「プロローグ」


辺りは闇に包まれていた。
その暗がりに、蠢く気配。
十人…二十人……いや、もっとか。
俺はそいつらを背中にかかえ、じっとその場に座りつつ、その "時" を待つ。
 
「わ〜ん!」
 
緊張に耐え切れなくなったのか、突然子供の泣き声がした。
そして、それを小声で諌める母親の声。
それらに混じって聞こえる、男と女の囁き。
 
「しっ。静かに…」
 
振り向きざまにそう言いかけた俺の目に、衝撃的な光景が飛び込んでくる。
俺は慌てて前に向きなおるが、さすがに動揺は隠せない。
心臓がばくばく言っているのが手に取るように分かる。
 
なっ…、なぜこんな時にこんな所で、男女がくちづけを交わしているのだ!?
 
戸惑いと気恥ずかしさとで不覚にも頬が染まる。思考回路がパニックを起こす。
そんな俺を、合図の笛の音が現実に引き戻した。
ざわめきが一瞬にして静かになり、緊張感がその場を支配する。
 
―― 突然、闇が突き破られた。そしていきなりの大音響 ――。
 
俺の血が騒ぎ出す。
すべては今、始まったのだ……。
 

[Comment][Back][Home]