「万色の音色を奏でよ」


 今日は、波の話をしよう。

  f(t)=A sin ωt

 もっとも基本的な、正弦波の式である。ここで、Aは非負の値で振幅と呼ばれる量であり、ωは角振動数と呼ばれる量である。この波のエネルギーはAの2乗に比例する。実際にはAは定数ではなく A(t)と時間変動するのが一般的であるけれども、今日のところは、説明を簡単にするために定数であるとしておこう。また、非常に簡単な数学ではあるけれども、この波の周期Tは

  T=2π/ω

と書けることも念のために付け加えておく。
 非常に重要な波の性質の一つとして、重ね合わせの原理がある。二つの波が重なった場合、それらが合成された結果は、単純に二つの波の足し算になるというものである。そして、二つの波の角振動数が等しい場合、それらの波は干渉して新たな波となる。これは数式で理解しておくのが簡単だろうから、板書しておこうか。例えば、

  f(t)=A sin ωt
  g(t)=B sin(ωt+φ)

という、振幅と位相の異なる二つの波が重なった結果として、

  h(t)=f(t)+g(t)=C sin(ωt+ψ)

と表現される波 h(t)が観測される、というわけだ。Cおよびψが具体的にどのような値になるかは、三角関数の基本的な変形であって高校生レベルの問題だから、後で自分たちで確認しておいて欲しい。ここでは、次の二点だけ押さえておく。まず第一に、φが0に近いほどCの絶対値は大きくなり、φがπに近いほどCの絶対値が小さくなるということ。そして第二に、h(t)の角振動数はやはりωであり、振幅の違いを無視すれば、元の波から位相だけがずれた波となっていることである。実際には、干渉するためにもっと他の条件が必要になる光波のような例もあるけれども、一般論としては、まぁ、このぐらいの理解をしておけば十分だろう。

 さて、そろそろ眠くなってきた人もいるだろうから、堅苦しい話はこの辺にしておこうか。ここから先は、今までの説明を踏まえた上で、もっと君たちの実生活に近い話をしていくことにしよう。

 まず、世の中のすべての要素は波であり、そのそれぞれが、神様が決めた固有の角振動数を持っているということを知っておいて欲しい。バイオリズムを例にとると、身体は23日、感情は28日、知性は33日の周期でアップダウンが繰り返されるといった具合である。これは世界中すべての人に共通の周期であり、身体・感情・知性のそれぞれの要素が、それぞれ固有の角振動数を持っていることを意味している。
 ここで、先程説明した、波の干渉について考えてみよう。二つの波が干渉すると、振幅と位相が変化した。実生活において、これは何を意味するのだろうか。
 例えば、結婚を転機に、すべてがうまくいくようになった人がいる。これは、自分の波と伴侶の波とが干渉した結果、位相がうまい具合にずれたのだ、と解釈することができる。その後、一人目の子供ができた途端、夫婦の仲が冷たくなった。夫婦と子供、合わせて3つの波が干渉した結果である。振幅がほとんどゼロに近くなり、何事にも気力が湧かなくなったためであろう。あわや離婚の危機、というところで二人目の子供を授かったことを知り、再び暖かい家庭に戻る。もちろん、4つの波が干渉した結果である。
 最初に例に挙げたバイオリズムの場合、一卵性双生児の間などで干渉する事例が稀に見られるだけで、一般には干渉することはない。したがって、波のエネルギーも波の位相も変わらないため、コンピュータなどで簡単に計算することが可能なわけだ。しかし、これは言わば光波のようなもので、特別なものである。世の中は、音波よろしく、互いに干渉する波で溢れている。この夫婦もその一例である。

 食の好みや音楽の好み。話し方や考え方。そのそれぞれが、固有の角振動数を持っている。理由もなく憂鬱なとき、たまには恋人につきあって、一人であれば聴かない曲をじっくり聴いてみるのもいい。ひょっとしたら、うまい具合に位相がずれて、晴れやかな気分になれるかもしれない。そうやって、いろいろな人や物事と出会い、互いに干渉し干渉されて、いろいろな音色を奏でていく。そんな人生を、ぜひ楽しんで歩んでいって欲しい。



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