欧州旅日記
2月5日 月曜日
列車は早い時間に出る予定なのでそれに間に合うように起床。
予定では8時間ほどもかかる列車の移動なのでホテルでの朝食をしっかりと取っておいた。
外へ出ると雪は降っていなかったが、路面に積もった雪が凍り付いていた。
ベルリン・ツォー駅で小銭処分の為に売店でビールやつまみの買い込み。
8時55分にベルリン・ツォー駅を出発予定の特急列車。
ところが時間になっても列車が来ない。
掲示を見ると60 minutes laterとなっていた。
1時間遅れである、オイオイ…。
9時55分に列車が来て無事に乗ることが出来た。
車内は空いていて4割程度の入り。
今回の旅で最初で最後となるであろう、その国の首都ではない都市へ行くことになった。
ポーランドの首都はワルシャワである、しかし我々が向かうのはクラクウ。
何故にポーランド・クラクウに行くのかをここで説明しなければなるまい。
本当の目的はクラクウではない、クラクウ近郊のオシフィエンチムという所である。
そのオシフィエンチムに何があるのか…アウシュビッツ強制収容所である。
ナチス・ドイツが第2次大戦中に多くのユダヤ人・ジプシー・共産主義者等を捕らえ、強制的に収容した場所だ。
強制的に過酷な労働に従事させたり即座に殺されたり、ガス室での大量殺人なども有名な話しだ。
ナチスドイツが作った強制収容所だからドイツにあるものだとばかり思っていた。
しかし調べるうちにドイツではなくてポーランドのクラクウ郊外にあるのだと判った。
椎名誠のエッセーにアウシュビッツへ行った時の様子が書いてあった。
それを読んで興味を引かれて行ってみたいと思ったのだ。
だから敢えてユーレイルパスが通用しないポーランド、しかも首都ではないクラクウに行こうと思ったのだ。
とはいえこの旅で初めて旧共産主義圏の国に入るので少々緊張した。
どうも旧共産主義圏というとなんとなく恐いイメージを持ってしまう。
共産主義が崩壊して民主化の波が訪れ、貧富の差が拡大し、犯罪が増える…と言うような。
列車に乗っていてポーランドに入ったのか軍人が数人乗ってきてパスポートを見せる。
パスポートチェックの軍人が去った後は麻薬犬を連れた軍人が列車内を往復していった。
そういえば列車での国境間移動でパスポートにハンコを押されたのは初めてだな。
列車内では買っておいたビールとポテトチップで空腹を満たす。
なにせ8時間近く列車に乗っていなければならない。
乗車券の検札は4回もあった。
その際に車掌が「This train is 100 minutes later.」と言われた。
ワンハンドレッドミニッツレイター?!なんと100分遅れだという。
1時間遅れてきて更に100分遅れとは…。
快適でないわけではないが、何時間も列車に乗っているとケツも痛くなってくる。
列車内が空いていたのが唯一の救いだけど…
列車がクラクウ中央駅に着いたのは19時すぎ。
当初の予定では17時20分に到着だったのに…あっ、100分遅れってのはピッタリ当たってる。
辺りは既に真っ暗、しかも雨まで降っている。
とりあえず両替をしなければならない。
ところが時刻は19時すぎ、2件くらい両替商を見たが既にどちらも閉まっていた。
どうしよう、ポーランドの通貨ズォティを全く持っていないし両替をする術もないのだ。
おまけにガイドブックに夜のクラクウ中央駅は治安が悪いとまで書いてあった。
外は暗い、雨も降っている、金はない、初の旧共産主義圏の国、治安が悪いと書いてあったクラクウ中央駅…
とりあえず駅を避けて街の方へ出てみよう、開いている両替商もあるかもしれない。
というわけで雨の中を歩き始めた。
開いていそうな両替商を見つけて店内に駆け込む。
ようやく両替が出来ると思ったが「Exchange finished.」と冷たくあしらわれた。
両替が出来ない、これ以上雨の中で両替商を探す気も失せた。
こうなったらポーランド通貨を持っていないことをホテルで説明してなんとか泊めてもらうしかない。
すぐ近くにガイドブックに載っていた中級ホテルがあったのでとりあえずそこへ飛び込んだ。
フロントで英語で事情を説明すると、米ドルでもクレジットカードでも宿泊はOKだと言う。
幸いにして我々は日本円の他に米ドルも持っていた。
クラクウでは2泊する予定だったのでもうそこで2泊する手続きを取った。
2泊で114ドル(1ドルが当時約118円なので≒13452円)、そんなに高くなくて良かった。
宿泊手続きを終えるとフロントのオジさんが明日クラクウの郊外観光をするか?と聞いてきた。
アウシュビッツまでタクシーで案内してくれると言う、もちろん有料。
アウシュビッツはクラクウ郊外にあり、バスや列車で行けるのだが行き方に不安があった。
行き方はなんとなく判っていたが、郊外にあるのでバスで行くにしろ列車で行くにしろ不安があったのだ。
クラクウに着いた時の様々な状況からかなり精神的に参っていたので楽な方へと気持ちが流れた。
その場でアウシュビッツの郊外観光もお願いした。
とりあえずポーランドでのテーマである"アウシュビッツ"を安全に遂行することにした。
殆ど体を動かしていないのに妙に疲れた1日。
しかしそれにしても腹が減って仕方ない。
考えて見ればちゃんとこの日は朝飯以外はしっかりした飯を食っていない。
特急列車内ではビールとポテトチップス、サービスで出たウェハースのオカシのみ。
しかし我々はポーランド通貨を全く持っていない、何も食えない。
ベルリンで小銭処分の為に買ったビールを空きっ腹に流し込む。
さらに小銭処分の為に買ったチョコレートを食べてなんとか飢えをしのいだ。
ビールとチョコレート、変な組合せだがないよりはまし。
それにしてもこんなに飢えていても確実に夜はビールを飲んでいる我々って…