「愛しあう二人に素敵な魔法をかけて」


俺の顔にはショックの色がありありと浮かんでいた。
期待していたボーナスは、給料3ヶ月分の現物支給。
部長の訓示なんかどこ吹く風、スーツのポケットから、支給された指輪を取り出して眺める。
思わず、溜息。「はぁ〜っ」

夕方、帰途につく俺。
よせばいいのに指輪を手で弄びながら、どうしたものかと思案顔。
どんっ。
通行人にぶつかって、指輪が手からこぼれ落ちる。
あっ。
しまった、と思っている間に、ころころと転がっていく指輪。慌てて追いかける俺。
とん、ころん。
指輪は白いハイヒールに当たって止まった。
しゃがんで、指輪を拾い上げる細い指。夕日を背にしたシルエット。
「はい、これ」
人込みの中を走ってくる俺を待っていてくれたかのように、指輪を乗せた両手を差し出す彼女。
その顔には、嬉しそうな、懐かしそうな表情が浮かんでいる。
「また、会えたね」
「それ、給料3ヶ月分なんだ」
彼女の言葉とほとんど同時に、俺。恥ずかしそうにうつむいて、頭を掻きながら、まったく何言ってんだか。
ところが。
「えっ・・・」
俺のとんちんかんなセリフに、微かに頬を染める彼女。その顔を見て、はっとする俺。
そこに立っていたのは、幼なじみの優子だった。昔のことが次々と頭に浮かぶ。
傘でちゃんばらしながら、一緒に通った通学路。夏祭り。体育祭。修学旅行。そして、優子の転校・・・。
突然の再会に、俺の胸は再び高鳴った。
「それ・・・」
言いかけて、言いよどむ。首を振って迷いを振っ切る。
「それ、受けとってくれないか?」
俺は自分の思いをぶつけた。優子の手をとり、ぎゅっと握る。
「俺、昔からお前のこと・・・」
まっすぐに俺の目を見ていた優子の目が潤む。そして優子はきゅっと目を瞑って、こくん、とうなずいた。
そして始まる、エンディングのホワイトアウト。
優子の薬指に指輪をはめるシーン、教会での結婚式、真っ白なウェディングドレス、幸せいっぱいの笑顔でブーケを投げる花嫁。
そんなシーンが流れるうちにすっかり真っ白になった画面に、

愛しあう二人に素敵な魔法をかけて
    ジュエリー翠
http://www.magical-jewelry.com/

そんな文字が浮き出てきて、CMが終わった。

「ゆーいちー、ごはんできたよー」
優子の声が聞こえる。
「ホント、いまだに信じられないよなー」
テレビを消し、優子の待つ食卓に向かいながら思う。
「これが実話で、CMにまでなっちまうなんてさ」



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