,ご関心のあるかたは 江口のホームページのEssay
(http://www.sol.dti.ne.jp/〜eguchi/EGUCHI.9.html)
 『「設計料入札」を批判する理由』までご足労ください。


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