「オオカミだー、オオカミが来たぞー!」
夜更けの村に、少年の叫び声が響きわたりました。村の家々から、銃や鉈を手に持った大人たちが慌てて飛び出してきます。しかし、そこにオオカミはいませんでした。大人たちはほっとしつつ、少年を叱り、それぞれの家へ戻っていきました。 「オオカミだー、オオカミが来たぞー!」 夜更けの村に、少年の叫び声が響きわたりました。村の家々から、銃や鉈を手に持った大人たちが慌てて飛び出してきます。しかし、そこにオオカミはいませんでした。大人たちはほっとしつつ、少年を叱り、それぞれの家へ戻っていきました。 「オオカミだー、オオカミが来たぞー!」 夜更けの村に、少年の叫び声が響きわたりました。村の家々から、大人たちが銃や鉈を手に持って出てきます。しかし、やっぱりそこにオオカミはいませんでした。大人たちは少年をこっぴどく叱り、それぞれの家へ戻っていきました。 「オオカミだー、オオカミが来たぞー!」 夜更けの村に、少年の叫び声が響きわたりました。けれど、村の家々から出てくる大人は、もういません。 しかしそれでも、少年の叫び声は、その後も毎晩、村中に響きわたり続けました。 そしてある日。 「オオカミだー、オオカミが来たぞー!」 夜更けの村に、男の太い叫び声が響きわたりました。その叫びが終わるか終わらないうちに、男の首と脇腹に、尖った牙と爪が、鈍い音をたてて食い込みます。擦れるうめき声が見る間に枯れていき、男はどさっという音とともに倒れました。その傍らに立っている、満月を背にした影。その口の部分が、滴る血を携え、にぃっと歪みます。 「せっかく忠告してやったのに、馬鹿な奴等だ。」 月の光に、鋭い眼がきらめき、さっと流れます。太く長い尻尾が、ゆらゆらと揺れ、ふっと消えます。その度に、逃げ惑う村人の数が、一人、また一人と、みるみるうちに減っていきました。 どれほどの時が経ったでしょう。山の端から朝の太陽が顔を出し、長い長い夜が終わりました。希望の光が世界を絶望の闇から解放し、鳥のさえずりが新しい一日の到来を告げています。しかし、村にはもう動く人影はありません。希望の光は、惨劇の痕を生々しく照らすだけでした。 |
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