「曇りのち晴れ ところによって天気雨」


「ハッピーバースデー!」 パーン!パンパ―ン!

今日は、あたしの誕生日。
高校のときからずっと、サトシと二人でパーティしてた日。
それが、なぜ。

「ふーっ。」
「わーっ、おめでとーっ!」 パチパチパチパチ……。

あたしの気持ちとは裏腹に。
気持ちいいくらい見事に消える、キャンドルの灯。
沸き起こる歓声、そして拍手。

「やー、ありがとー!」

これ以上ない!ってくらい、満面に笑みを浮かべて。
シアワセの絶頂!ってカンジで祝いの声にこたえる。
…そんなサトシの姿が、そこにあった。

目の前には、10人前を優に越えようかというご馳走。
正面の壁には、「智史にいちゃんお誕生日おめでとう」の垂れ幕。
そしてテーブルには、サトシの家族、総勢8名。
そう、今日は、サトシの誕生日。

ついさっきまで、知らなかった。今日がサトシの誕生日だってこと。
だから当然、プレゼントも何も用意してきてない。
せっかくのお祝いなのに! なんで? なんで素直に祝わせてくれないの?
怒り、悲しみ、悔しさ、寂しさ。そんな感情で胸が詰まる。
ふっとサトシと目が合った。……しれっと目をそらすサトシ。
その目に浮かんでいたのは…、悪戯がうまくいったときの優越感…?
ええーっ! ひょっとして、これって、サトシの狙い通りなの?
ずっと誕生日を秘密にしてたのって、あたしのこんな顔が見たかったから?
何年間も、家族はもちろん、友達や先生まで巻き込んで!?

…と、司会の智美ちゃんの声が耳に飛び込んできた。

「みんな、静かに!
 それではここで、智恵理さんから智史兄ちゃんへ、
 おめでとうのキスのプレゼントです!」

(えっ? なにそれーっ!)

事前の打ち合わせ、まったくナシ。
だからすっごく驚いたけど。
拍手されちゃった以上、場を盛り下げるわけにもいかないか。
しかたないから、とりあえずにこやかな表情を作って、前に出ていく。
壇上に上がって、サトシと向き合うと、笑顔のまんまじーっとサトシを睨んだ。
あたしは今機嫌が悪いんだぞ悪いんだぞ悪いんだぞー!ってオーラを込めて。

「………。あー、もー、しょうがないなぁ。」

サトシが、困ったように、くしゃくしゃっ、とあたしの頭を撫でる。

「智恵理、手、かしてみ?」

サトシはそう言うと、きょとんとしているあたしの左手を取る。
右手でポケットをごそごそやって、何かを取り出す。
そして、それをそのまま、あたしの指にはめた。

「これ、俺からの誕生日プレゼント。受け取ってくれるだろ?」

(え…? なに、これ…?)

思わず涙がこみ上げてくる。
あたしは、そんな顔を見られるのが悔しくって、サトシの首に抱きついた。

「ひゅーひゅー! 智史にーちゃん、やるぅ!」
「あー! さとしにーちゃんがおねえちゃん泣かしたー!」
「けーかくてきはんざーい!」

そんな冷やかしの声を聞きながら。
あたしは目を閉じて、サトシのぬくもりと指輪の感触を味わっていた。
背中に触れるサトシの手が心地いい。

(いつまでもこうしてたいな…。)

でも、今日はみんなのパーティだもん。そういうわけにもいかないよね。
手でこっそり涙を拭いて、あふれる感情をゆっくり落ち着かせて。
サトシの首に手を巻いたまま、あずけていた体をそっと離した。
そして、悪戯っぽい目でサトシの目を見つめる。
サトシが照れて目をそらしたところで、サトシの頭を引き寄せて、唇を重ねた。

「ひゅーひゅー! おねえちゃん、やるぅ!」
「あーあ、さとしにーちゃん、およめに行けなくなっちゃったっ!」
「みせつけてくれるねー!」

重ねていた唇をそっと離し、サトシの表情をうかがう。
へへへーっ。サトシ、ちょっと照れてるみたい…?
嬉しそうに、満足そうに、あたしの髪をくしゃくしゃっとやっている。

そして、黄色い声がふりやんだ頃。目を瞑って深呼吸したサトシ。
もとの悪戯っぽい笑顔に戻って、みんなの方を向いて、宣言!

「さて、それじゃぁ、本番、いってみますか!」
「イェーイ!」

ふたたび、歓声が沸き起こる。
ワケが分からず、きょとんとするあたし。
サトシが、ニヤニヤしながら親指で垂れ幕を指差す。

「コ、レ。」

垂れ幕の文字は、いつの間にか

 智史にいちゃん&智恵理おねえちゃん
    お誕生日&婚約おめでとう

に変わっていた。
ヤラレタ。そう思った。
サトシにボディブローをかます。
サトシは体をくの字に曲げて ―― 笑ってた。幸せそうに。
あたしも、笑った。涙もちょっぴり出てたかも知んない。
もぅ! 今日のことは、一生忘れてやんないんだから!



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