新・闘わないプログラマ No.16

「情報家電」という幻想


2〜3年くらい前から「パソコンを買いたいんだけど、何を買ったらいいか教えて欲しい」という質問をよく受けるようになりました。何がいいか、と言われても、何の目的でパソコンを買うのかわからなければこちらも答えようが無いわけで、そう問い返しています。その時の答えとして多いのが、

といったところです。聞けば、なんか言ってくるのですが、どうもあまり目的意識を持っていないように私には見えます。上のもどうでもよさそうな理由ばかりのように見えてしまいます。
こういうとき私は「悪いこと言わないから、パソコンなんて買うの止めた方がいいですよ」と言うことにしています。「扱いは面倒だし、そんなに使う場面は無いし、すぐ旧式になってしまうし、高いし、もっと他のものを買った方が有意義だと思うんですが」

私がこんなことを言うのは、まず、ほとんど何も調べずに「何がいいか」と聞いてくる人は、自分がどうしてもパソコンが欲しいとは思っていないのであろう、推測されるからです。そういう人は、周りがパソコンを買ったというだけで、自分も欲しい気持ちになっただけ、もしくは、自分が取り残されたような気分になっただけ、のように見えます。自分が本当に欲しいのなら、もっと自分で調べた上で、聞いてくるはずです。
特にこういう人に多いのですが、問題が発生した場合(パソコンを使うと必ず問題が発生しますよね)、自分で調べたり、問題を解決しようと努力しない人がいます。パソコンを使う上で発生する障害は、その原因が多岐に渡りますから、例えば電話とかで「うまく動かなくなったのだけど、どうして?」とだけ言われても、こちらとしてもお手上げ状態になってしまいます。そういったことにいちいち付き合いたく無い、ということもあります。
話は逸れますが、「自分は初心者なんだから、分からなくて当然だ。もしくは、わかりやすく丁寧に教えてくれて当然だ」と言って、自分から努力しようする態度が見えない人は、いつまでたっても「初心者」のままです。上で挙げたような人は間違いなくそういった人たちです。
自ら努力しようとしている人は、初心者なら初心者なりに、分からないなら分からないなりに、自分でも調べようとします。ただ単に「動かないんだけど、どうして」じゃなくて、今どんな状態にあるのか、その状態に至るまでに何をやったのか、今までと何か違った事は無いのか、そういったことを整理してから質問してきます。

Windows95が出たあたりから「パソコンが簡単になった」とか「あなたにも使える」とかお気楽なことを言って、メーカーは何も知らない人たちにパソコンを売りまくりました。そうやって売られたパソコン、はたしてどれだけ使われているのでしょうか。
私の知り合いでも、買ったパソコンが埃をかぶったままになっている人が何人もいます。「年賀状を作るため」とか言ってやたら高いノーとパソコンとプリンタを買った人は、年賀状を1回作るのに使っただけで、あとは電源も入れていないそうです。私もその年賀状を貰いましたが、あの年賀状、計算してみると単価が数千円にもなります(^^;)
「使わないのなら私に下さい」と皆に言って歩いているのですが、「今年こそはパソコンを勉強する」とか言って、誰もくれません(;_;) そういえば、こういう人たちに共通しているのは「パソコンを勉強する」という言い方ですね。ゲームでも何でもいいから使えばいいのに、と私なんかは思うのですが、やっぱりパソコンは「勉強」するものらしいです。

私は「パソコンが使えない人は、無理に使う必要は無い」という考えです。今のパソコンは、扱いがとんでもなく面倒ですし、少なくとも現状では一般家庭に入ってゆくような代物じゃ無いですよね。
この「扱いがとんでもなく面倒」というのには2つの側面があると思います。
1つ目は、パソコンのユーザーはシステム管理者も兼ねている、ということです。従来コンピュータには、システム管理者(スーパーユーザー)と、一般ユーザーの区別がありました。パソコンには、そういった区別が無いため、何も知らないおじさんがパソコンを買ってきたとたん、システム管理者の役目も果たさなければいけなくなります。
OSのバージョンアップはシステム管理者の重要な仕事の一つで、これに失敗するとコンピュータが一切使えなくなってしまうので、OSに対する十分な知識を持った人がする仕事でした。ところが、パソコンでは所有者が自分でやるしか無いわけです。今年はWindows98が発売されます(多分)が、みんなバージョンアップはうまくいくのでしょうか。今年最大の見物と言えましょう(^^;)
2つ目は、一般ユーザーとして見てもやはり扱いが面倒だということです。何かの本に書いてあった(すみません、忘れてしまいました)を見て「なるほどな」と思ったのですが、モードの存在するユーザーインターフェースは一般向けでは無い、ということです。
「モードの存在するユーザーインターフェース」とは、全く同じ操作をしても、その操作を行う場面によって全く違う意味を持つ、といったようなことです。例えばパソコンの「A」というキーを押したとしても、それが押される場面によって、どういう動きをするかが違っている、というきわめてあたりまえのことではあります。
コンピュータの世界では当たり前のことではありますが、家電の世界ではどうなのかちょっと考えてみますと、ほとんどみんな「モードの無いユーザーインターフェース」であることが分かります。テレビのボリュームを操作すれば(何チャンネルを見ている場合であろうとも)音量が変化しますし、エアコンの温度調節をすれば(冷房の場合でも暖房の場合でも)温度が変化します。例外的なのが、ビデオデッキの録画予約でしょうか。数少ないボタンで予約の設定を行うために「モード」が存在してしまっています。録画予約が、家電製品の操作の中で最も難しい物になっているのも肯ける話ではあります。(私も、ちょっとやらないとすぐ操作方法を忘れてしまいます(^^;))

とにかく、パソコンが今の形態のまま一般家庭に入っていくことは絶対に無い、と私は思います。そんな思いもあって、他人にパソコンを買う事を勧めないのですが、ただ、最近は「インターネットだけは利用したい」という人がいて、これがちょっと困るんですね。どれも「帯に短し襷に長し」でいいものがありません。パソコンは使えなくてもいいけど、インターネットは利用出来た方がいい、と私は思っているので、何かいいもの(インターネット端末?とでも言うのでしょうか)があればな、と思っています。

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