「いつかきっと」


 図書館――そこは冒険のはじまり。異世界への扉がひらく、神秘なる場所。

 ・・・ざんっ! 剣が一閃、僕の目の前でゆっくりと倒れていく怪物・・・。
 世界中に散らばる、七つの呪文、そして、七つの指輪。それらは七匹の大蛇と七人の魔王によって守られているという。その敵を倒すために必要な、七色に輝く虹の剣。その剣を手に入れるためには、世界のどこかに隠されている七つの鍵を探さなくてはならない。そうして僕らの、七つの海を股に掛けた冒険が始まった・・・。
 そんなイントロの、ファンタジー小説。軽い気持ちで読み始めたのはいいけれど、これが意外とキツかった。素早いアクションに手足が千切れそうになるのはもちろん、瀕死の重傷、なんてシーンもあってさ。体の中がアツくって、マジで死んじゃうかと思ったよ。いろいろやってきて、今はまぁそこそこ一人前になってきたけど、最初のうちはホント苦しかったぁ。
 でもね、いいんだ。僕、いつかきっと勇者になるんだもん。そしてあの可愛いお姫様と見つめあって、ちゅーするんだよ。いいでしょ。へへっ。
 初めて読む本だけどさ、こういうタイトルでこの展開なら、きっとそれがお約束ってやつだもん。がんばるぞー!

 ・・・お高くとまったお嬢と結婚なんて、息が詰まるぜまったくよ。好きなわけでもねーのにさ。俺は藤壺似の女が好みなんだ。自分の女は自分で探すぜ。
 さてっと、まずは空蝉か。こいつ、一度は俺と結ばれるくせに、二度目は小袿残して逃げるんだよなー。振られる運命だと分かっちゃいても、やっぱりどうにも切ないぜ。他の女を落としてみても、気なんかまったく晴れやしない。俺のことが気になるんなら、理性なんか捨てりゃいいのに。
 お次は六条に通いつつ、夕顔ちゃんに一目惚れ。こいつは、素朴でつつましやかないい女なんだがなぁ。いずれ物の怪に殺されちまうんだよなぁ。あぁ、もったいねー。もったいねーよ。歴史を変えられねーのが歯がゆいぜ。やっぱ浮気はよくねーなー。
 そしていよいよ紫登場。いいよ、こいつ。さくさくさくっとさらってきてさ、俺好みの女に育てるんだ。いつかきっと俺色のイイ女になって、俺の嫁さんになるはずなんだから。
 さぁってまだまだ序盤戦、続きもはりきっていってみよー!

 ・・・どーれーにーしーよーぉーかーなっ。あ、これなんか美味しそう。
 えぇと、なになに・・・お砂糖大匙一杯・・・それから・・・お塩をひとつまみ? 蓋をして3分待って、と。ん〜、いい匂い。どれどれお味は・・・? うんっ、我ながら、パーフェクトっ! 自分の才能に惚れ惚れしちゃう!・・・って、そういう風にできてるんだから、アタリマエか。てへっ。
 でもこれ、どんなに味見をしてもぜんっぜん太らないってのがポイント高いよねー。材料代も、タダだしさ。世の中ベンリになったもんだよ。あとはあたしの頑張り次第。いつかきっと、この本に載ってるお料理ぜーんぶ覚えて、アイツの舌をうならせまくってやるんだから!

 図書館――そこは現、そして幻。異なる時空が混じり合う、ここであってここでない場所。



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