新・闘わないプログラマ No.2

98よ、安らかに眠れ


「ねぇねぇ、マックの次世代のOS、なんて名前だっけ?」
「うーん、なんだっけなぁ。ほら、たしか音楽関係の名前のついたやつ」
「そうそう、確か曲の種類の名前だったような気がするけど」
「確か、頭文字がRで始まっていたような」
「うーん、何だっけ」
「うーん」
「頭文字がRねぇ・・・あ、思い出した!」
「え、なに?」
「『レクイエム』!」

余談これくらいにして、今回はちょっと刺激的なタイトルを付けてみました。要するに98に捧げるレクイエムです。

私は、別に98に悪い感情を持っているわけではありません。いや、どちらかと言えば逆です。98は日本のパソコン業界を長年にわたって引っ張って来ました。その功績は賞賛されこそすれ、決して揶揄されるようなものでは無いはずです。

まずは故人を偲んで(え、まだ死んでいないって?)、98の思い出話をしたいと思います。
PC-9801の直接のルーツはPC-8801(無印)になります。PC-8801と言っても、今の若い人達にはピンと来ないかも知れません。Z80という8ビットCPUに、RAMが64KB、640x200で16色表示、別売の漢字ROMを付けると漢字表示も可能、というコンピュータでした。当時は「パーソナルコンピュータ」「パソコン」という言葉はまだ一般的ではありませんでした。「マイコン」なんて呼ばれていましたね。PC-9801(通称「無印98」)は、このPC-8801のCPUを16ビット化(Intel 8086)したものとして登場しました。確か定価は298,000円でした。え、案外安いって?でも、フロッピーディスクドライブが別売ですから、これだけではプログラムを作っても保存できなかったのです。で、そのドライブがやっぱり30万円位したと記憶しています。
当時はまだMS-DOSは一般的では無く、Disk BASICというOS(らしきもの)とBASICインタープリタが合体したシステムを使って、ユーザーはBASICでプログラミングをしていたわけです。当時はパッケージソフトなどほとんどありませんでしたから、パソコンを使う=プログラミングをする、だったわけです。「コンピュータが使えなければ、云々」などと喧伝され、世のおじさん連中が一生懸命BASICの勉強をしていたのも、この頃のことです。(しっかし、いつの世も変わらんというか・・・電車の中で一生懸命Javaの本とか読んでいるおじさん、理解できているんでしょうか?人ごとながら、心配になってしまいます。数年前にはK&Rの前の方を一生懸命読んでいるおじさんも見かけたことあるし(^^;))
PC-9801のN88-BASIC(86)は、PC-8801のN88-BASICとある程度互換性を持っていました。この「互換性」という言葉は、その後、事あるごとに98を苦しめます。98が産まれたときから背負った宿命なのかも知れません。1997年、誕生から15年が経って、やっとその呪縛から解き放たれる時がやってきたようです。

その後、PC-8801とPC-9801は別の道を辿ります。88はホームユースとしてゲーム用の機能を拡充させ、98はビジネスユースとして育って行きます。なにせ、98以外に日本語のビジネスアプリケーションが沢山あるコンピュータは無かったのですから、天下無敵です。日本語表示という「非関税障壁」に護られて、一種鎖国状態を続けていたともいえるでしょう。この鎖国状態は、DOS/Vという黒船がやってくるまで続きました。
この後のことは、もうあまり書く必要も無いと思いますが、黒船がやってきた後も98はがんばりました。コストダウンとPC化、互換性という十字架を背負いながら、本当によく闘ってきたと思います。そこにはNECの底力を感じます。でも、Windowsアプリケーションが主流になり、周辺機器もPCと互換性がとれるようになってきたとき、98の役割は終わったと言えるでしょう。
余談ですが、98には「あのテ」のゲームがあるからまだ安泰だ、という話は聞いたことがあるのですが、いまでも「そのテ」のゲームって98のDOS用に作られているのでしょうか?私は極めて真面目な人間(^^;)なので、「このテ」のゲームの世界は全然知りません。どなたかご存じの方、いらっしゃいましたら後学のために教えてください。

98の悲劇は、それが日本で産まれたパソコンだったことにあると思います。IBM PCにと比較して必ずしも劣っているわけでは無いと言えます。本来のアーキテクチャを比較すれば、一長一短で優劣は付け難いのではないでしょうか。私は、少なくともハードディスクのパーティションの管理は98の方が優れていると思います。

NECは98アーキテクチャのパソコンも販売し続ける、と言っていますが、早晩、ソニーのベータビデオのようになることでしょう。NECとしては、今回の発表(PC98-NXでしたっけ)は最高のタイミングでしたね。公式には「うちはPC-AT互換機を作るのではない、PC98仕様に則った新しい規格のパソコンを作るのだ」と言えますから。社内外に対するメンツの問題もありますし、ちょうどよかったのではないでしょうか。
でも、同じPC98という型番ですね。消費者は混乱するのでは無いでしょうか。NECとしてはどうしても98という名前に拘りたかったのでしょうが、ソフト等の対応機種の表示とかはどうするんでしょうか。PC98用(但PC98-NXは除く)とかするんでしょうか。うーん、解りづらい。
ちなみに、私個人としてPC98-NXが欲しいか、と問われれば、今のところパスします。キーボード・マウスがUSB接続なので、いろんなOSをインストールして遊ぶには向いていないと思いますので。

いろいろと書いてきましたが、98よ、長いことご苦労さまでした。安らかにお眠り下さい。

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