「親から愛されていないという感覚」について考えていました。
人間の心の成長にはそれぞれの段階に必要な世界との関わりがあって、 その根源にあるものが、親からの愛、つまり、自分が自分としてこの 世界の中に存在していてもいいのだという承認です。
しかし、不幸にしてその自分の存在を認める感覚を感じることなく大 人になっている人もいます。
そんな人は、はっきりとした理由がわからないまま、なんだかわから ない不安感や憂鬱感、自分がここにいてはいけないのではないかとい った感覚におそわれます。
そんなとき、自分は親に愛されなかったから今こんな状態なのだ、と 感じることができれば、その状態から抜け出すことは比較的容易です。
ところが、そのことを感じることがとても難しいこともあります。な ぜなら、親に愛されなかったと認めることは、自分の存在基盤がまっ たくなくなってしまうような強い不安と恐怖をともなうからです。
そんな人にとって必要なことは、まずその不安や恐怖を少しずつ感じ とっていく、ということになります。その不安や恐怖の奥にあるもの が何なのかわからなくても、その感覚を受け入れていくことが第一歩 です。
そのプロセスを根気よく続けていくと、その不安や恐怖の奥にあるも のが少しずつ見えてきます。その問題の根源としっかり向き合うこと ができれば、その不安や恐怖は小さくなっていきます。
自分の状態を親のせいにはしたくない、と感じることもあるでしょう。 自分はこんなに親にやさしくしてもらったはずなのに、愛されていな いなんてことはないはずだ、と。
しかし、どれほど親があなたにエネルギーをそそいだとしても、あな たに本当に必要なものが与えられなかった可能性はあります。それは あなたの親が悪いわけでもなく、あなたが悪いわけでもありません。 そういった人生の流れの中にいただけなのです。自分を責める必要は ありません。
親との関係をしっかり見つめ直すということは、自分の心の傷にしっ かりと向き合い、それを癒していくということです。最初は辛い感覚 もあると思いますが、そこから新しい人生が開けてきます。(【まほろば通信】vol.82掲載2002/01/17)