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■究極の孤独■


「再誕生」のあと、わたしは生まれて初めて「寂しい」という感情を感じました。いや、最初のころは、それが「寂しい」という「感情」であるということすらわかっていなかったような気がします。それは、胸をキリキリと締め上げられるかのような、身体の底からやってくる不安感として感じられていました。

生まれたばかりの赤ちゃんは周囲の人たちの手厚い保護がなければすぐに死んでしまうでしょう。そのときのわたしは、子宮から生まれ出たばかりの赤ちゃんと同じような無防備な状態のまま、見たことも聞いたこともなかったまったく新しい世界の中に突然一人で放り出されたような気持ちだったのです。

そのときのわたしには、家族はいたし、少ないながらも親しい友人はいたし、毎日顔をあわせる大学の仲間や先生たちもいました。ところが、それらの人たちがみな、初めて出会った見知らぬ人のように感じられるのです。

昔読んだドラエもんのマンガにこんなのがあったのを思い出しました。誰かの名前を呼びながらそのスイッチを押すと、その人を消してしまえる、というものです。自分の嫌な人の存在を跡形もなく消してしまって、誰の記憶からも消してしまえるそのスイッチを手に入れたのび太くんは、自分の嫌いなジャイアンやスネオを消してしまうのですが、何かのことでかんしゃくを起こしてしまったのび太くんは、思わず「みんないなくなってしまえ!」と叫んでそのスイッチを押してしまったのです。

ふと気が着いてまわりを見回すと、誰もいません。町中がしーんとして、人の気配がなくなっています。世界中の人が消えてしまって、のび太くんは一人ぼっちになってしまったのです。この話にはもう一つオチがあって、このスイッチの本当の意味は、人がいなくなってしまうというのはどういうことなのかをのび太くんに気づかせるというものだったと思うのですが、当時のわたしの気持ちは、一人ぼっちになってしまった時ののび太くんのような気分だったのです。

ちょっと想像してみて下さい。ある日突然、あなたのまわりからあなたの知っている人が一人もいなくなってしまい、見知らぬ人ばかりになってしまったら、、、。いったいどんな気持ちになるでしょうか。

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Written by Shinsaku Nakano <shinsaku@mahoroba.ne.jp>
Last Update: 2005/01/19