新・闘わないプログラマ No.10

マスコミ用語をめぐる不思議


新聞を読んでいると「ネット」という言葉が普通名詞としてよく使われています。たとえば

「○○○○がネットに初登場」
「ネット上で○○○○を販売」
「ネットの掲示板に○○○○というデマが云々」

私、以前からこういう「ネット」という言葉の使い方にものすごく違和感を感じています(そいう方、いらっしゃいませんか?)。だいたい「ネット」って何だろう、記事の内容から推測するに、コンピュータネットワーク、それもインターネットやパソコン通信(もうそろそろ死語か?)のことを指しているようです。少なくとも、私の周りの世界では、こういう文脈で「ネット」という言葉を使う習慣は全くありません。「なんとかネット」という固有名詞として「ネット」という言葉を使うことはありますが。
もちろん、我々(一応、自称「プロ」(^^;))が使う言葉をそのままマスコミも使うべきである、とは思いませんが、「ネット」は無いんじゃないですか「ネット」は。網っていったい何でしょ???

そう思ってみると、新聞には笑ってしまうような不思議な単語が溢れています。
例えば「基本ソフト」、よく見かけますね、例えば「マイクロソフト社の基本ソフト『ウィンドウズ95』」とか。同類には「応用ソフト」とか、最近は「閲覧ソフト」とか・・・。どうも、新聞語ではOS(Operating System)のことを「基本ソフト」と呼ぶらしいです。でも、これって日本語ですらない、だってだって「ソフト」って日本語じゃないもん。それとも私の知らない日本語の単語で「ソフト」ってのがあるんでしょうか?? :-) もともとの英語に入っていない英単語(らしきもの)を和訳の時に入れて、それで訳しました、なんていうのはものすごく稚拙に感じます。「応用ソフト」がApplication Softwareの訳なら、これはまぁ許せないことも無いです。そう言えばIBMではApplication Softwareを「適用業務プログラム」って訳していたっけ、これもなかなか強力ですね。

少し前の朝日新聞で、英語の表記に関する記事がありました。「コンピューター」なのか「コンピュータ」なのか。
私はどっちでもいいと思いますけどねぇ、どうせ正確には表せないんですから。そんなに気になるのでしたら、computerって書けばいいと思うんですけど、新聞では、こう書いちゃだめなんでしたっけ。私は、そんなことをぐちゃぐちゃ言う前に、上に書いたような変な用語・訳語をなんとかしてほしいと思います。

不思議なのは、こういった珍妙な言葉は誰が作って広めているんだろう、ということです。
日本語の中に無批判に外国語が入ってくるのは「言葉の乱れ」と捉える見方もあります。私も動詞や形容詞に意味も無く外国語を使うのはどうかと思いますし、嬉しそうに使っている人間を見ると「バカか」と思ってしまいますが、名詞の場合はちょっと違うんじゃないの、と思います。新しい概念なんですから、その単語がもともと英語だろうが日本語だろうが、こだわる必要は無いんじゃないでしょうか。
日本語にした方がわかりやすい、と主張する(新聞なんかはそう言っていますよね)のなら、それこそわかりやすい訳語を作ることにもっと努力してくださいね。OSを「基本ソフト」と訳しても、それで誰にとってわかりやすいのでしょう。まして、DRAMを「記憶保持動作が必要な・・・云々」なんて言われたって。

97.12.15加筆

先週末、Internet Explorerについて米司法省がMicrosoftを訴えていた件で、裁判所の仮決定が出た、というニュースが駆け巡りました。その内容の是非や論評は他の人がやってくれると思います(他力本願)ので、ここではやりませんが、新聞社のニュースの中に相変わらず変なことが書かれていますので、ケーススタディとして取り上げます。

朝日新聞の「マイクロソフト、『抱き合わせ販売』で敗訴」より

ソフトウエア最大手のマイクロソフトが、パソコン用基本ソフト(OS)「ウィンドウ ズ95」とインターネット閲覧ソフトの「エクスプローラ」を違法に抱き合わせ販売しているとして、米司法省が同社を訴えていた裁判で、ワシントン連邦地裁は11日、司法省の主張をほぼ認める仮決定を下した。

最近は「基本ソフト(OS)」と書いているんですね、これならまだマシですかね。でも上の書き方だと、「基本ソフト」=「OS」なのか「パソコン用基本ソフト」=「OS」なのか読んでいる方には分かりませんよね。というか、何も知らない読者は、後者のように受け取るのではないでしょうか。せめて「パソコン用の基本ソフト(OS)」と書けないものでしょうか。本当は「パソコン用のOS(基本ソフト)」の方がもっといいのですが。
それから、「エクスプローラ」って「インターネット閲覧ソフト」でしたっけ? 「エクスプローラ」というからにはEXPLORER.EXEの事ですよね。間違っても、Internet Explorer (IEXPLORE.EXE)のことではありませんよね。:-)

同社がパソコンメーカーに対しウィンドウズをライセンス供与する際、エクスプローラの搭載を条件にすることをやめるよう命じている。

うーむ、ExplorerってWindows 95やWindows NT 4.0のシェル(ひらたく言えば、OSのユーザーインターフェース機能)だから、これが搭載されなくなったら、95やNTでほとんど何も出来なくなってしまうような気がするけど・・・・あ、そうか、要するに「操作できない」→「使えない」→「そんなOSを使わずに済む」→「みんな幸せ」ってことか。:-p
冗談はこれくらいにして、勝手な省略をすると別な単語とぶつかる・判別出来なくなる、という例でした。固有名詞なんだから、省略せずに書くべきだし、(Microsoftがいかにとんでもない会社であろうと)それが相手に対する礼儀でもあると思います。
ちなみに、他の新聞社のWEBサイトではどう言っているかな、と思い調べてみましたところ、他はみんな「閲覧ソフト」としか書いてありませんでした。賢いというかずるいというか。

閲覧ソフトはインターネットを利用する際に欠かせないソフトで、新興企業のネットスケープ・コミュニケーションズが先行。

またまたぁ、突っ込んでください、と言わんばかりのこの文章。Mosaicわぁ?という突っ込みは置いておくにしても、「閲覧ソフト」なるものは「インターネットを利用する際に欠かせないソフト」らしいです。うーむ、もう既に私の知らない世界に突入してしまっています。これってもしかして、うわさに聞くあの「イソターネット」のことでしょうか。とにかく私とは無縁の世界です。:-p

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